Nicotto Town



アスパシオンの弟子43 告白(前編)

「あれ?」

 監督官と別れ、神獣を求めて鉄鉱山の奥に入った僕と我が師でしたが。

 道はいつしか登り坂。しかも先の通路に射しこんでくるのは、とても明るい日の光。

 これはもしや、道を間違えた?

 風送り隊が王宮で調べ倒したいくつもの古い記録。そのひとつには神獣封印の場所を記した記録もあり。

我が師は黒い衣の懐に、その地図をしっかり入れてきたのですが。

「これ古いからなぁ。坑道いっぱい増えててわけわかめだぜ。鉱山管理官も間違えたかね?」 

 地図を広げ、ぼりぼり頭を搔く我が師。

「ひとつ上の階層で別れたとき、しきりにこっちだって言ってましたよ。わざとここに誘導されたのでは?」 

 ため息混じりに首を振る僕。

 管理官の反応から、大丈夫だと判断したのに。相手の方が一枚上手だったのでしょうか。

 前方の明るさに目を細めて進むと、いきなりフッと視界が広がり。僕らは広大な露天掘りの

大空間に出ました。

 真っ青な晴天の空に広がる、真っ赤な段々の円を為す岩層。

 眼前に迫るのは、あたかも円形競技場のような、きれいに層をなしたすり鉢のような形の鉱石採掘場です。

掘削機械が段々の層のそこここにあり、トロッコに乗せて鉱石を運ぶ人々であふれています。

僕らとおなじ一番下の層にいくつもの穴があいていて、流れてきたトロッコが足繁く出入りしています。

「作業場に誘導されたってことは……」 

「ここで待ち構えてる輩がいるとか?」

「お、あれか?」

 我が師が指さしたのは僕らのすぐ目の前。五、六人の男たちが一塊になってこちらにゆっくり近づいて

きます。僕らは出てきたばかりの坑道に退避しました。敵と思しき者どもはやはりしっかり追いかけてきました。

 黒覆面? あの身なり、フィリアをさらおうとした一団と全く同じじゃないですか。

「お師匠様、風送り隊の二人はたまたま大商人フロモスに雇われたわけじゃないんじゃ?」

「かもな。ヒアキントスは、風送り隊の二人を、自分の息がかかってる奴のとこに送り込んだってことか。

そんでフロモスに命じて、神獣を回収させようってわけね……って、おい弟子、なんで立ち止まってんの?」

「防御結界張ります。お師匠様はその隙にできるだけ逃げてください」

「はぁ? 弟子、俺を誰だと思ってるの? 俺が守ってやるから、さっさとお願いしなさい。ほら早く。あ、

ハヤトって呼んでね。ウサギ口調で頼むわ」

「う、ウサギ口調? 『ハヤト、おいらを助けて』、とか言えってことですか?」  

「うんうん、それ。でもさ、もっとこう、かわいくお願いしてほしいな」

 このクソオヤジ、切羽づまってる状況で一体何を言い出すのだか。

「『お願いハヤト』とか、言えってことですか?」 

「あとひと声。ほら、一発で俺を動かせる言葉があるでしょ? ほら。あい。あいー」

「……『あい』……『して』……『る』、ですか?」

「それ! 今すぐそれ言って」

「やです」

「弟子ぃ、ここまできてそれは――」

「バカなことほざかないで下さい」

 ともかく防御結界をと、僕が後ろを振り向き、右手を突き出すと同時に。ひゅん、と黒覆面団から

小さな短剣が投げつけられてきて、僕の頬を掠めました。

 そのとたん――。

「う? うああ?! 俺のペペに何するんだごらあああああ!」

 我が師は鬼の形相に豹変し、僕を押しのけて黒覆面団に右手を突き出しました。

『風と光の封印を! 戒めよ! アペリオンの波動!』

 うわ、最上級結界じゃないですか。光の壁が黒覆面団の四方に屹立。敵は輝く結界の中に閉じ込められ……。

「消し炭にしてやらぁあああ!!」

「待ってください! 生け捕りにして、彼らから情報を聞き出――」

『来たれ神の息吹! 汝の頭上に光り輝く冠をいまここに載せたもう! 魔人・ぶうううううとるのっそっすうううう!!』     

 え?! ブートルノッソス? それって、伝説の大会戦用炎爆韻律じゃ?

