アスパシオンの弟子44 恋慕(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2015/05/09 09:50:29
『断る! おまえたちがその悪党ではない確証がどこに……!』
蛇は当然の反応をしましたが。ホッとすることに――
「仕方ないなぁ。俺の弟子はほんと、優しいんだから」
僕の言葉で、我が師の顔からたちまち残酷な笑みが消え失せました。
「じゃあ弟子、ガルジューナさんはあきらめて、俺達だけで竜王メルドルークのところに行くか」
「は?」
『なん……だと?!』
光の球の中で、蛇が大きくわななきました。
「俺達、悪党を倒すために助力を乞おうと、竜王の処にこれから行く予定でして。それで
ガルジューナさんも一緒に来てくれたら、鬼に金棒かなぁと」
な、何言ってるんですかお師匠様? そんな嘘っぱちこくなんて。
『あの御方の、魂の居場所がわかるのか?』
え? 食いついてきた?!
や、やはり神獣ガルジューナは、記録の通り竜王のことが……?
『おまえたちについていけば、あの御方にまた会えるのか?』
しかし我が師は蛇を無視して、僕を手まねきしました。
「弟子、引きあげようぜ。竜王の力だけで、世界はきっと救われるさ」
我が師が遮断された扉をぶち抜こうとするそぶりを見せると。
『待て! 我を、あの御方のもとへ連れて行ってくれ!』
蛇は、叫びました。とても切ない声で。
『頼むから、会わせてくれ! あの御方に!』
竜王メルドルーク。
大陸中に名を知られているその神獣は、神のごとき力を持つと歌われる伝説の巨竜です。
大陸の覇権をめぐって国々が争っていた時代の終りに、七日七晩の大戦争の末、六翼の女王
ルーセルフラウレンが辛くもこの竜を倒したといわれています。
その「大決戦」の話は大変有名で、おそらく大陸中の誰もが知っているでしょう。僕も寺院の絵本で
見ただけでなく、幼い頃実家で話を聞いたおぼえがあります。
しかし、数千年前もの昔に塵と化し、その魂は輪廻しているかどうかも解らない竜王に会いに行く?
そんな話に、蛇が乗ってくるなんて。
我が師が同行を承諾して結界を外してやると、蛇は弱々しく動いて箱の中に大人しく納まりました。
蛇は箱を台座に置けといいました。そこに置かれなければ、体を動かせないというのです。
蛇は大きな本体を動かして、竜王のもとへ馳せ参じる気満々でした。
永い時間稼動を停止していた巨体を動かすのは、不可能では?
そう思いつつ、十分警戒しながら試しに箱を台座に置いてみると――
とたんに、足にかかる重力が変になり、浮き上がる感覚がしました。
恐ろしい速さで下降しているようです。それから床がぐわんとななめに動き、僕らはよろけました。
「うわあ、嘘だろこれ」
さすがの我が師も眼を剥き仰天。蛇は上機嫌に笑いました。
『我の体は半永久の耐久性を誇る。眠っている間も、最低限の血を体内に巡らせていた。さあ、
あの御方のもとへ参ろうぞ』
しかし突然、蛇の動きはがくりと停止。あまりの唐突さに、僕らはつんのめりました。
『おのれ! 地の動脈への道がふさがれている』
古えのメキド王家は周到に、蛇が目覚めても鉱山から逃げられぬようにしたようです。
蛇が言うには、地の底には「地の動脈」という太いトンネルのような道が網目のように走っており、
普段――つまり蛇が活躍していた時代には、そこを通ってメキド国内のあらゆる場所へ移動したそうです。
その動脈への入り口が分厚く塞がれていると、蛇は愚痴りました。
やはり心臓だけ移動した方がいいのでは?
我が師がそう説得にしましたが。
『この体なしで、あの御方に会うことなどできぬ!』
蛇は聞く耳を持ちませんでした。まるで、着ていく服がないから舞踏会にいけないとだだをこねる、
年頃の女の子のように。
『丸裸であの御方に会うなど、そんなはしたない真似はできぬ!』
蛇はがつんがつんと、封鎖された穴に幾度も突撃をかましました。僕らはそのたびに狭い部屋の中で
跳ね飛びました。
竜王に会いたい。
一心に想う蛇の執念の激しさに、僕はたちまち不安になりました。
まるで乙女のような蛇に、竜王のことが口からでまかせだなんて知れたら……。
僕の微妙な顔を読み取った我が師が、苦笑して頬を搔いています。
とっさに言い出しちゃってどうしよう? というような表情です。
でも、さっきの悪魔のような残酷な顔よりは、ずっといい……。
蛇は必死に幾度も我が身を打ちつけて、ついに――封印の扉を打ち破ってしまいました。
めき、と音を立てて部屋の入り口付近にひびが入りました。
我が身を省みずに無茶をして、蛇は傷を負ったのでしょう。
『さあ、あの御方の魂の居所を教えろ』
我が師は、無邪気にはしゃいでいる蛇に答えました。
「ええと、それは……前人未到の地でして。そこへ行く前にメキドの王宮に
寄ってくれませんか?
