アスパシオンの弟子 44 恋慕(前編)
- カテゴリ:自作小説
- 2015/05/09 08:47:17
炎を吐く生き物というと、竜をまっさきに思い出します。
竜はこの大陸にかつて本当にいた生き物らしいのですが、今は影も形もありません。
寺院の図書館で見た絵本には、竜がカッと口を開けて炎を吐いてる絵があったなぁ……と、
のんびり想起する僕と我が師の周囲は――今、燃え盛る紅蓮の炎で真っ赤。
でも僕らは、ひょうひょうと涼しい顔。
上下四方の空気を遮断する、という我が師の高難易度な結界で守られているからです。
この蛇のガルジューナ、火を吐くってことは竜の眷属なんでしょうか?
「お師匠さま、蛇と竜って生物学的に近いんですか?」
「いやぁ全く違うだろ」
お師匠様があほんと鼻をほじりながら仰いました。
「蛇は全くの爬虫類。遺伝子に混ぜ物なんてない。竜はな、メニスが、この大陸にウジャウジャ
いた恐竜を、めっちゃ遺伝子改造して作った混合生物(キマイラ)だからな」
へええ、メニスが作ったんですか。火を吐く強力な戦車みたいな感じで使役したとか?
「いや、飛ぶための乗り物としてだ。火を吐くのは竜王とかさ、神獣として作られた
奴だけらしいぞ」
竜は全部火を吐くものだと思ってましたが、違うんですね。
「うん、息吹(ブレス)は兵器として人工的に付与された能力さ。しっかしこの火炎噴射、いつまで続くの?」
箱が置かれた台座の周囲から噴射されている炎を、我が師はうんざり顔で眺めました。
「弟子、消すぞ。低音波伝導して」
「はい!」
僕らは結界の壁に手を当てて、とても低い声で韻律を歌いました。
とても低い音律を結界に流してやると。結界はぶるぶると震えだし、僕らの声音と同じ
低い音を放ちました。
すると。
部屋中に燃え盛る炎が、たちまちフッと消え去りました。
燃える、という現象は、燃える物質が酸素と反応して起こるもの。
低音で空気をかき乱して、反応が盛んに起きている境界層を薄くし、酸素の供給を断ってやれば――
「よっしゃ消えた」
「あ、でもまた」
「うへええ」
少しの間を置いて、台座から再び炎が噴射されました。
我が師は、めんどくさげにぼりぼり頭を搔きました。
「入り口は遮断されてるし狭い部屋だから、すぐに酸素不足で消えると思ったのに」
「燃料と一緒に、酸素も送りこんでるんじゃないですか?」
「だよなぁ。しかもずっと噴き出てるってことは、その燃料が無尽蔵っぽいよな」
「これ、ガルジューナさんに機嫌直してもらうしかないんじゃないですか?」
「機嫌? まさかおまえ、蛇が怒ってるとか思ってるわけ?」
僕は風送り隊が調べたという古い記録の文言を述べました。
「『竜王メルドルークの夫になることを望んだ』ってことは言い寄ったってことでしょう?
普通に感情あるじゃないですか」
「神獣が乙女チックに恋心ぉ? ないわー」
我が師は、いきなり大げさに笑い出しました。
「そういや、ラ・レジェンデの札の説明文でもさ、ガルジューナは竜王の恋人っていう
設定になってたけど、ないわー。その記録の文言の真意は大方、『ガルジューナは竜王に
似た能力を付与された』ってことじゃねえの? ほんと、ないわー」
「ないわー」を強調しながら、我が師は台座の上にある箱をちらちら見やりました。
「だって神獣って、半分機械の兵器だぜー? ベースになった生き物の魂の働きは、抑制
されてるはずさー」
「でも六翼の女王は、灰色の導師の奥方になったじゃないですか」
「それはな、アミーケが自分好みにレイズライトを改造したの。自分を愛するようにな」
我が師はふるふると大仰に頭を振りました。
「でもそいつは珍しいケースだろうよ。兵器のくせに、私あなたを愛してますぅ?
