上の方々-もののけ王子(2)
- カテゴリ:自作小説
- 2015/05/11 18:22:44
語り:スパーキー
講師として呼ばれた騎士団で、医務室に向かって歩いていた。
呼ばれたのは剣術講師としてだが、(前世から)持っているヒーリング能力の受けがよく
緊急時の手当ても行うことになったので、顔出しをしに行く所だった。
その途中で、右手側の扉が開くと同時に出てきた、銀髪の男がいたが
とても懐かしい匂いをしていた。
人間の臭いは色々あるが、この人間の匂いだけは忘れない。
ただ、俺は今(現世)で、そいつの当時の名前を思い出せない。
懐かしい匂いに誘われて、振り返りそうになったとたん俺は、ある事に気が付いた。
(…音がしない。)
毎日持ち歩くと約束したはずの、鈴の音がしない。
結局、人は人なのか。
未知の者、自分とは違う存在の事は、捨て去ってしまうのだろう。
俺はその背を見るのをやめた。
ボードを眺めると、会議室の予定は今日も空。
いつもの事だ、会議室なんて名ばかりで、実際は「説教部屋」が相応しいと、僕は思う。
必死にやっているだけだからか、上手く行かない。
ただただ毎日のように、こうして未熟さを責められる。 今日もここで昨日の反省会だ。
「今日は新しい講師がやってくる節目の日なのだから。。。」
国も現世で言う新年度を迎える。
新しい講師に、騎士団の恥ずかしい所を見せたくない…
彼らの本心はただ、それだけなんだろうと思うけれど。
ガミガミと口うるさく言われ、直接悪口の連発。
それを聞き流した後、溜息交じりで部屋を後にした。
瞬間、ぶつかりそうになった男性の、オーラが見えた。
この時この世界では、オーラが見えるなんて弾圧されるレベルの発言だけどね。
でも、見えてしまったものは仕方が無い。
一般の人にそれが見えてないとか、どうでもいいよ。
とても懐かしい、燃える様な青い光だった。
光の強さは、昔よりも格段に強い。
あの頃はお互い子供だったから。
忘れるはずも無い。
共に過ごした楽しかった日々も、会えなくなって鈴を取られ、悔しかった日々も。
(どうしてここにいるのだろう?)
モーゼスは僕の事を気にせず、そのまま足を止めずに先へと進む。
あっちはもう医務室しかないはずだ。
振り返って声をかけようかとも思ったけれど、ある種の閃きを受け取った。
耳も、尾もなかった。
そしてここは騎士団。 それどころか都市部。
姿を隠している以外のなんでもない、もし彼が神獣であると周囲が知れば、、、
神なるものの目は誤魔化せない。
むこうはこちらが誰か分かっているはずだ。
けれども不幸なのか幸いなのか、僕はもう鈴を持っていない。
この時ばかりは鈴の件で、母親に感謝した。
「…人間だから忘れている。」 堂々とそう態度に示せるのだから。
それが悲しい嘘だとしても、彼の正体がどこかで漏れるよりはマシだろうと思ったんだ。
帰宅する。
今日から騎士団勤めという事は、今まで以上ますます、「臭い」に気をつけないとならない。
シャワーは一日何度が良いだろうか。
少なくとも、朝・講義の後・夜、だろうか。
…騎士団には鼻のきくヤツもいる。
獣臭さを出したら終わりだ。 すぐにはバレないだろうが。
大体3年くらい。 何とか乗り切る必要がある。
とにかく、「汗でべとつくのが嫌いなんだ」とでも言って、周囲を納得させておこう。
-----------------------------------------
アルサイエスはかなり風呂好きですが、元々水の要素を持っているだけでなく、
獣の過去生が多いので、「臭い」に敏感で気を使うんですね。
スパーキーが会議室で毎日の様にお説教されていた、というのは、ついさっき聞いた事実です。
今回の話を書き出すにあたって最初分かっていた事は、
お互い誰か分かっていたけど話しかけなかった とか
スパーキーが話しかけなかった理由と、モーゼスが、スパーキー自身の意思で鈴を捨てたと思っていたことくらいです。
これから先は普通に、講師と一見習い騎士として、
「それ以上でもそれ以下でも無い」 態度を取ろうと、お互い意識していきます。
モーゼスの方は、スパーキーが自らの意思で鈴を捨てたと思いながらも
やっぱり昔の事が忘れられず、どこかでひいきしていましたが。
そのへんのエピソードをいくつか手短に、この後に書いていきます。
-----------------------------------------
-2月ごろの話-
apo-「いつも過去の話を知るために質問ばかりしているので、
たまにはスパーキーさんのほうから質問とか、どうでしょう。」
それはいいね!(目を輝かせる)
…アル、君はいつも膝裏まで髪を伸ばしてるけど、それって何の意味があるんだい?
そんなに髪を伸ばしてたら、戦場では不利だと思うんだけど。
モーゼスのときも同じくらい長かったし。
ああ、それはですね…
「トレーニング」として、ですよ。
髪を取られないように、斬られない様に後ろまで常に意識をまわすことで、
集中力や警戒心を鍛えています。
戦場でも、髪が長いほうが集中力を維持できています。
それは凄い! なんでも鍛練に結び付けるとは、本当に昔から変わらないね!
僕もやってみようかなあ。 髪を膝裏まで伸ばしてねw
やめてください。
ただでさえ顔が似てて銀髪でロングで間違えられるのに、
髪の長さまで同じになったらどこで区別するんですか。
足の筋肉量とメガネと身長でw
…初対面の人にとっては双子以外の何者でも無いですね。
揃って伊達メガネかけたらもう誰か分かりませんよ。
確かに足の筋肉は見た目君の方が多いけれど、身長だって大差ないじゃないですか。
後日談として、スパーキーはウィッグで試しにトレーニングをしたそうですが、
「普段使わない筋肉使うし意識まわらないし、二度とやりたくない」
とか仰ってました。