アスパシオンの弟子50 舞台劇(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2015/06/20 15:03:32
「……で。どうして僕をまたウサギにするんですかぁ!」
数日後。
ウサギ姿の僕は長い耳をびんびん立てて我が師に訴えました。
我が師は寝台で枕を抱いて丸まっていじけ顔。
そんな事言ったって、と黙って庭園の方を指差し深いため息。
「ウサギい~。きゃぁ~♪」
包帯が半分取れた小さいミイラ男――ヴィオのはしゃぎ声が聞こえてきます。
「ポチは赤い長靴ね。タマは黄色いのでー、ムクは青の長靴だよぉ♪」
「ちょ、まさか」
「ウサギ、取られた」
死んだ魚のような目で我が師は膝をぎゅうっと抱えました。
「全部、取られた……」
「三匹いたんですよ!?」
「お、俺には、やっぱりぺぺしかいないいい」
鼻水垂らした泣き顔で抱きしめてこないで下さい、うっとうしい!
「ちょっと貸してやっただけなのにさぁ。力ずくでとろうとすると泣くし、フィリアちゃんがすんげえ
怒るんだよおお!」
……。三歳児ですかこのクソオヤジは。
「返してくれるよう交渉してきます。人間に戻して下さい」
文句を言う我が師をなんとか説得して人間の姿に戻してもらった僕は、ウサギを取り戻そうと
庭園へ向かいました。
運悪くその道中、巨人兵に連行される不審者につかまりました。
茶髪の音楽家、ジュージェです。
「ぺぺさーん、助けて下さーい!」
兄弟子様に謁見して作品を見せたものの、『コリャダメだ』と、ばっさりひと言喰らってきた
帰りのようです。
「ぺぺさん読んでみてくださいよ。これ、最高傑作なのに!全然ダメとか、言いがかりも
はなはだしいですよ!」
いや、自分で最高って豪語してる時点でダメだと思うんですけど。
半泣きのジュージェに押し付けられた羊皮紙に、僕は渋々目を通しました。とたん。
僕の目は登場人物の名前に釘づけになりました。
「……エリシア?」
「トルナート陛下の姉君の御名ですよ。メキドに伝わる古い伝説に出てくる悲劇の姫君と
同じお名前です。ですからその伝説をからめまして、現代風にアレンジしたのですよ」
古い伝説って、まさか……。
うっとり陶酔顔の茶髪の音楽家は、自身の胸の前で手を組みました。
「樹海王朝の最後の王シュラメリシュと恋人エリシアの、大悲恋! エリシアは王の
代わりに木槍試合に出て、
あわれ銀の槍の餌食に……ああ、なんという悲劇でありましょう」
たちまち脳裏に、あの赤毛の女性の姿が浮かびました。
目の中の記憶が見せてくれた、美しい女性。
まずい! と思った瞬間、僕の右目が疼きました。
『エリシア! エリシア!』
目の前の視界が、夢の中の光景と重なり合いました。
目が記憶を見せ始めたのでしょう。
馬から落ち。槍で首を貫き通された彼女――エリシアの姿がくっきり見えました。
僕は彼女をかき抱いて、嗚咽していました。
何者かが僕らのそばにやって来て、慰めるように肩をつかんでいました。
『シュラメリシュ、なんといったらよいか……』
真っ青な衣を着た人ですが、寺院の蒼き衣とは違います。
まるで僕が今着ている、オリハルコンの布のような光沢。その人は悲痛な顔で僕に囁いてきました。
『君を護る、シュラメリシュ。君を必ず王にする』
――「ぺぺさん! お願いしますよ。どうか摂政殿下にお口ぞえを」
ハッと我に帰った僕は、ぶるぶる頭をふって脳裏に浮かぶ幻を追いやりました。
「あの、エリシア……姫が陛下をかばって死んだまま終わるんですか?」
「ええ、そうです。すばらしい大悲劇にしておりますよ!」
「あのう、陛下を言祝ぐ劇なんですから、陛下が奇跡的な力で姉君を生き返らせるとかしないと」
茶髪の音楽家はきょとんとして。それからあんぐり口を開けて。そうだ、そうだったー!と
手を打ち叩いてうなずき、怒涛のように走り去っていきました。
なんとか撃退できましたが、また書き直して持ってきそうな勢いです。
しかし僕が見たものが、メキドの古い伝説として伝わっているなんて。
でも僕は殿下と呼ばれていましたから、悲劇が起こったのは即位する前? あの状況……
友人らしき青い衣の人の言葉から鑑みるに、王位継承がらみの陰謀?
エリシアは、その犠牲に……?
ぎゅっと僕の胸が締めつけられました。
とても不可解で変な気持ちが襲ってきました。実際に体験した記憶ではないのに、
彼女の姿を思い出しただけで、目尻から涙がこみあげてきました。
苦しくてたまりません。なんなのでしょう。この、胸を穿たれるようなひどい気持ちは……。
潤むまなじりを拭きながら、僕はウサギを取り戻そうと庭園に入りました。
そのとたん。
――「きゃあああ!」
僕の耳をフィリアの悲鳴が襲いました。
何事かと駆けつけてみれば。
「え? 蝶々?」
目に入ったのは、輝く真っ白い無数の蝶の群舞。
庭園を埋め尽くすほどの数の蝶々たちは、ある一点に集中して群がっています。池のほとりに
いる、兄弟子さまのもとに――
「兄弟子さま!!」
苦しげに地に片膝をつける黒の導師の衣は、降り注ぐまばゆい燐粉でまっ白。
まるで雪のように白い粉がどんどん降り積もり、兄弟子さまを覆っています。
こ、これは、一体?!
