アスパシオンの弟子48 白昼夢(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2015/06/07 02:15:53
「おいハヤト、まだ勝負ついてねえぞ。勝ち逃げすんな!」
「うっさいエリク、これダメだ、次の試そうぜ?
えっと、閣議で出たのは排球(ハイキュー)に野球(クリケット)に籠球(ロウキュー)に
卓球(ユケムリピンポン)にー……」
大きな毬を捧げ持つセバスちゃんが、指折り数える我が師に渡しました。
「次の候補は排球(ハイキュー)でございます」
「おいさ」
我が師と兄弟子様はそれから丸一日、いろんなスポーツを試しまくりました。
「喰らえ! 俺の! 超絶、すまぁあああっしゅ!」
「けっ! 甘いわ! 俺の回転レシーブを見てさらせ!」
二人の対戦を観戦するのはそれなりに――特に卓球(ピンポン)などは手に汗握るほど
見ごたえがあったのですが、どれもこれもすぐに普及させることができるようにはみえ
ませんでした。
「どうです? 将軍閣下のご意見は」
セバスちゃんに聞かれた僕は頭をかしげました。
「寺院では蹴鞠(けまり)が盛んだった。そんなに難しくはないかな」
僕はへたっぴですけどね。
大臣たちが集まってきてふむふむうなずいています。
彼らはトルナート陛下がケイドーンの巨人たちを使って政権奪取劇を行った時、王の
服毒計画に加担していなかった貴族たち。弱小の貴族ばかりですが、この数ヶ月の間に
陛下がしかるべき爵位と役職を授けてきました。
メキドの国土は十数の州に分かれていますが、古い時代から大貴族たちが州の領主と
して支配しています。
直接陛下が統べる王領の州は、たった二つ。ガルジューナのおかげで大貴族たちは渋々
恭順してきましたが、そんな彼らが素直に陛下の御名のもとでの娯楽を広めてくれる
とは思えません。
「あの、大衆だけでなく貴族も夢中になれるものがいいんじゃないですか? それぞれの
州を統べる大貴族たちも夢中になれば、すんなり協力してくれそうですし」
セバスチャンは唸りました。
「どの階級にも受け入れられるもの、ですか。ああ、将軍閣下、そろそろ閲兵をお願いします」
「はい」
僕はくたびれてぐったり寝椅子にだれている我が師のまん前に走りました。
「閲兵しますので、僕を人間に戻して下さい」
「やーだね」
「これでは示しがつきません」
「肩章ちゃんとつけてるんだからそれでいいって。はやく行って帰って来い。モフモフさせろ」
「こ……の! クソオヤジ!」
鼻をほじる我が師に背を向けて僕は王宮に入り、玉座の間の前にずらりと並ぶケイドーン
の巨人兵たちのもとへ行きました。
閲兵は朝夕二回。一の将軍の位をいただいてしまった僕の仕事です。
折りたたみ式の脚立を立て。背伸びして乗り。ビシッと敬礼すると。
巨人兵たちは一部の隙もなく真顔で敬礼を返してくれました。
ケイドーンの傭兵団長――サクラコ非殿下の父君が、今日はどんな訓練をしたか報告して
きました。 王宮百周駆けとか、重量上げ訓練とか、組打ちとか。
ふと僕は天を突くがごとき傭兵団長に、面白くやりやすいスポーツは何だろうかと
訊ねてみました。
「我らケイドーンの巨人は、戦踊りやら砲丸投げやらが好きですね」
「なるほど。メキドの人は、何が好きなんでしょう?」
「昔から戦続きの国ですから、戦に繋がるようなものではありませんか?」
「戦か……」
すんなり我が師のもとへ帰るのは、しゃくにさわる。と、閲兵を終えた僕が庭園へ出たとたん。
「ウサギ~♪」
うう?!
背中に悪寒。鼻に芳香。振り向けば、小さなミイラ男!
「きせかえしよう?」
「ぺぺ、お願いちょっと付き合ってあげて」
う。フィリア。いくら君の頼みでも。
「だが断る!」
これまで何回もそういわれて付き合ってきたんだから、もういいじゃないですかー!
僕はかろうじてヴィオの腕をすり抜けて王宮へ舞い戻り、自分の部屋に駆け込みました。
ぼふんと寝室へ突っ込むように飛び込み、ふうとひと息。
ヴィオは本当に苦手です。僕が魔人のせいもあるかもしれませんが。
あの紫の瞳は、なんだかこわいです。
「あふ」
あくびが出ました。昼下がりで眠気が襲ってきたようです。
でも夕食前にまた閣議があるから起きないと……起きないと……起き……
う……?
ここは?
なんだか、緑の木々がざわざわ。うっそうと茂った森?
巨木がたくさん生えていて……
風を切る音。
頬を掠める疾風。
どすっという貫通音。
「ごめんなさい!」
あわてて謝る誰かの声。
「まさか的に近づくと思わなくて」
的? あ……僕のすぐ隣の木の幹に、細長い槍が刺さってる?