そこへいたる地図が王宮にあるんですよ」
承知した、と蛇は地の動脈の中を滑るように進みました。
途中幾度も道が塞がっているところがあったようで、蛇はその度に恐ろしい勢いで何度も
我が身を打ちつけ、強行突破しました。
部屋の入り口のひびが、いくつも増えていきました。じわじわ、体液のようなものも染み出してきています。
蛇の体は、もう満身創痍なのではないか。
小部屋の中で跳ね飛ばされるたびに、僕は心が痛みました。
「そんなに、会いたいんだ……」
「弟子? ちょ。ちょっと?」
「ばか! お師匠様のばか!」
「弟子? な、泣いてる、ぞ?」
「うるさい! 何であんなこというんですか。人でなし!」
大好きな人に会わせてやる。
ひどい嘘です。とってもひどい……。
「弟子、落ち着け」
我が師は僕の口を手で塞いで僕の叫びをおしとどめました。それから僕らの周りに結界を張って
音が漏れないようにしてから、こそっと、こんなにてきめんに効くとは俺も思わなかったと言いました。
「ラ・レジェンデの札の説明な、神獣のだれそれがあの神獣を気に入ってたとか、犬猿の中だったとか、
そんなのが多かったわ。だからもしかしてって口にしてみたが、神獣って噂以上に人間臭いんだなぁ」
「むがー!」
「心配するな」
我が師は僕の頭を宥めるように撫でてきました。
「蛇は、主人の言うことを聞く」
主人。というと……。
「メキドの真の王。正統なる後継者。だから王宮に連れていってだな、びしぃとトルナート陛下に話つけて
もらえばいい」
メキドの王その人が相手なら、蛇はおとなしくなる……のでしょうか?
『王宮へついたぞ』
体感的に一刻もしないうちに、いきなり蛇の動きが止まり。小部屋の入り口――すなわち蛇の口が
ゆっくり開かれました。
僕らは息を飲みました。
入り口から見えたのは。目にも鮮やかな真っ赤な鉱物が、一面ひしめく空間――。
「王宮の地下に、こんな空間が?」
「いやここ、今の王宮の地下じゃなさそうな気がするぞ」
外に出た我が師はしゃがみこんで赤い鉱物をのぞきこみました。 その鉱物は
蛇の体から発する淡い光を受けて、輝いています。真っ赤な血のように……。
「いくら神獣にしても、着くまで速すぎだ。ここって――」
蛇は、我が師の声を遮って命じました。はしゃぎ声でうきうきと。
『さあ、早く地図を取って来い』
読んでくださりありがとうございます><
虎穴ならぬ蛇穴、何番地なのでしょうね^^
意外に繊細な蛇なので、大陸全土に番地ふってるんだと思います(
コメントをありがとうございます><
はい、恋する乙女はナイーヴなのですノωノ
コメントをありがとうございます><
シュワちゃんやジャッキーチェンのアクション大好きでした~^^
とても懐かしいです。
ジャッキーチェンは酔拳が楽しかったかなぁ・ω・
現在地は虎の穴ならぬ蛇の穴
(;¬_¬) 扉を破壊して 行っちゃった後の IF の構成も気にナル
読んでくださってありがとうございます><
ガルジューナさんの想いは叶うのか……
作者的にはよい結果になるといいなぁと思っていますが、
果たして^^?
読んでくださってありがとうございます^^
師匠は本能で生きてるというか、非常にファジーです^^;(カラウカス流に改造された結果?)
でも知識に裏付けられてるところがあるので、そこがかろうじて武器になるのでしょう;
読んでくださってありがとうございます><
マジメなウサギ弟子くんがいるので、
なんとか軌道修正してくれるかなぁと思います^^;
今朝は時計を見ながらカキコを!
凄く面白いです!
人間以上に人間くさい神獣の恋慕の後に何が続くのか・・
それが楽しみになってきました。
次作を鶴首してお待ちします。
m(_ _)m
攻防激しいエネルギー戦の末、お師匠様の一言で状況は一変!
舞踏会を夢見る神獣に連れてこられたその場所は?
ピンチなのか、チャンスなのか、
お師匠様に勝算はあるのか、出たとこ勝負なのか、
この先に待つものは舞踏会か武闘会か・・・
山道を駆け抜けるような物語の展開で続きがとても楽しみです^^
嘘か誠か、カードのお話
吉か凶か、切り札発動
いつも楽しいお話をありがとうございます♪
お題:GWの過ごし方。
大陸にはGWがないようなので「休日」ということで。
やはりのんびりだらーと眠るのが一番至福じゃないかと思います……
永きにわたる休日を、眠って過ごしてきたガルジューナさん。
どんな夢を見ていたのでしょうね。
やっぱり竜王さんとの、甘い夢かなぁ(・ω・
読んでくださってありがとうございます><
ぺぺも、そう思い始めているようです。
蛇と竜王、二人の間にもアリンと金獅子のように
ちょっと切ない物語がありそうです。
その想いを叶えてあげてたくなるな^^