 それは光球で大気を急膨張させ、破裂させるという空気爆弾。あたかも魔人を召喚したかのように

周囲が吹き飛ぶので、おとぎ話に出てくる魔人の名前で呼ばれています。効果範囲や爆発力が

はんぱではなく、禁呪扱い。僕は実際に見たことがなく、記録の中で知っているだけ。

 とある戦で平原での白兵戦になった折に、とある伝説の黒の導師がぶちかまし、一個師団を吹き

飛ばした韻律なのですが。

「吹き飛べええ!!」

 うわ、やっぱり。我が師ったら結界の中で、その空気爆弾を炸裂させちゃいました。

 敵は、一瞬で全滅。中の物だけでなく、結界そのものが爆発に耐え切れず吹き飛んで。

う、うわ。て、手足とか、ばらばら……?

 周りの岩層にも亀裂が走って、壁がかなり崩落しています。

「お、お師匠様、禁呪なんていくらなんでも――」

「ぺぺ、無事か? 傷見せろ!」

 大丈夫ですってば。ちょっと、肩つかんで抱きしめるとかなんですかそれ。

「ちくしょうあいつら! 俺の弟子に何しやがる!」

 落ち着いてくださいよ。あの僕、死にませんから。ほら、僕はメニスの魔人なんですよ? オリハルコンの

服を着てても、死ねないですから。

「弟子、この機会にきっぱり宣言しとく。あのな、俺さ……俺もさ……おまえと同じ魔人になるよ」

 我が師は突然僕の頭をぽんぽんと撫でて、真顔でとんでもないことを言い出しました。

「俺もアミーケに変若玉(オチダマ)もらう。弟子と一緒に仲良く永遠に、『魔人ライフ』送る」

 はい? な、何言ってるんですか?

「ずっと考えてたんだよ。おまえが魔人になってからこっち、俺とおまえの幸せラブラブ生活を

どう築いたらいいかって」 

 し、幸せラブラブ?

「俺だけ何度もいちいち女の子に転生するなんてメンドクサい。女の子に転生してからアミーケに

変若玉もらえるって確証はないだろ? 記憶の問題があるし、何よりアミーケが出し渋る。 

だから言うこと聞かせる力を持ってる今がチャンスだよな。てなわけで、このまま男同士のままでも

いいかなって気が最近してきたのよ」

 男同士……いや、それよくない。よくないですよ!

「そういう嗜好ってこの世にちゃんとあるみたいだしさ。要は、慣れじゃね?」

 いえ、おかしいですよ。それは断固やめましょうよ!

「ってことで、王宮に戻ったら速攻でアミーケから変若玉を搾り取ってだな、魔人になるわ」

 勘弁して下さいよ。いやですそんなの。思い直してください!

「おまえのしんどい境遇……それを見るだけで、俺には恐ろしい拷問だった。でも俺も魔人になったら、

そのしんどさを共有できる。おまえの辛さを半分こできる」

 我が師は僕をギュッと抱きしめました。 

「ペペ、俺、おまえをひとりにしない。俺もおまえとおんなじものになる。それが師匠である俺の勤め。つぐないだよ」

 つぐない、って!

 バーリアルに乗り移られていたとはいえ、我が師は僕を殺してしまったことを大変に気に

しているのでしょう。つまり僕が魔人になってしまったのは、自分のせいだと責めているのです。

 その気持ちは解ります。その気持ちは、大変ありがたいです。

 でも。

 責任とるために、魔人――いやその、○○になります!?

 勘弁して下さい!!

 僕は叫びました。声を限りに叫びました。我が師を押しのけて。

 

「い、いやです! 困ります。とっても困ります!!」


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2015/05/12 23:28
いろんな愛の形がありますからねww
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2015/05/09 10:17
スイーツマンさま

読んで下さりありがとうございます><
そういえば、どこぞの動物園でペンギンくんの同姓カップルがいるというニュースを見た覚えが……!
竜の裔……もしかして恐竜にも、そんな習性があったりして……@@;

>許す
ありがとうございます><
師匠は小躍りして喜ぶでしょうw
しかしウサギは怒るでしょうw
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2015/05/09 10:09
優(まさる)さま

コメントをありがとうございます><
もう性別どうでもいいとか迫られても、本当に困りますよね^^;
弟子はどう切り抜けるんでしょう。
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2015/05/04 16:45
男同士。鳥にはホモセクシャルが存在します。なんと竜の末裔が……
師匠とペペ……君たちなら許す!
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2015/05/03 05:41
これは本当に困ったお話ですね。




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