Nicotto Town


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自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・4

「何?!」
 普段は泰然としている王が、わずかに腰を浮かした。ロランも、玉座の肘掛けを両手で強く握りしめていた。大臣達もざわついたが、兵士が再び口を開くと、聞き逃すまいと口をつぐむ。
「……まったくの奇襲でありました……ムーンブルク城は戦の態勢も整わぬまま精兵達が次々と……。国王陛下、そしてルナ王女殿下も、混乱の中行方不明に……」
 張りつめた空気が、さらに凝固した。ロランのみぞおちに重く冷たい何かが落ちる。
「さ、昨今世界を侵食する邪教に対抗すべく、陛下は邪教団のありかを調査しておりました……。その手がかりをつかんだ矢先、突然真昼の空に黒雲が現れ……、城は……町は、魔物達の手によって火の海に……」
 兵士は激しく咳き込んだ。手で押さえた口元から赤黒く粘った液体がこぼれ落ちる。しかし兵士は毅然とおもてを上げ、ローレシア3世を見つめた。
「邪教の主、邪神官ハーゴンは、邪法をもって悪霊の神々を呼び出し、世界を破滅させるつもりです。いずれはサマルトリアや、この国も……! ローレシア国王陛下、なにとぞ、ご対策を……!」
「あっ……!」
 兵士が話し終えたとたん、ロランは思わず立ち上がっていた。兵士が鎧の音高く前のめりに崩れ落ちたのだ。
「……息を引き取りました」
 彼を運んできた衛兵二人が駆け寄って倒れた兵士の脈を取り、片方がロランと王へ向かって無念そうに告げた。
「……そうか……。勇敢な……まことに勇敢な兵士であった」
 王は一瞬、固く両目を閉じた。涙を抑えたのだと、ロランはわかった。
「その者を、手厚く葬ってやってくれ。そなた達も、かの者を思いやる、よき働きであった。我がローレシアの兵士にそなたらのような誇り高き者達がいて、わしは誇りに思う。……ありがとう」
「はっ」
 二人の衛兵はそろって敬礼を返した。彼らの目にも涙がにじんでいた。
 二人がこと切れた兵士を恭しく運んでいくと、大臣達は皆、顔を見合わせた。いたずらに騒ぎ立てないのはさすがローレシアの重臣たちだが、同盟国であるムーンブルクが落ちて不安なのは、手に取るようにロランに伝わってきた。
「……魔法の技にかけては随一のムーンブルク国が落ちた。話からして、おそらく一日あまりのことであろう。敵の勢力は計り知れん。この件については、明日、あらためて評議しよう。まずは皆の者、下がってよい」
 近臣達はそろって頭を下げた。ここでは引き下がったが、あとで城内の大部屋を借りて、今後どうすへきか激しい議論を戦わせるだろう。
 大勢が去ると、謁見の間には王とロラン、先ほどから沈黙を守っていた小太りの初老の宰相マルモアと、近衛兵隊長のシルクスだけが残った。マルモアは宰相だが、ロランの教育係でもある。シルクスは剣技と清廉な性格を高く買われ、年若く抜擢された男だ。ロランが幼いころから武術を習った師匠でもあった。
「陛下……お従兄弟(いとこ)であらせられる、ムーンブルク国王ヒンメル様のご崩御、まことに残念でございます……。心中、お察しいたしまする」
 マルモアが王の前で沈痛に髪の薄い頭を下げる。うむ、と王はまたきつく目を閉じた。
「ありがとう、マルモア。だが悲しみに浸ってもおれん。勇者ロトの血脈を継ぐ王家として、我らは責務を果たさねばならぬ。……マルモア、シルクスよ。そなたらも下がってよい。わしはロランと話がある」
 王の目に何を感じたのか、マルモアとシルクスの目つきが不安げに変わった。
「ロラン、ついてまいれ」
 二人には構わず、王は玉座から立ち上がった。ロランも後に続く。
 近臣二人は深々と礼をし、王と王子を見送った。




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