Nicotto Town



アスパシオンの弟子42 神獣 (後編)

 今から数千年前。人間が様々な超技術の兵器を駆使していたころ。

 とても小さな王国で、とある灰色の衣の導師が世にも恐ろしいものを世に生み出しました。

 神獣レイズライト。それは大鳥グライアに鋼の心臓を組み込んだ、半有機体の巨鳥でした。

 レイズライトを戦に使ったその王国は、いとも簡単に何万という敵の軍団を蹴散らし、瞬く間に

領土を広げました。

 たった一羽の巨大な鳥の圧倒的な破壊力に、大陸諸国は度肝を抜かれました。当然諸国は同じ土俵に

上がるため、われもわれもと自国に住む灰色の導師たちに神獣を作らせる、という流れに。

 こうしてどの国も最低一体は神獣を保有したという、「神獣戦争」が勃発。

 戦の命運は保有する神獣の性能で決まる――そんな時代が、かつてあったのです。

「神獣ってあまりにも破壊力が凄すぎて、マジで星がかち割れそうになったからさ、六翼の女王

ルーセルフラウレンを擁する国が大陸を統一してしばらくして、神獣凍結法が公布されたのよ。それで

何百っていう神獣が破壊されたり封印されたりしたわけさ。でもそれって、この星のためっていうより、

叛乱防止のためだよな。統一王国は、俺らが滞在してたあの天の島を作って、大陸中の人々を

監視してたぐらいだもん」

 六翼の女王ルーセルフラウレンってたしか……。

「あー、何だかそれが俺の前世だってうそぶいてるやつが身近にいるな。でも結局、一番始めに

作られた神獣が史上最強だったってことだよ。六翼の女王はあのアミーケがレイズライトに恋して、

進化改造を施したもんだもん。しっかしあの最強夫婦自身が、統一王国の帝位についたらよかったのに

な。なんで北の辺境に隠遁しちゃったんだか」

 「最強夫婦」は二人きりで、平穏穏やかに暮らしたかったのでは?

 それでかわいい娘さんをもうけてるわけですし。

 そして今この時代、神獣たちは伝説の存在。おとぎ話の中の生き物のはずなのですが。

「今も稼動する神獣を保有しているのは、北五州の金獅子家と、大スメルニアの皇家のみですよね」

 暗い坑道を歩きながら、僕は我が師に確認しました。

「金獅子レヴツラータに雷神ミカヅチノタケル。その二体だけですよね」

「うん。金獅子家とスメルニア皇家は、大陸同盟の理事やっててさ。古代遺物封印法とか古代兵器復刻防止

委員会とか仕切ってるくせに、自分らではちゃっかり保有してばんばん使いやがるんだよなぁ」

 北五州で我が師に襲い掛かっていた鉄の獅子ども。あれこそ神獣レヴツラータの眷属たちです。

 あの一般兵力を超えた力を使えるからこそ、金獅子家は大公家ながら大陸諸国でほぼ筆頭の地位にあるのです。

「それにしてもヒアキントス様が神獣を欲しがるなんて。蒼鹿家がもし神獣を使用したら、大陸諸国から

非難が殺到するんじゃ?」

「あのさ弟子。自分だけいい物もってて威張りちらしてる国と、そいつをぎゃふんといわせる国。おまえどっちに味方したい?」

「あ……なるほど」

 あのヒアキントス様のこと。ぬかりなく世論をしっかり味方につけそうです。

 風送り隊の二人によれば、ヒアキントス様はすでに寺院で長老になっており、最長老となるのは

時間の問題だとか。

しかも自分が意のままにできる導師を、金獅子家の後見に据えたそうです。

「まあ蒼鹿家のヒアキントスにしてみれば、『金獅子家を倒したい』。これに尽きるわな」

「なんでそんなに金獅子家を目の敵に?」

「そりゃおまえ、かつて蒼鹿家が保有してた神獣は、金獅子レヴツラータに一瞬で噛み砕かれちゃったっていう

アレだもん。史上最弱の神獣、青鹿アリン!」

 え。アリン、って、あの蒼鹿家の紋章の鹿ですか? 

「嫌だろぉ? 自分の国の神獣が、戦闘数値ゼロで、『最弱で超有名』だとか、激しく嫌だろぉ?

