Nicotto Town



手をつなごう

※グロテスクな表現があります。ご注意ください。


 その町にある小さな公園には、近所に住む子供たちが一緒になって遊んでいた。
この日はみんなで鬼ごっこをやっていたが、走るのに疲れ、今度は砂場で山や団子を作って遊び始めていた。
 その中の一人、康太(こうた)も砂を手でかき集めていたが、ふと砂場のすぐそばにある鉄棒が目に入った。
康太は手を止め、周りを見渡して一人の男の子を呼んだ。
「正吾(しょうご)にいちゃん、鉄棒やってー。」
その男の子、正吾は子供たちの中では一番年上で、みんなから兄のようにしたわれていた。
「よーし、見てろよ。」
正吾は鉄棒まで来ると、まずは前周りを一回、次に逆上がりを一回、さらに片足をかけてぐるぐるとまわって見せた。
それを見て、他の子供たちも鉄棒の周りに集まって来た。
「すごーい!」
「正吾にいちゃん、落っこちないの?」
「回ってるから落ちないんだよ、きっと。」
 一人の子供が正吾をまねて隣で鉄棒を始めたが、どうしても逆上がりが上手くいかない。
足を上へあげても、すぐに地面へ戻ってしまう。
「腕をもっとまげて、体を鉄棒にぐっとよせないと駄目だ。足も地面をもっと強く蹴らないと、上がらないぞ。」
そう言って正吾はまた逆上がりをやってみせた。
 康太は運動が得意な正吾を羨ましいと思い、正吾のようになりたいと思っていた。
「正吾にいちゃん、大きくなったら逆上がり出来るようになる?」
康太の言葉に、正吾は首をふった。
「大きくなったら出来るんじゃなくて、練習したから出来るようになるんだ。俺だって逆上がり出来るようになりたくて、頑張って練習したから出来るようになったんだ。やりたいことがあるなら、その分頑張らないと駄目なんだって、うちの父さんが言ってた。」
(頑張れば、やりたいことが出来る)
 康太は自分のやりたいことを考えてみた。そしてそれが出来たらどんなに嬉しいだろうかと心をはずませた。
「僕もやりたいことあるから、頑張る!」
笑顔で言った康太に、正吾も笑顔になった。

 帰る時間になり、みんな公園から出てそれぞれの家にむかって帰っていく。
 康太は同じ方向に帰る子たちと一緒に歩いていると、道のむこうから手をつないで歩いてくる三人の親子がいた。
それを見た康太は隣の子に手を差し出して、
「手、つなごうよ。」
と言った。
「いいよ。」
二人が手をつなぐと、他の子も手をつないで歩いた。
腕を大きく振る子がいると、それに合わせてみんなも腕を大きく振って歩く。
それぞれが家につくまで、みんな楽しげに手をつないでいた。


 数日たったある日のこと、康太は救急箱を開けて中の物を引っかきまわしていた。
絆創膏や塗り薬を並べ、錠剤の入った瓶を後ろの方に置いてみたりしていると、部屋に入って来た母親が驚いてそれらを取り上げ、平手で康太の頬を打った。
「何やってるの!これはオモチャじゃないでしょ!?こんなに出して、どうしていらないことばっかりするの!?忙しいのに、邪魔ばっかりして。」
 康太は泣かなかった。
ただ黙って母親の声を聴いていた。頬にはジーンとした痛みがあるが、当然のようにそれに耐えた。
 母親は救急箱を戻すと、部屋を出ていった。
 康太はリビングに行ってみた。
そこでは父親が、ソファーに座ってテレビを見ている。
テレビの前にあるテーブルの上には新聞紙が置いてあり、康太は新聞に載っている四コマ漫画を見ようとしてテレビの前に立ってしまった。
「ちっ」
舌打ちが聞こえたかと思うと、康太の体は横にむかって突き飛ばされた。
「そこにいたらテレビが見えないだろ!邪魔なんだよ。少しはそれくらい考えろ。」
父親はソファーに座りなおすと、またテレビを見始めた。
 康太は父親のようすをうかがっていたが、もう康太のことを見ていない父親を刺激しないようにゆっくりと立ち上がってその場を離れた。
 康太はキッチンに行ってみた。
そこでは母親が晩御飯を作っている。
母親が冷蔵庫を覗いているとき、康太はグラグラとお湯が沸騰する鍋を面白そうに見ていた。
「ちょっと、邪魔なんだからあっち行きなさい。まったく、余計な事しかしないんだから。」
母親は康太をキッチンから追い出し料理を続けた。

 真夜中、誰もが寝静まったころ、康太は起き上がってベッドを出た。出来るだけ音をたてないようにそっと動いて移動する。
自分の部屋を出ると、康太はキッチンへむかった。
 椅子を持ってきてその上に乗り、身を乗り出して手に取ったのは、包丁だった。
椅子から降りるときに上手くいかず、音をたててしまったが、親が起きたようすはない。
(大丈夫、起きないはずだ)
親の料理に入れた強い睡眠薬が効いていれば、起きることは無い。それでも康太は静かに動いた。
 包丁を持ってむかったのは、両親の寝室。ドアをゆっくり開くと、ベッドで眠っている両親が見える。
 康太はゆっくりと呼吸をしながら歩いた。自分が吐く息の音が異常に大きく聞こえる。
 ベッドのすぐそばまで来たとき、手に汗をかいていることに気付いた。パジャマの腰のところで汗を拭いて、包丁を握りなおす。
 心臓が耳元でなっているかのように鼓動が大きく聞こえる。
 目の前には父親が、その隣には母親が寝息をたてている。
(頑張らないと、やりたいことは出来ない)
胸の前で包丁をしっかりと構えて、深く刺さるように勢いよく、体重をかけて、父親に包丁を突き刺す─────。
「っぐ!」
父親の口から声が漏れる。だが、それを気にしてはいられなかった。完全に起きてしまう前に、抵抗されてしまう前に終わらせないといけない。
(動くな動くな動くな動くな)
吹き出す血にひるみそうになったのは一瞬だけだった。
 胸を、首を、目を、口を、何度も刺して動かなくする。
睡眠薬のおかげで、隣の母親は目を覚まさない。それでも急いだ。この勢いのままやらなければ、失敗してしまう気がした。
同じように、力いっぱい包丁を突き刺した。
(はやくはやく、終われ終われ!)
吸い込む空気は血の臭いで満ちている。それで激しくむせた時、ようやく刺すのを止めた。
 両親は動かない。大量の血がパジャマとベッドを赤く染めていた。
誰がどう見ても、二人は死んでいる。
 康太は包丁を投げ出すと、二人の間に自分も横たわった。そして、そっとそれぞれの手を握った。
「やっと・・・手、つないでくれた。」
今、彼のやりたかったこと、一番の願いが叶った。
 しかし、握っている手がこれから冷たくなっていくことも、決してその手が握り返してくれることは無いことも、彼の心にあふれる幸福にかき消されて、気付かない。
「パパ、ママ、・・・大好き。」
ベッドの上で、二つの死体と手をつなぐ子供は、満面の笑みを浮かべていた。

                        終わり

※殺人は絶対にやってはいけません。

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2015/07/02 23:25
淋しい家庭なんだね、それで死んでから手をついんだ^^



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