安保法案が衆院を通過。
強行採決のありさまは、実に子供じみていて見るに堪えないものだった。

数の力で押し切る与党、烏合の衆でしかない野党。
特に野党の惰弱さは目を覆う。抗議の意味で自主欠席するということは、戦闘放棄したのと同じだ。

しかしそれは、我々国民にもいえることである。
今の政治や政治家が生まれたのは、投票する国民のせい。
いまさら慌ててプラカードを作り、抗議活動をしても遅いのである。

以前の民主政権の失敗から、自民党にしか託せなくなったという心境は分からないでもない。
しかし、現与党の方針はずっと前から集団自衛権について前向きであったのであり、そういう集団が決定権を持ったらどうなるか、想像はできたことだ。

それなのに、前回の総選挙ではまたも与党が大勝。
投票を棄権した人数も相当多かったのは、与党に対する抗議でもあったろう。
だが投票した人々も、ちゃんと考えて票を入れたのだろうか。


自分の住む青森県は原発施設と陸海の自衛隊駐屯地があり、三沢には米軍基地もある。
重要な工業施設や発電所もある。
戦争になったら、かなり早い段階で狙われる地域に、もろに住んでいる。

原発と自衛隊、三沢基地のため、わが県は自民１強。
現状の生活を守るために大半の住民が自民に投票する。
だがもっと嘆かわしいのは投票放棄だ。
自民１強体質がまず理由の一つ。さらに津軽地域では田舎根性で選挙が住民と癒着しており、汚職が絶えない地域ゆえ「どうせ投票しても…」という無気力・無思考人間が多いせいである。

だが、過日行われた県知事選で、新人の候補者がかなり多くの票を受けていたことが興味深い。
現状に疑問を持ち、変革を望む住民が少なからずいたことには、少しほっとした。
それでも現職が多数の票で勝利した。
政治活動が長く、青森の特産品を売るセールス能力、原発推進派であることに票が集まったのだろう。
自民党員である現知事に投票した人々は、まだ与党への期待と依存が抜けないらしい。

ちなみに衆院議長も青森代表の政治家であるが…、同じ郷の出身だからといって、地域の声が直接届く可能性はかなり低い。
投票した人々の依存とは、そういうことを指す。
力のある政党に顔が利く、パイプ役になれるだろう、そんな期待があったのではないか。

政治家たちの人柄を見れば、そんな無言の期待は通用しない。
こうして、現首相と与党の強行がまかり通っているのがその証拠だ。
野党が頼りにならないから、力を持つ与党なら自分達の思うような政治をやってくれるのではないか、という甘え。
集団自衛権なんてやらずに、とりあえず経済面の上昇効果だけをやってくださいよ、という考えが。

…そんなわけないだろう？
首相の人柄、政党の意向をちょっと考えてみれば分かることだ。
想像力の欠如と見通しの甘さが現状を招いた。
タイムリーにも、国立競技場の新設について見通しの甘さがたたかれているが、それも集大成だといえる。
政治家の見通しの甘さは、今に始まったことじゃない。

もし今、戦争になったらどうなるか。
七十数年前のように、防空頭巾をかぶって空襲に逃げ惑う、そういう状況には、まずならないだろう。
だが、サイバー攻撃によるライフラインの切断、情報の混乱、そして日本各地にある原発施設が攻撃されることは明白だ。
各地の原発にミサイル一発でも食らわせれば、日本の三分の二は確実に死滅するだろう。
原発は、国土にむき出しの心臓をさらしているようなものなのだ。

戦争は人間を化け物にする。
略奪、殺人、強姦が正当に行われてしまう。
戦争が終わって自国に帰っても、それを裁かれることはない。
過去の戦争でそれらを行った人間が今も生きているんだろう。もしかしたら自分の先祖にいるかもしれない。

それを実感として感じることができない人がとても多いようだ。

私の妹もそうである。
強行採決について意見を訊いたところ、「別に長生きしたくもないし、戦争になったらなったで、苦しみながら死ぬのは仕方ない。それに、（危険な目に遭うのは）どうせ自衛隊だけでしょ」という答えが返ってきた。
他人事のように話すありさまに、「これが日本の現状なんだ…」とがっかりした。

だから、こう話してみた。
「もし本当に戦争になったら、自衛隊だけで済むわけがない。自衛官が戦死して数が減ったら、国策で徴兵が始まる。働き盛りの夫や彼氏が兵隊に取られるんだぞ」
この一言には、さすがに神妙な顔つきになった。妹には現在彼氏がいる。

「じゃあどうすればいいのさ」と、妹は言った。
選挙に行くことだ、と私は言った。
たとえ無能であっても、口先だけであっても、自分の考えと一致する政党、候補者に投票すること。
戦争を推奨するような政党には投票するな。
選挙権だけが、無力と言われる国民が行使できる、唯一の武器なんだ。

報道のせいで思考を誘導され、与党有利に働いてしまう現状の選挙だが、一人一人が考えを持って投票すれば、最悪の事態は避けられる。
投票の放棄は意思表示にならない。組織票が勝利するだけだ。

自分なんかが投票したって、と無力感に支配され、投票所に行かない人がいる。
かつての自分もそうだった。
だが、選挙で投票することは、にわかにデモに参加して声高に叫ぶより、ずっと有効で強力な手段なのである。
そのことにたくさんの人が気付けば…日本は変わる。

戦争を国や個人の利益としてではなく、それはおぞましい殺人や暴行なのだという本能的な認識が必要だ。
傷つくのは自分と同じ人間である。そして家族かもしれないからだ。
今声を上げている人達は、その本能に駆られてのことかもしれない。

しかし、最も声高に訴え続ける人に依存するのはよくない。
誰か一人のカリスマに頼るのではなく、自分達自身がしっかり考えを持っていないと、結局は同じことになる。

「戦争しない、なんて現実的ではない」「どうせ法案が通ったら、いずれ国民はその怒りを忘れる」と、何もかも分かったふりして見下し冷笑する輩は放っておけ。
絶対に戦争は嫌だという気持ちを、忘れないでほしい。
それこそが人たるゆえんであり、この世の善だと思う。


※米軍基地の抑止力は表向きでしかない。同盟という後ろ盾はあるが…。本当に助けてくれる保証はどこにもない。
日本に基地を置くのはアジアへの前線基地だから。
日本の自立、国防は重要だ。しかしそれを理解した上で、反対を訴えたい。