そりゃあ強い神獣手に入れて、見返したくなるわ」

「戦闘数値?」

「あ。弟子は『ラ・レジェンデ』で遊んだことないんだっけ?」

 ないですよ。でもそれ、神獣戦争を模した、遊び札のことですよね。大陸の歴史が覚えられるっていう高級玩具。

「ごめん、注文製造しかしてないんだったわ。持ってるのは、貴族の子ぐらいか」

 ええ、立派な木馬とか象牙のチェスセットとかと同じですよね。お金持ちの子の玩具として有名ですよ。

「俺は実家で遊んだし、寺院でも師匠があの遊び札のセットをそっくり俺にくれたんだよ。あの人もともと

スメルニアの皇子だったから、そういう珍しくて高級な玩具をわんさかもってたの。エリクの野郎とその札で

よく遊んで歴史覚えたわ。全三百五十枚中五十枚、自由に自分の手札を組みあげて対戦する。最強札は

竜王メルドルークと六翼の女王ルーセルフラウレン。そんで最弱のゴミ札は、ぶっちぎりで青鹿アリンなんだよ」

「ご、ゴミ?」

「だってアリンの能力って『満月の晩、金獅子レヴツラータに愛を告白する。拒否られた上ひと呑みで喰われて、

プレイヤーは即敗北』ってのよ。わけわかんねーだろ? まじで使えねーだろ? ほんとゴミ」

 我が師は大仰に肩をすくめました。

「史実を忠実に再現ってのがコンセプトだから、そういう設定なんだけど、手札には絶対入れないよな。エリクの

野郎と遊んでて『なにこれ失恋で自爆ぅ? きもっ!』ってアリンの札見て二人で爆笑してたら、メルちゃん――

当時まだ導師になってなかったヒアキントスがさ、柱の影でぐしぐし泣いてたわ」

 ……。

 あの、お師匠様。僕、今一瞬思ったんですけど。

 あなたたちデリカシーのない兄弟弟子が、ヒアキントス様が抱いた野望の、そもそもの根源なのでは、

ないでしょうか……。

「でも俺もさ、あいつの気持ちちょっと分かるわ。俺の実家の白き鷹アリョルビエールも、

かつてレヴツラータにやられちゃってるから」 

 でもそれでも、青鹿アリンよりはかなり強かったのでしょう。我が師ったら余裕の笑みを浮かべていますから。

「でも史実を再現って、本当に蒼鹿アリンは金獅子レヴツラータに告白したんですか?」

「弟子よ、北五州にはだな、『アリンの恋歌』っていう有名な流行歌があるんだ」

 歌? あ! まさかそれって。

「それ、アリンがレヴツラータに愛を告白するものの、フられて食べられちゃうっていう歌詞なんだよな」

 もしかして、風送り隊が必死に歌うなと身悶えていた歌じゃないですか?

「うんそう。実は蒼鹿家が統べる州には、アリンを讃えるかっこいい軍歌がある。でも北五州の民はだな、

アリンの歌といえば、みんなあの「失恋歌」の方を思い出す。なぜかってえとその昔、金獅子家が

蒼鹿家の評判を落とすために作らせて、北五州全土で流行させたから。アリンは牡鹿のはずなのに、

乙女な牝鹿にされちゃってんのが悪意満々だよなー」

 うわあ……。それを蒼鹿家ゆかりの人たちの目の前で歌うなんて。そりゃひどい拷問ですよお師匠様。

 ていうか、北五州の大公家同士の争いって根が深いっていうかすごくこわいですね。

「それはそうと弟子、緑虹ガルジューナはかなり強い札だったぜ」 

 我が師はふと立ち止まり、ふりかえって僕に言い含めました。

「エリクの野郎がいつもその札とルーセルの札を組ませてコンボしてたわ。だから油断するなよ。

ヒアキントスが目を付けたってことは、つまりそれなりの神獣ってことだろうしな」

「……はい」

 

 僕らは監督官に見送られながら、鉱山の最奥から少しはずれた、細い坑道へ入っていきました。

 わずかな光のまたたきひとつない、漆黒の闇の中へ。

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2015/05/27 21:29
神獣とは核兵器のような…
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2015/05/09 19:49
先に見つけ出す事ができるんでしょうか?
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2015/05/02 21:09
夏生さま

読んでくださってありがとうございます><
書きたいことが多くて字数内に収まりきらず……という状況でした;
なんとか簡潔になるよう努めましたが、推敲はいつも悩みます。
遊び札で語る大陸史は面白そうで、ついつい詳細を考えてしまいます^^





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2015/05/02 21:06
紅之蘭さま

読んでくださってありがとうございます><
歴史好きゆえこういう政治的な駆け引きを
もっと精密に面白く描ければなぁと日頃から思っています。
いつか知恵が拮抗する戦記物とか、書いてみたいです^^


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2015/05/02 21:05
よいとらさま

読んでくださってありがとうございます><
即敗北とかありえないですよね;;;
おきらくさんへのレスにも記した通り、コレクターズ・カードとして
ネタ的に作られたのだと思われます。蒼鹿家をディスるために^^;
つまりラ・レジェンデのもともとの製造元は
金獅子家がスポンサーかなにかだったのだと思われます。 