「ねえ、怒らないで。いいでしょう?」
草を切る音と共に近づく人影。すらっとした細身の……少女?
赤毛で、ぱっちりとした蒼い目で。とても……美人。
「殿下が婚約者の私のことをご心配なさるのは当然だけれど、ほら私、小さい頃から
兄様と一緒に育てられたわけだから」
この人……だれ? こんもりした胸の隆起を薄いレースのミニドレスで覆ったその少女は、
腰に革の腰布を巻き、と肘まで覆う革の手甲に膝まで覆う長い革ブーツという出で立ち。
彼女の腰の細さにごくりと息を呑む僕は――ウサギじゃなくて。
彼女と同じぐらいの背丈の青年のようで。
「だから心配しないで、私の殿下。実の兄が結婚するっていう大事な記念日なのよ?
どうか木槍(ジェリード)の試合に出させてちょうだい。兄様をお祝いしてあげたいの」
「でもエリシア――!」
何かを言いかけた僕の唇がいきなりふさがれました。熱くて柔らかいものに。
「!!!!!」
エリシアという赤毛の少女はそのまま――僕に口づけしたまま、幹に刺さった槍を引き抜きました。
「エ、エリ……」
「大丈夫。本当に、怪我なんかしないから」
少女は一瞬唇を離してそう囁くと。また僕の唇を襲ってきました。
「!!!!!」
さっきよりも激しく濃厚に……。
「う……うあぁああああ?!」
がばりと跳ね起き、僕はぜえぜえと息を切らしました。
い、今のは、一体? いつのまにか眠ってしまって、ということは、ゆ、夢?
でもあんな、全く他人になるという、しかもとてもリアルな感覚の夢なんて……
生々しい感触が僕の唇に残っています。
たった今、起こったことのように。
「う!」
突然、刺すような熱さが右目を襲いました。
樹海王朝の王の証――赤い義眼が熱を帯びていて、右目の奥をまるで焼いているようでした。
まるで炎のように。
「うう……」
目を抑えながら僕は夕刻の閣議に出ました。
我が師と兄弟子さまは、体を動かしすぎてダレダレ。灰色の導師はスポーツの種目を
決める決議でつんとした顔で蹴鞠を主張。
セバスちゃんは砲丸投げを。他の廷臣たちもさまざまな案を出し、意見が分かれました。
僕は目を押さえて卓につっぷしていました。右目の奥が熱くて痛くてたまりませんでした。
「どうなさいました? ウサギ将軍閣下」
セバスちゃんが気遣ってくれたので、僕は何とか顔をあげて呻きました。
「なんだか、槍で刺されたように、目が痛くて」
「槍?」
突然、メキド貴族の大臣たちがみなハッとして、顔を見合わせました。
「槍、か」「そうだな、それはよいのでは?」「しかし奉納儀では?」「蹴鞠ももともとそうだとききますぞ」
ざわざわざわざわ。大臣たちはしばし相談しあって。
それから国務大臣がすっと手をあげ提案してきました。
「我々は一致して、木槍(ジェリード)を推します」
読んで下さってありがとうございます><
もっとも手っ取り早い代理戦争という感じですよね^^
戦争の代わりという使いみちもありましたね
どういう盛り上がり方になるのか
次回に進みましょう
読んでくださってありがとうございます><
流鏑馬いいですよねー^^! かっこいいです。
木槍は弓じゃなくて槍ですが、ちょっと似たような雰囲気かも。
日本の武道はどれもかっこいいですよね>ω<
戦国時代、槍使いで名を馳せた武将は結構多かったり。
木槍はオスマン・トルコから引っ張ってきました。
メキドはペルシア・アラビアチックな風俗がちょこっと入っている感じです^^
いつも読んでくださってありがとうございます><
今回は大陸史上最悪の破壊神に翻弄されるウサギの図ぅでした^^;
眼は、情報蓄積体みたいですね。
情報を的確に引き出すための正式な使い方があるみたいですが、調子が悪いと
寝てる間にちょろちょろっと夢の中に溶け出してきてしまうようです。
いつも読んでくださってありがとうございます><
ジェリード、モデルはオスマントルコ帝国の馬上槍試合です。
次回実戦をまじえて実況できればと思います^^
すごい。
弓道や薙刀に次で、剣術と同じぐらい歴史があるじゃない。
知らなかった。w
明るく和やかな宮廷の日常。
ウサギのペペさんには受難の日々・・・^^;
でも、王宮内の平和はウサギの姿のペペさんが
一手に引き受けているような・・・
国民的スポーツを決めている最中に見た白昼夢。
大きなヒントをもたらしてくれましたが、
義眼が見せてくれた遠き過去の記憶のようですねぃ^^
懸案に対して過去の事例を検索して、関連しそうな
記録を見せてくれる。最新鋭の図書館のようでもあります♪
陛下とガルジューナ、赤い義眼の熱の理由、
この先がとても楽しみです。
いつも楽しいお話をありがとうございます♪