上の方々-もののけ王子(3)
- カテゴリ:自作小説
- 2015/05/13 18:42:30
語り:モーゼス(アルサイエス)
剣術講師として呼ばれてから、一月くらいが経った頃。
懐かしい匂いのある方から、突然新しい血の臭いがした。
それから少し後に、押し殺したような声が聞こえてくる。
人間達は声には気付いたが、それが何を意味するのか
どこからする声なのかは分かっていないようだ。
俺は嗅覚を頼りに、騎士団の裏庭へと走った。
裏庭に三人におう。
一人は消毒液のにおいが強いから、医療関係か。
一人はあのあいつ(スパーキー)として、もう一人は、なにやら香水臭い。
人にぶつからないように、四足歩行になりたいのを押さえながら、急いで。
またあいつが不祥事を起こしたんなら、いつも通り処理をしなくては。
俺が駆けつけた時には、倒れている男の傷が、かなりざっくりいって…
いや、それより誰だ、こいつは。 剣術担当だが見たことが無い。
香水臭さや、近くにある臭い畳まれた服からすると、上流階級のぼんぼんだろうか。
いい剣を持っている様だが、使いこなせるのか?
全身の感じからすると、こんな大きな剣は使いこなせそうにないが。
傷は広く深く、もう一人の「彼女」が応急処置をしていた様子。
しかし、簡易的な処置でなんとか出来るほど、浅い傷じゃない。
俺はすぐに生まれ持ったヒーリング能力で、その傷を治す。
「騎士団員に腕試しでも頼んだのか。」
驚きの返答だった。
落第点スレスレの年下騎士なら、何とかなるだろうと思っていたという意味の。
その後目の前の見習い騎士を睨みつける。
「上の立場の者と知りながら、本気で斬りかかった事を処罰させる!指導者はどこの誰だ!」
そんな姿勢を見せつけてきたので、俺も前に出る。
「たとえ今までが落第スレスレでも、今本格的に鍛えているのは俺だ。
見たところ上流階級のようだが、もし何か訴えを起こすなら、自由にすれば良いさ。」
「今鍛えているのは、『国から直々に修練を頼まれている俺』だ。今年から講師は、国の意向で選ばれるようになったと聞いていないのか?」
相手の顔色が少し変わったように見えたので、一気に畳み掛ける。
「階級を利用し俺の監督不行き届きを指摘しても、
『国が呼んだ講師の生徒をみくびった』という事実はひっくり返らない。
それを己の恥として退くか、国の選定判断に泥を塗るか、自由に選べ。」
まだ俺と同じくらいの年頃の、若いやつだ。
しかもぬるく育った、頭の悪そうな上流階級。
適当に脅しとけば何とかなるだろう。
実際男は、不満げそうな顔も見せず慌ててその場を立ち去った。
「さて。」
目の前の見習い騎士は、うつむいている。
「始末書とは言わないし、会議室にも送らないが、一つ強制する。」
「なんでしょうか。」と、銀髪の見習い騎士は呟く。
「…前々から思っていたが、お前は俺が推奨するクレイモアを使うべきではない。」
「が、落第を免れる素質が一つだけある。」
「今からこの件を理由に毎日補習をつけるが、それは『グラディウスの使い方』だ。」
見習い騎士は驚きの表情で顔を上げた、そして
「はい!」 と、笑顔で返事をした。
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もののけ王子(1)で、幼少の頃
モーゼスとスパーキーは日々遊び、もしくは
モーゼスがスパーキーに剣の稽古をつけていた。
と書きましたが、この時使っていた剣がグラディウスです。
モーゼスは生まれてすぐからグラディウスを二本持っていました。
一本をスパーキーに貸し、一本は自分で使い、共に稽古をして楽しんでいました。
彼はこの時の事を非常に懐かしく思っており、それを再現させたいと思い、この提案をしたわけです。
もちろんそれは、スパーキーにとっても嬉しい誘いでした。
昔の親友と、昔の遊びの続きを。
この後、使い慣れた短剣の指導により、スパーキーは落第点を免れ
延長線でクレイモアも扱えるようになり、立派な国の騎士となるのです。
今ではアルサイエスは、数え切れないほどのグラディウス・コレクションを持っていて…
本気の戦闘時にはこれを使い、グラディウス弾幕を張ります。
スパーキーと再開した時に、これを使って手合わせをしていますが、それはまた別のお話。。。
余談として、この話の中で応急処置をした「彼女」こそ、当時のダウン(上の方登場人物)さんのお姿で、同時に、当時のスパーキーの彼女さんでもありました。
これを知った時にモーゼスは、
「山や森を敵とする国に、何故あいつが騎士として仕えているのか?」
という疑問が解けたそうで。
「ようは彼女を、彼女の暮らす国を守る力を欲しただけなんですね。」
と、今のアルサイエスは思っています。





























