アスパシオンの弟子55 処刑(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2015/07/26 14:20:08
泉?
泉とは一体?
それよりも、僕を救ってくれる人なんているのでしょうか。こんな大失敗をかました僕を、
許してやろうなんていう奇特な人なんて。
あのおかしい我が師でさえ、呆れ返っているんじゃ?
だから、影も形もなくだんまりなんじゃ? それとも白の導師に完全におかしくされた?
たしかにウサギを与えられてからというもの、我が師はおよそ尋常ではありませんでしたけど……。
白の導師のあの清らかな気を思うと、いまだに信じられません。
まさか本当に白の導師は、蒼鹿家と繋がっているのでしょうか。
わからない。わからない……。
灰色のアミーケが訪れてからしばらくしてのち。判決が下りました。
むろん、有罪です。
申し開きも弁護もつけられないどころか、裁判の場にいることすら、「危険な」僕には
許されませんでした。
アミーケの予想通り、魔人の僕はこの地で凍結され、永遠に封印されることになり。アミーケ
自身も、水鏡の寺院へ送還処分になりました。
副官のホニバさん始めとするメキドの交渉団は、僕とは無関係だというセバスちゃんの
訴えが何とか通り、
一年間メキドから追放されるだけで済みました。
判決を知らせにきた役人は、僕をすぐに牢から引き出しました。ただちに処刑を、という
蒼鹿家の意向が汲まれたからでした。
凍結される前に丸三日、僕はファイカの議事堂前の広場でさらされました。
両手両足を縛られ、丈高い円柱から吊り下げられた僕を、蒼鹿家に命じられた者どもが
石を投げて痛めつけました。
セバスちゃんを始めとするメキド人はすべて、僕に近づくことを禁じられました。彼らは
議事堂の窓から、痛ましい泣き顔で僕を眺めることしかできませんでした。
こんな僕のために泣いてくれるなんて……申し訳なさと絶望とで、僕も涙が止まりませんでした。
三日目の夜ふけ。
ひと気のない広場に、息を潜めてこっそりと、僕に近づくものがありました。
それはなんと――僕がさらおうとした「エリシア姫」その人でした。
「あの。あなたに、謝罪しなければならないことが……あります」
人目を盗んで忍んできたのでしょう。黒いマントを羽織るそのちぢこまって震える姿は、
今にも闇の中に消え入りそうでした。
「あの、私は……エリシア王女殿下の侍女でした。姫様がトルナート陛下を逃がし、革命軍に
斬られた時、私は瀕死の姫様の御身を抱えて必死に国外へ逃げたのです。でも、国境を越えて
身を寄せたとある小国で、姫様はあえなくお亡くなりに……。でもその後、その小国の王は、当時
交易問題で争っていた蒼鹿家に私を売ったのです。『メキドの姫』として……」
柱の下にたまっている血だまりに、ぽろぽろと「姫」の涙がこぼれ落ちました。
「だから私は本物の姫ではないのです。このことがばれたら、私をうったあの国は、蒼鹿家に
滅ぼされてしまいます。だから私は、今までずっとエリシアとして生きてきました。だって私を
売ったその国は……」
姫の声は涙に埋もれて、途切れ途切れでした。
「私の故郷なのです……私はどうしても、守りたかったんです……そこに住む、両親を」
だから自分もあなたと同じ罪人だと、「姫」はしばらく僕の下で泣き続けました。おのが正体を
蒼鹿家にばらしていれば、あなたはこんな罪を犯さずに済んだと。
「こんな私を、あなたは守ると。絶対守るといってくださって……とても、とても、自分が
悪者に思えます。だから、私は遺書を書いて、ファイカの国主さまのもとへお届けして
きました。これから私は、人知れぬところで命を絶って――」
しかし「姫」の言葉は途中で途切れました。
「きゃあ!」
広場の奥から僕に石を投げた蒼鹿家の男たちがわらわらと出てきて、彼女をあっという間に
拘束したのです。
彼らは密かにこの広場を監視していたのでした。
「死なせてください!」
懇願する「姫」を、男たちは丁重に、しかし断固とした態度で連れ去っていきました。
「お願いします! 私を死なせてください!」
それは。僕も今、一番叫びたい言葉でした。
切に、心から願う言葉でした。
『死なせてください!』
夜が明けて。ついに処刑が行われました。
場所は、噴煙の寺院跡の地下でした。
そこにはしゅうしゅうと蒸気が吹き出る人工熱泉が、ずらりと並んでいました。かつて金属を
洗ったり溶かしたりするためのものだったようです。僕はその最も奥にある、三つの泉の
前に引っ立てられました。
ファイカの国主、蒼鹿家の宰相、メキドの宰相セバスちゃん、それから理事国大使たち。
彼らが見守る中で、僕は拘束された姿のまま、蒼く澄んだまんなかの泉に突き落とされました。
どぶん、と水音がして。冷たい泉の水が全身を包み込んだ瞬間――
「……生きてる?」
「生きてるみたい。あ、目を開けた。うわ、右目真っ赤」
瞬きした刹那。体がぐいと引き上げられる感覚がして。
「これが、魔人?」
目を開けると。
僕は真ん中の泉の前に寝かされていて、同じ顔をした赤毛の女の子二人にのぞき込まれていました。
あ……れ?
