上の方々-もののけ王子(1)
- カテゴリ:自作小説
- 2015/05/03 09:20:12
今ではない時、ここではない、別の世界。
人間は同じ過ちを繰り返すかのように
大いなる自然を、自らの手中に納めようとしていた。
「神獣」と呼ばれる狼種族が、山々を守り、水を浄化していた。
当時のアルサイエスは「モーゼス」と名を付けられ、そんな神獣の一人だった。
町の近くの広大な平原に遊びに行ったとき、名前の思い出せない少年と出会う。
その少年が今で言う、スパーキーだ。
モーゼスとスパーキーは日々遊び、もしくは
モーゼスがスパーキーに剣の稽古をつけていた。
人型になる能力を持った狼の神とはいえ、
彼らは人と獣の境界を超えて、人と神の境界を超えて、友人として誓い合う。
モーゼスはスパーキーに誓う。
その黄金の鈴が鳴った時、自分が駆けつけて、その身を危険から守ると。
スパーキーはモーゼスに誓う。
その銀の鈴が自分自身であり、いつも、いつまでも君の心を癒し続けよう、と。
二つの鈴を、交換しながら。
いつものように平原で遊んでいた二人は、迎えに来たスパーキーの母親に、共にいる姿を見られ、引き離された。
もう二度と関わるものではない、と。 神獣は敵なのだと。
山々を切り崩し、人の居住区を増やしていくためには
神獣から広大な自然を奪う必要があるのだから、と。
そうして、鈴も取り上げられた。
人々はこの時、まだ知らなかった。
神獣と呼ばれるこの角ある狼たちが、水の化身であり、人々の飲み水を綺麗に保っている事を。
「神獣の遠吠えを聞くと気が狂う」 とまで語り継ぎながら
人々は次々と角ある狼たちを狩り殺し
とうとう、生き残りはモーゼスだけになってしまった。
この頃既に、水質の浄化が間に合わず、人々は飲み水に苦しむことになってしまったが
それでもまだ、神獣と水質との関連性には気付いていなかった。
モーゼスとスパーキーの付き合いは、スパーキーの純粋な気持ちからだ。
人間に追い立てられ足を踏み外したモーゼスは、そのまま崖から転落し、傷だらけになっていた。
それをたまたま見つけたのがスパーキーで、彼はこっそりと小さな狼を安全な場所に匿い、できる限りの手当てをし、同じくこっそり家から食物を持ち出し、モーゼスを食い繋がせる、そんなところからだった。
スパーキーは自然を愛し、一方的に殺生し山を切り崩すことには、子供心ながらに反発していたので、これらはごく自然な行動となって現れている。
引き離されてからのスパーキーは、モーゼスに教わった剣術を生かそうと、思春期頃から国に兵役し、、、
数年後、「人間の姿」で、人間にすっかり馴染み、人であると偽って剣術講師になっているモーゼスと再開する。