Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


本を捨てたくなる理由


ブックオフでよく本を買っています。
古本というのは、前の持ち主がしのばれる形跡があったりして、それが嫌だという人もいるけど、想像するのもかえって楽しいものです。

以前買った吉川英治文庫には、前主の使っていたしおりが挟まっていました。
そこにはよれよれの字で、「人生はつらいけど前向きに生きたい」という意味の俳句が。
思わず前主に心の中でエールを送っていました。

飽きた、場所を取るからというのが本を手放す理由ですが、内容が嫌で手元に置きたくない、というのもあります。

そういう理由で手放したんだな、という本に、蒼雪も幾つか出合ってしまいました。

向田邦子のエッセイ。その中に収められた「白鳥」。
向田が、前を歩く和服美人が捨て子猫らにした残酷な仕打ちを目にした話です。

愛猫家であった向田が、その行為に何もできなかった悔恨が刻まれていますが、捨て子猫らが受けた仕打ちの光景があまりに鮮やかで(それだけ向田が素晴らしい文章家なため)、何度も読みたい作品ではありません。

向田は犬も飼っていましたが、この犬が噛み癖と逃走癖があって他人にも迷惑を掛けるので、保健所へ連れて行かれるという内容を収めたエッセイもあります。

これも愛犬家にはつらい話です。昔は現在より犬のしつけ法が普及されていなかったので、たかが犬、されど犬でした。みんな金魚を飼うように簡単に犬を飼い、無造作に捨てたり殺したりしていました(しかも終戦の食糧難には食べてもいた)。

向田はそれなりにこの犬にも愛情をかけていましたが、ネコにはおよばずでした。
もっとこの犬も身体を張って守ってほしかったですが、「~だから仕方がない」という流れに逆らえなかった、当時の向田のやりきれなさは伝わります。
けれど、二度と読み返したくない作品です。

犬つながりで、夢枕獏の陰陽師も最悪な話があります。
龍笛の巻だったと思いますが、カオスな陰陽師である蘆屋道満が、公達に仕える女房にかけられた呪を解くために犬を殺す描写がむごすぎる。

その後の話でも、安倍晴明が犬を使った解呪の法をやっていまして…、犬を飼う身にはしんどい内容です。
過敏に過ぎるかもしれませんが、世の愛犬家、愛猫家、動物好きは、たとえフィクションでもむごたらしい場面を見たい人はいないでしょう。

しかし作家というのは因業なもので、良い作品を書こうと思ったら、どんな場面でも嬉々として書いてしまいます。
そして読者は、どんなものでもそれを読む権利があります。
目に優しい光景だけが現実ではない。残酷な話でも存在する価値はある。
書き手はそれを提供するだけであり、読み手がどう感じるかはその人の自由なのです。

でもやっぱり、自分の琴線に嫌な感じで触れてしまう作品を読んでしまうと、作家も憎くなるものです。
作家・菊池秀行が、自著のあとがきにこんなことを書いていました。

「私は老人と子供にはどうしても筆が甘くなる。私がスティーブン・キングを好きになれないのは、彼が赤ん坊を残酷に殺す描写を書くからだ」

正義感が強い、人情家が本質である菊池は、アクション伝奇が売りですが、内容にもその性格がにじみでています。
作家として書くべき内容に厳しく忠実であろうとするプロ意識がありますが、老人や子供など弱い存在にはその信念を曲げて(ストーリーに関わっても)書いてしまう反省が、上記のあとがきににじみ出ています。

半面、キングは必要とあらばどんな描写でも辞さない。
しかも描写に良心の呵責とか、作者の感情を入れないので、だから作品として上質である…という、自分への反省と羨望みたいなものもあったでしょう。

夢枕もその手の作家で、犬猫、人間問わず、必要とあらば残酷描写もりもりなので、良い作品は良いけれど、受け付けない人には無理でしょう。
私が買った陰陽師の前主も、それで売り払ったのかも。

キングは私も最近一冊だけ読みましたが、やばいことにこれが面白かったです。
たくさん作品が映画化されるだけあって、文章力もさすがなもの。読んでいて光景がすらすら頭に浮かびます。…って、翻訳しか読んでませんが。
でも本文が良いから、訳もすんなりはまって伝わりやすいということですかね。

幸運の25セント硬貨、という短編集ですが、何度も読み返しています。
でも、「L・Tのペットに関するご高説」…これは愛犬家にはまたしてもつらい。
夫婦の離婚につながった、ペットの犬と猫。
その犬の方が、最後惨殺されてしまうオチで…。
キングは当時犬を飼っていましたが、それでもそういうことを書く人なのです。
菊池が、どうしてもキングを好きになれんと書いた気持ち、私にも分かります。