ここは地下のはずなのに。暗い天井に覆われているはずなのに。
蒼い空が、見える?
赤毛の女の子たちは、僕の眼の前でおでこを合わせて一冊の古い書物を広げて、僕と本を
交互に見比べました。
「すっごーい! 『師に捧ぐ歴史書』に書いてある通りよね。ほら、ここ。
『神聖暦7371年、かくして不死身の魔人ペペは、噴煙の寺院跡地の時の泉に
封印された』って」
え?! 時の、泉?
「さあ、こいつにさっさと服従の印を施しちゃいましょ」
「でもこれ、なんだか普通の男の子っぽいよね? 引き上げた時は、もっと大きい獣みたいに
見えたのに。なんか弱そう~」
二人とも、蒼い瞳がきれいな、かわいい女の子。
どことなく、二人のエリシア姫に似ているような? ああもう! ここまできても、
赤毛の子に反応してしまうなんて。
いやそれよりも。
「あの」
轡(くつわ)を外してもらった僕は。ごくりと息を呑んで、開口一番聞きました。
「あの。今……何年ですか?」
嫌な予感は、当たっていました。双子の女の子たちは、口を揃えて答えてくれました。
無常な年号を。
「7871年よ!」「7871年ね!」
彼女たちが古い書物を広げて言っていた年号はたしか……7371年……。
泉の中に入っている間の時間をちっとも感じないなんて……「凍結」の意味って……!
つまりこの泉の中では、「時間が止まっている」?!
というか。 女の子たちが持っている本って……一体?
「それ、貸してっ!」
僕は目を見開いて、女の子達からぼろぼろの本を引ったくりました。
革表紙に刻印された題字を見たとたん。全身が粟立ちました。
半ば禿げていましたが、かろうじて判読できます。
穴があくかと思うほど、僕はその金色の文字を眺めました。
しゅんしゅんと赤い瞳で拡大と縮小を繰り返して、読みました。
何度も。
何度も。
抜けた天井から差し込む光に照らされて、きら、と光るその文字を――。
『historical libro V
Dedicate Ad magister
Discipulus Aspasionis』
(師に捧ぐ歴史書 第五巻 著:アスパシオンの弟子)
――浦島太郎さん
読んで下さってありがとうございます><
泉にどっぽん、未来へタイムワープときたらもう、
次の行き先はもうあそこしか^^;
ぺぺはどこまで世界を作れるのでしょうか^^
読んで下さりありがとうございます><
これからいろいろ、やりたい放題のぺぺさんになるのでありました^^
読んで下さってありがとうございます><
泉は科学の頂点タイムマシンー! らしいのですが
一体誰が作ったのでしょうか。
もしかしたらこの星に移住してきた地球人ではないのかも。
読んで下さってありがとうございます><
ペペ爆弾、まともに書くと今までより長い話になってしまいそうなので
どうまとめるかが考えどころです^^;
予定どおり無事に?処刑されたペペさん。
救いの手が差し伸べられたのは500年後の世界。
目の前にはかわいい二人の女の子。
そして自身の著書・・・
空間だけでなく、時間軸まで移動する展開の4次元ストーリー^^
灰色の導師が言った隣の泉、なすべきこと、もとを断つ。
もう先を期待せずにはいられません。
いつも楽しいお話をありがとうございます♪
今後の事を期待するしかないです。
魂を悪魔に売り渡してもいいから見てみたいな。
時を止める泉。
作り出すためには、光速の速度かブラックホール並みの質量が必要。
どちらでも構わないけれど、500年後の世界を見せてくれ。
ガッカリする結果でも構わないから。
お題:夏休みの過ごし方
まさか「おまえが飼い主だろう、責任取れ」といわれて、伴侶と離されて、
温泉地から温泉地へ強制移動させられることになるとは! と、
大変不機嫌になられたアミーケさんなのでした。
「腹いせに時限爆弾仕込んでやったわ。くくくっ」、の巻でした。
がんばれ「時限爆弾・ぺぺ」(・ω・!