でも「金獅子に恋した」は、実は事実だったりします;
蒼鹿が金獅子に喰われたのは、互いの愛が噛み合わせよく具現したのだと思われます。
「金獅子:こいつかわいい=喰いたい
 蒼鹿:この人好き=この人の一部になりたい」
ともあれ。
ラ・レジェンデはタロットみたいに占いにも使われたようで、
アリンは占いにおいては「自己犠牲」や「無私の愛」といったものを
暗示するカードになっている……という救済設定を急遽設置しました・ω・>
しかしそれが語られる日は来るのか^^;
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2015/05/02 20:56
おきらくさま

読んでくださってありがとうございます><
アリンはかなりあんまりな「能力」ですよね……
カードの種類的にはコレクターズカードの部類、
完全にレアなネタカードです。

しかし史実的には……
アリンにとって、金獅子に喰われることは最大の救いでした。
本人が、そう望んだからです。
つまり「金獅子に恋した」というのは実は事実です。
でもアリンを保有していた蒼鹿家はその事実を認めたくなくて、金獅子家が作った歌や
それにもとづいて作られたカードの能力設定は「捏造」だと主張しています。

ラ・レジェンデはタロットみたいに占い遊びとかにも使われたようで、
アリンは占いにおいては「自己犠牲」や「無私の愛」といったものを
暗示するカードになっている……という救済設定をつけてみます・ω・>

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2015/05/02 20:24
優(まさる)さま

読んでくださってありがとうございます><
これから師弟大活躍! で大団円! へ持っていければよいのですが……
思い描く着地点まで頑張ります・ω・>
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2015/04/28 17:46
今晩は!

内容の凝縮した章ですね。(・・||||rパンパンッ
歴史を解き明かすカードそして現在に至る因縁。
このテーマだけで分厚い1冊の本になりそう。

次作がワクワク・ドキドキの楽しみです。

m(_ _)m
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2015/04/26 14:12
物語の歴史が語られてゆきます
坑道の奥に例の動産物件が隠されていそうな雰囲気
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2015/04/26 08:43
おはようございます♪

「ラ・レジェンデ」欲しいです^^;

即敗のカードってもの自体が珍しいですねぃ。
使うとすれば、カードに次回のバトルで有利になる条件を何か付けて、
敗色濃厚な場面で戦略的に敗北するときくらいですかねぇ^^;

でも、お師匠様が「まじで使えねー」と言うのですから、
実際には無条件敗北なのですね^^;

神獣を造り
神獣を競い
神獣を歌う

暗闇の先にあるものは・・・

この先の展開がとても楽しみです。
いつも楽しいお話をありがとうございます♪
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2015/04/25 09:21
>満月の晩、金獅子レヴツラータに愛を告白する。拒否られた上ひと呑みで喰われて、プレイヤーは即敗北

なんか、救いが欲しいな^^;
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2015/04/24 21:34
カテゴリ:音楽
お題:春に聞きたい音楽

蒼鹿家出身の風送り隊の二人にとっては禁忌ですが^^;
アリンの恋歌は大変ポピュラーな歌謡曲でとても美しい歌らしいです。
今回は歌も政治的プロパガンダに利用されてしまうという恐ろしい話でした><


文字数の都合ではしょった場面↓

それから我が師は鉱山の最奥に行きつくまでえんえんと、
「ラ・レジェンデ」の札遊びのことを懐かしげに話しておりました。
 白鷹の「鉤爪」を赤豹の「疾速」で四倍かけにして禁呪韻律札で
「転生ソウル」にして竜王メルドルークの「守護霊」としてひっつけたら、
ルーセルフラウレンなんて一発で沈む――とかなんとか、
僕にはわけのわからないことをぶつぶつと。
そしてお終いには、鼻歌まで歌いだしました。
 それは白鷹アリョルビエールがレヴツラータに一矢報いた闘いの勲詩だというのでした。
「俺の故郷の歌だよ。国歌だったけど、実家は王家から大公になったから今は州歌だな。
俺、実家は大嫌いだけどこの歌はかっこよくて大好きなんだぜ」
  
 銀の鉤爪それこそは 炎引き裂く正義の剣
 白き翼それこそは  虚空に輝く王者の歌
 永き冬を溶かすもの それこそは
 アリョルビエール  偉大なる汝の息吹 

それはあたかも行進曲のようで、心わき立つ曲相でした。

※北五州では紋章となっている神獣。
 愛国心、国民のアイデンティティを顕すもののようです・ω・
アバター
2015/04/24 21:21
平和な余はまだ先ですね。

これからどうなるのですかね。




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