「おのれ! くされ導師の眷属か!」
池の向こうから灰色の導師が悪態をつきながら走ってきて、僕の腕を引っ張りました。
「我が魔人! ルーセルを護れ!」
「い、言われなくても! ってこれ何なんですか?!」
「白の導師の眷属、『白胡蝶』だ。なぜ私のルーセルに群がっているのかは分からぬが」
歯軋りするアミーケは、たちまち魔法の気配をあたりに下ろしました。
「ルーセルの周りに結界を張る。蝶を韻律で焼き尽くせ、我が魔人!」
「はい!」
僕は必死に火炎の韻律を唱え、蝶を焼きまくりました。
けれども蝶々はあとからあとから、どこからともなく湧いてきます。
結界を張っているはずなのに、その壁をものともせずに兄弟子様を白い燐粉で固めていきます。
これを召喚しているのは「白の導師」、ということは……
「も、もしかしてこれって、ヴィオの親の仕業なんですか?」
「さっきからそうだと言ってるだろう! 早く焼き尽くせ!」
「は、はい!」
ということは、白の導師がわが子を取り戻しに来たということ?それにしても。
「くそ! きりがない」
「アミーケの結界じゃ、きかないよぉ?」
けらけらと無邪気な笑い声が聞こえました。
「アミーケは、弱いもんねえ」
……ヴィオ?
「白になれなくて、灰色になったんでしょ?」
「黙れ!」
蝶々たちの群れの間から聞こえる、アミーケの鋭い声。
「でき損ないはすっこんでいろ!」
「遠慮しないでぇ。ヴィオが、助けてあげるぅ」
ぼん、と大きな音を立ててアミーケの結界がはじけると同時に――
「な……?! 蝶の群れが!?」
一瞬で半分以上消滅した?!
「ヴィオはねえ、強いんだよ?」
蝶が消えて開けた視界には、くつくつ笑うヴィオの姿。
その足元には、長靴を履いて細身の剣を持った――
「う、ウサギ?!」
「ウサギ三銃士、いっけえ♪」
ヴィオが蝶々の群れに向かって指さすと。
「きゅう」「きゅう!」「きゅぴ!」
長靴を履いたウサギたちは、目にも留まらぬ速さで蝶の群れへと飛びかかっていきました。
僕はぞくりと身を震わせました。
ウサギたちの後ろでメニスの子が一瞬目をすうと細め、にやりとうすら笑いをしたからでした。
まるで。不気味な悪魔のように――。
悪魔のようなメニスの子
しかし不気味なのは、三歳児センスの●●オヤジ師匠なのでありました
いつも読んでくださってありがとうございます><
大陸に住む二つの種族、人間とメニスのナゾ的な部分に迫ってきました。
兄弟子さまはとりあえず定石通りの手を打っていくつもりのようです。
師匠と弟子はこれからどうするんでしょうか^^
これからもお楽しみいただければ幸いです。
いつも読んでくださってありがとうございます><
内乱ばっかりしてたので、メキドはかなりな発展途上国みたいです。
これからどんどんトル陛下が摂政さんたちと改革していくのかなぁと
思います。
しかし兄弟子さま、キリマルくん化してますーw
ヴィオは……後の世で大陸最凶とかいわれることに……なるのかな@@;
いつも一番に読んでくださってありがとうございます><
まさに悪魔というか魔王というか。
ヴィオはちょっと得体の知れない子みたいですね;
物語が大きく展開しているので、毎回、作品を読むことが愉しみです。
義眼の記憶、王国の新たな戦略、悪魔のようなメニスの子・・・どれもが複雑に絡み合い、て大きな世界を構築しているなぁ~と感動しています。
ふと考えるのですが、一国の繁栄と平和とは何か。やはり富国強兵なのでしょうか。歴史的にも、それは否定できない事実ですが・・。そうした視点で読むと、人の世とは難しいものよ・・と思ってしまいます。
さて、本当に毎回の作品を心待ちにしています。早く次作品を読みたい!!
鶴首してお待ち申し上げます。
m(_ _)m
戦争は1にも2にも経済力ですね^^
勝利はお金で買うものなのです。
交通インフラ、市場、主要産業、初等教育・・・
メキドはどれもが未整備か遅れているんですねぃ。
政権に対する国民の信頼度も大事です。
政権の印象を良くすると同時に、国民の生活を目に見える形で向上させ、
クーデターや内戦を防がねばなりません。
熟達した魂の兄弟子様はよくわかってらっしゃる^^
もちろん、戦後の設計図も頭の中にあるのでしょう。
お城では既に何かが始まってしまった様子・・・
アミーケさんを弱いもの呼ばわりするこの子はいったい^^;
この先の展開がとても楽しみです。
いつも楽しいお話をありがとうございます♪
ちょっとこの先が解らないですね。
お題:雨の日のお奨めグッズ
長靴・ω・♪ 長靴を履いた猫ならぬ、ウサギ^^;
ぴちぴちちゃぷちゃぷらんらんらん♪