でも、作家だから書くんです。それが作家なのです。
そして悔しいことに、それができる人が一流と呼ばれる作家なのです。

「L・T~」も作品として秀逸ですが、この本の前主も、それで嫌になって手放したのかなと、勝手に想像しています。

出合った古本を読んでいて、ハッと気づく「手放した理由」。
ああそうか、と納得すると同時に、私も読みながらうとましく思うのです。
読んだらこれ、ゴミ箱に放り込みたいな…と。たとえ一流作家の作品でも。

まだその行為には至っていませんが、そのうち売り飛ばすか、ちり紙交換行きになるリストにはしっかり登録された本たちは、今も押し入れに眠っているのでした。

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2015/06/27 11:58
ざくろさん、コメント感謝です。

あはは、粋なつながりですかwそういう風に見えますかね^^;
古本には、当時の本のしおりや折り込みちらしがそのまま入っていることが多いです。
私が見つけたそのしおりも、持ち主の私物なのでかなり汚れていて、そしてこの俳句。いろいろ想像してしまいました。

菊池秀行は、最近新刊を読まなくなってしまいました。
何年か前からですが、文章やプロットがおかしくなってきて、読んでて描写が頭に入ってこなくなって。
昔は無駄のない名文を書いていたんですが…。

正義感が強くてロマンチスト、菊池作品はざくろさんのおっしゃる要素がありますね。
男はこう、女はこれが理想的というパターンが決まっていて、昔ながらの時代劇というか、古風なんですよね。

菊池作品に限らず昔は当たり前のようにあった風潮「能力格差ヒーロー(生まれつき超天才なので、凡人とはポテンシャルが違う。そのため大活躍できる)」。それを最大限に書いてた人でした。
それでも弱者への目は優しく、人情劇が味がありましたね。「風の名はアムネジア」とか、今でも好きです。

キングはたくさん書いてますが、私はその中の当たり作品にたまたま出合えたんですね。
そのうち闇の塔シリーズも読みたいと思ってますが^^
映画化も多くて、映画はビデオなどでいろいろ見ました。「幸運の~」も映画化されてるんですよね。見てみたいな。

作家との相性はありますね。作品に人間性はないというのはうそですね。
政治に口を出している某作家…彼は大嫌いなので一生読みません(笑)

同じ作家の作品を初期からずっと読んでいて、だんだん嫌気が差すことも。
人間が書いてるんだから、作品に人生が繁栄されて内容に影響されるのは仕方ないですが。

私もあまり本を処分しない方です。でも何年かに一回はやりますね。本にまつわる嫌な思い出処理のために。
古本で買った本も、遺品整理とか、嫌な記憶処分でのやつだったろうなって、触った時感じます。
だから内容が面白かったやつでも、手元に置きたくないなと思ったり^^;

手持ち本の再読フェア、ありますねww
私はまだそのブームが来てなくて、またブックオフを物色中ですww
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2015/06/26 14:50
蒼雪さん、ちわー。
俺も昔はよくブックオフ利用してたっす。
でもそんな粋なつながりはなかったっすね~。
なんかいいな、新聞の投稿欄とかに載りそうなエピソードだ♪

菊池秀行、ソノラマ文庫とか(懐かしすぎるww)よく読んでたっす、なつかしいな~。
伝奇アクションはもちろん、バイオレンスもエロもグロも書く作家さんだけど、言われてみれば老人や子供に対する残酷な表現は記憶にないっすね~。
男子ってロマンチストだよねw って思わせる部分のある作家さんだったなー。

スティーブンキングは、知り合いに好きな人がいて、シャイニングとかイットとかいろいろ読んだ覚えはあるけどあんまり記憶に残ってないっすww 健忘症か、俺はw

やっぱ、作家によって肌が合う合わないってあるっすよね。
俺は、基本好きな作家の本しか買わないので、引っ越しでどうしても本の整理をする必要があった時以外では、本の処分をしたことないっす。
最近はもっぱら図書館か手持ちの本の再読ですかね~。
今は、何度目かわからない倉橋由美子フェア?中で、アマノン国往還記を再読中っすw


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2015/06/26 02:06
軸さん、コメント感謝です。

いやいや、そんなにきれいなことじゃないです(笑)
前主に失礼ながら、「あー、いやだな」って思ってしまいました。そのしおり見て。
書いた人はたぶんお婆さん。旦那に先立たれたか、人生に疲れてしまったのか。
それでも生きていればいいことがあるのかも…という、淡い期待が込められた一句で、しかも自作じゃなくて誰かの受け売りだったかもしれません。
ただ、そんな淡い期待にすがろうとするいじましさが、人間としてなんだかいとおしくも思えました。
さすがに、しおりは捨てましたけどね…あまりに生々しすぎたので。

