Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・11

「ロラン? お兄ちゃんがよくお話ししてた人?」
「そうでございますよ、あのロラン王子様でございます。姫様、どうぞごあいさつを」
 かしこまって女官がアリシアの後ろに控える。先にロランが膝を突き、アリシアの目を見つめた。
「初めまして……じゃないかな、君が赤ん坊のころ、一度会ってるよ。アリシア」
「そうよね。あたしは覚えてないけど」
 ふわふわしたうなじまでの金髪に蝶の形をしたティアラを着けた幼い王女は、小首を傾げて笑ってみせた。ドレスの胸に付いた大きな紫色のリボンに黒い絹の靴は、この年頃の子が着るにはひどく大人びている。
 アリシアは、五つ離れたランドの妹だ。二人の母親は城の大聖堂に仕える尼僧だった。しかし、つつましい性格が多い尼僧には珍しく、彼女は天真爛漫で場をもり立てる女性だった。現国王はそれを気に入り、妻にしたという。
 だがランドが7歳のころ、野に薬草を摘みに行って落馬し、帰らぬ人となった。王妃になっても自分から馬に乗り、遠出するような人柄こそ愛した王だが、母の面差しを強く継ぐアリシアはそうならないでほしいという願いがあるに違いない。多少わがままなふるまいを見ても、どれだけ娘を戦いから遠ざけ、かわいがっているか察せられた。 
「ようこそ、サマルトリアのお城に。歓迎するわ」
 王女教育はしっかりなされているらしく、アリシアは優雅にドレスの裾をつまんで礼を返した。そしてロランに見とれている女官に険しく振り向く。
「ちょっと、何ぼーっとしてるの? 早くお茶の準備をなさい! ロラン王子をおもてなしするのよ!」
「は、はいっ!」
 我に帰った女官が、ドレスの裾を持って慌てて駆けだしていく。アリシアはロランを見てにっこりした。いい退屈しのぎが見つかったからだ。


 近衛兵に守られた城内の奥まったところに、アリシアの部屋はあった。
「お兄ちゃんだけ冒険に出られるなんて、ずるいわよ。あたしも行きたい! あたしだって勇者の子孫なのにっ」
 女官の給仕のもと、ロランはアリシアの愚痴につき合わされていた。果物やクリームをふんだんに盛ったケーキを頬張り、アリシアのおしゃべりは止まらない。よほど城の閉鎖的な生活に飽き飽きしていたのだろう。
 ロランは、木の実や種をたっぷり焼き込んだシードケーキを食べていた。これが大好きで、サマルトリア城に遊びに来たときは必ず食べていたものだ。スパイスの調合や甘味は、あのころと変わっていない。
 アリシアに会ったのは失敗だったかと、ロランは焦り始めていた。一刻も早く勇者の泉の洞窟へ向かいたかったし、ランドのことも気遣われたからだ。
「なんで、あんなにぼーっとしてるお兄ちゃんが選ばれたのかしら……。あたしだって魔法の力があるのに」
「呪文、使えるのかい?」
「これから使える予定なのっ」
 口の回りにクリームを付けたまま、アリシアはむきになった。ロランは弱々しく笑った。魔法の力は先天的なものだが、生まれてすぐは使えないと聞いている。しかるべき訓練と教養を積んで、時期が来て初めて使うことができるそうだ。
「それじゃ、僕はそろそろ行くから。お茶、ごちそうさま」
 アリシアが紅茶をすすったところで、ロランは隙を逃さず立ち上がった。アリシアはまた、大人ぶったため息をついた。
「行ってもきっと会えないと思うわよ。お兄ちゃんてのんきもんだから、どっか寄り道してるかもしれないし。それで道に迷って、ドラキーに追っかけられてるんじゃないかなあ」
「だとしたら、なおさら探さなくちゃ」
「探すって、国は広いわよ? それよりここでお兄ちゃん待ってた方がいいんじゃない、そのうち疲れて帰ってくるわよ」
「ありがとう。でも行かなきゃ」
 なんとかこちらに引き止めようとするアリシアに微笑み、ロランは部屋を後にした。つまんなーい、とアリシアの声が追いかけてきて、苦笑した。




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