結婚してくださいぃ? いやいや、ないわー。それないわー。超きんもー」
あ、あの、お師匠様。は、箱の蓋が……
「へ? 弟子、なに指さしてんの? わーお! なにこれ、台座の箱勝手に蓋開いてるじゃん。
うわぁ! 飛んできた! 心臓飛んできたー!」
結界をも突き抜けるおそろしい蛇が、カッと口を開けて箱から飛び出てきました。
憤怒の声をあげながら。
『感情がないだと?! 兵器のくせに、だと?! 我が眠りを妨げておきながら、何たる言い種か!』
――『沸き起これ! 光と風の加護!』
すかさず。我が師は結界の中に幾重にも結界を張りました。
しかし蛇はぎりぎりと光の膜を食い破ってきます。恐ろしい勢いで我が師に食い
つこうとしています。
「お師匠様! ちゃんと心があるじゃないですか! めちゃくちゃ怒ってますよこれ!」
「弟子、箱を確保しろ!」
「はい?」
「早く!」
僕は我が師にどんと押され、一瞬わずかに開かれた結界から出されました。炎の放射は……
なんと止まっています。 どうやら台座に心臓がなければ、作動しないようです。
言われるままに、僕は台座からずしりと重い四角い箱を抱き下ろしました。
『やめよ! 我が寝床をなんとする!』
小さな蛇がぐるりと態勢を変え、僕に飛びかかろうとした瞬間――。
『沸き起これ!』
我が師の韻律で、僕の目の前に光の結界が幾重にも屹立しました。
その光の壁は球形に変形し、蛇をすっぽり取り囲んで光の中に閉じ込めました。
『箱を台座に戻せ! 今すぐ!』
叫ぶ蛇に、我が師は勝ち誇った顔で仰いました。
「その箱、ガルジューナさんの心臓保護膜でしょ? こうやってお外に出ていられる時間って、
実は長くないんじゃない?」
さっきわざとらしく我が師がげらげら笑い飛ばしたのは……怒らせて箱の外に出させる
ためだったようです。
『黙れ! 我が干からびる前におまえらを食い破る!』
「へへ、ムリムリ。俺、超すごい導師だから」
怒れる蛇を囲む光の球の膜がどんどん重なっていきます。
幾重にも。幾重にも。怒り狂った蛇は球の中で暴れ回り、ものすごい勢いでばりばり膜を
食い破っていますが、我が師の結界を作る速度には追いついていません。
まさか我が師は、時間稼ぎして蛇の心臓を殺してしまうつもりでしょうか?
ヒアキントス様の手に渡らないようにするには、確かに一番手っ取り早い方法ですけど……。
我が師が倒した黒覆面団の無残な有様が、僕の脳裏によぎりました。
目を細める我が師の口元は、いまや悪魔のように引き上がっています。我が師はまた、
容赦ないことをするつもりなのでしょうか。
数分もしないうちに、光球の中の蛇の動きが鈍ってきました。ぶつぶつ罵り呪ってくる
蛇の声がか細くなってきて。動きがだんだんゆるやかになり。びくびく痙攣し始めて……
「や……やめてハヤト!」
命が消える。
そう思った刹那――僕の口は勝手に動いていました。
「弟子?」
「お願いします! 殺さないで下さい!」
きょとんとする我が師から、僕は瀕死の蛇に目を向けました。
「ガルジューナさん! 僕らは、ここからもっと安全なところにあなたを移したいだけなんです!
それは悪党が、あなたを狙ってるからなんです!」
僕は必死に叫びました。
目の前でもう、命の灯し火が消えるのを見たくなくて。
「お願いです! どうか僕らと一緒に来て下さい!」
若かった頃は 高濃度アルコール飲料をクチに入れ ライターをクチの前に持ち 噴射したら
ゴジラ気分にナレタでぇ ( ^^<炎炎炎
たまーに 蚊の群れを標的にシタ
※ タバコ ゼンソク持ちじゃから 吸いまへん 吸えまへん
読んでくださってありがとうございます><
竜・龍。伝説の生き物の起源の考察、とても興味深いです^^
ぺぺ:「蛇と竜って同じ種類?」
師匠の答え「ぜんぜんちがーう」
師匠は非常に科学的で合理的な見地から回答していますが、
これは特定の信仰を持つことを許されない導師であるからで、
宗教的な概念が全くないからです^^;
この大陸の人間は、実は一万数千年前に地球から移住してきた人たちなので、
地球における「竜・龍」とほぼ同じ概念を継承しています。
メニスの改造生物を見た時、人間たちはその生き物に「西洋の竜」の概念をあてはめました。
そして神獣時代には自分たちも想像上の西洋風の竜や東洋風の龍を
遺伝子改造で作りまくっています^^
緑虹のガルジューナは師匠の言う通りDNA的には完全に蛇ですが、
実は龍の称号を持たされている神獣です。
虹は龍の一種である、という古代中国の概念や、
東洋起源の、神力のある蛇=龍という概念を、
この蛇を作って保有した国の人間が持っていたからです^^
コメントをありがとうございます^^
普通の消火器や水のように回りのものをダメにしない、というのがいいですよね。
人体への影響、どうなんでしょうね。これからいろいろそういうところも
実験されるのかなぁと思います。
コメントありがとうございます^^
音波消火器、消防署や各施設で重宝がられそうですよね。
いつか各家庭のデフォルト装備にもなる・ω・?
なるほど、この世界の龍は、遺伝子捜査でできた生物だったのですね
かつて個人的に気になって龍とはなにか、調べたことがあります
龍について
西方起源論と中国起源論があります。西方起源論はメソポタミアのグリフィンが原型じゃないかというもの。中国起源論は、殷代以前、中国大陸は森林に覆われ湖沼がいくらでもあり、クロコダイルタイプの鰐がいたそうです、しかし屈原の『楚辞』に記され、近世中国の挿絵に描かれた『山海経』の龍は脚の長い翼竜でグリフィンにかなり近いです。また釈迦の悟りを守護したインドの半人半蛇のナーガは龍と訳されることになりますが、中国版アダムとイヴである伏義・女禍の兄妹神はナーガによく似ています。
音波ですから、人に影響が出るかも知れませんので、避難だけさせれば良いかも知れませんね。
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http://japanese.engadget.com/2015/03/29/sonic/
アメリカの大学生が発明したそうです。