菊池秀行の上のあとがきは、彼自身バイオレンス描写を本業とする作家なので、徹底してストーリーの中でキャラをさばききれない自分への自戒のような気持ちがあると思います。
本当は物語上でそのキャラを殺すべきなのに、それができない、ということです。

でもそんな人情家の一面があるから、作品にもそれが出ています。
かなり血なまぐさい内容が多いけれど、割と読めてしまうんです。
悪い奴は必ず報復を受けるし、勧善懲悪劇なんですね。

東京大学物語のオチは酷評だったそうで…さっきネットで見たんですが。
いろんな人がいろんな憶測をしていますね。
そうすることが、作者の思惑通りだったような気もしますね…。

ちり紙交換は、そういえば最近見なくなりましたね。町内の廃品回収がまれにある程度です^^;
廃品回収業者も、金だけ客から取って、引き取った品物を不法投棄する悪質なやつらが多いので困ったものです。
やっぱり書籍は古本屋に持って行くのがベターですね。ブックオフは買い取り拒否しないから安心ですw
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2015/06/26 01:46
ハルさん、コメント感謝です。

神経逆撫で作品は、作者問わず「うげっ」ってうなりますね。書いた人をこんちくしょうとも思いますww
短編やエッセイ集だと、ほかに良い作品が収録されていることも多いので、なかなか捨てるに忍びなかったりします。
それでも耐えきれなくて、ブックオフに引き取ってもらった本も多数ありましたが…。
こういうのは開いて読んでみないと分からないので、くじと同じで当たり外れがあるのかもしれない。

私も、小説問わず、犬などの動物や、女性と子どもがひどい目に遭う内容は作者を憎みます(笑)
犬が主人公の作品は見ないようにしてますね。絶対泣いてしまうから。
もしくは、やたら人間に都合よく描かれていて、うそくさいから嫌いです^^;
(ハリウッドでリメイクされたハチ公のやつとか)

猫侍はこっちで放送されないんです(/_;)
ちらっとサイト見てきましたが、ねこかわいい…w
レンタル屋にあったら、今度見てみますw

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2015/06/26 01:37
そらさん、コメント感謝です。

ですね、本は場所取りますからね。平置きして積んでおくと崩れて危ないですし。
収納にも限界がありますから、適度に処分は仕方ないです。

世の中には残酷なことが現実として多いとはいえ…そういうのを嬉々として書く作家(マンガ家も)は、ほんとに嫌だなと思います。書く気持ちは分かるんですが。
読んで最悪な気分になったが最後、作者に負の波動を送ってしまいますよ(笑)

そらさんが挙げてくだすった本のタイトルは検索しないでおきます^^;
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2015/06/26 00:28
古本の前主のしおりの俳句…、いいなぁ~^^
その持ち主と、蒼雪さんが、繋がった瞬間ですねぇ。
その人の時間や人生を、ちょっと想像してみたり^^

残酷な描写って、文章でも映像でも、
嫌なのに脳裏に残ってしまう…。

菊池秀行のあとがき…、それを読んだだけで、なんか好きになってしまった^^

うちの押入れに、江川達也「東京大学物語」があります。
見るに耐えないシーンがあったというのではなく、
ラストが納得いかなくて、作者がテレビに出るたびに「この~!」と思ったものです。
すべては主人公の妄想でした。なんて!!
読者をいい意味で裏切ったのかなぁ?

あ、そうそう、ちり紙交換て、今もあるんですか?
なんだか懐かしいなぁw
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2015/06/25 17:07
そうですねぇ……本に限らず自分の神経を逆なでするようなものは、二度と手にしたくないですね〜☆
蒼雪さんが読んだような犬やねこがつらい目にあうようなのは、特につらいかも……。゚(´つω・`。)゚。
だから結構買うときは吟味して、好きなものしか買わないようにしているかも……と、今気づきました(今か笑)

ちなみに映画等でわんこにゃんこが主役のやつは余程でないと観ませぬ(笑)
大概いい話風に描いといてラストで死ぬからやだ…^_^;

ああ、でも猫侍は観てます(笑)
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2015/06/25 12:52
いや、ねえ、本はたまっていくばかりなので、中身によらず、ざざーーーーと捨てたくなりますねぇ

捨てたい本は、捨てたくない。こわいものや残酷なもの。
「最貧困女子」、とか、「花々の墓標」とか。



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