Nicotto Town


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自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・15

【友よ、ここに】

 今すぐにランドを追いかけたい気持ちだったが、何日もろくに休まずの強行軍だったので、さすがにロランも父の申し出を断れなかった。ランドもサマルトリアに帰ったのなら、向こうで自分を待っていてくれるに違いない。
 父やマルモア達も話を聞きたい様子だったので、ロランは一泊することにした。キメラの翼はあと一つ残っている。これで明日早くサマルトリアに飛べばいいだろう。
 父は喜び、さっそく早めの夕食の準備をさせた。その間に、ロランは久しぶりに入浴を済ませる。
 やがて、ランドの持ってきた〈豚の鼻〉を使った料理がテーブルに並んだ。親子水入らずになりたいと父が言ったので、父の居室に運ばせていた。
「旅の話を聞かせてくれ、ロラン」
 杯を傾け、父がうながした。串に刺して香ばしく焼いた鳥の肉に、〈豚の鼻〉を細かく刻んで混ぜたソースが絡んで湯気を立てている。ロランの好きな〈豚の鼻の山賊焼き〉だ。その一本を皿から取って、ロランは話をした。
 リリザに向かう途中、出会ったローレシアの商人。初めての魔物との戦い。破壊された街道の宿場町が完全に廃墟になっていたこと。リリザで会った兵士や子どものこと。サマルトリアは平穏で、王女アリシアも成長し、元気だったこと。勇者の泉にランドがいると聞いて向かったものの、行き違いになっていたこと。初めてキメラの翼を使って、ここに戻ってきたこと。
 父は微笑み、うなずいて聞いていた。
「なかなかの冒険であったな。お前なら、この辺りの魔物に負けることはないと思っておるが、しかしこの短期間で、かなり腕を上げたのではないか?」
「そうでしょうか」
「銅の剣ですべて渡り合っていることが、その証拠よ。あの切れ味の悪い武器で……しかもほとんど一撃で倒しているとは。昔から剣の上達が早かったが、やはりお前は、特別に戦いの才能があるのだな」
 褒められたのはうれしくもあったが、ロランは、父の言葉をうのみにはしなかった。油断と慢心が命の危険を招くということを、これまでの戦いで何度も思い知ったからだ。
 魔物との戦いのさなか、疲れ傷ついて薬草を使うことがあるが、間を誤って危うく魔物にとどめをさされそうになったり、戦いを避けようと逃げたら、何度も回り込まれて結局戦うはめになったり……。決して鮮やかでも、華麗でもない戦いばかりだ。
 一撃で倒せているのは、ロランの腕力が格別強い証拠だが、旅を進めれば、いずれ太刀打ちできなくなるだろう。
「ロラン。もっと自信を持て」
 ロランが黙り込むと、その心を見通したように父が言った。
「おごらぬよう、自らを戒める心構えは良し。だが、弱気にはなるな。迷いは剣も曇らせる。迷う剣は、おのれだけでなく、大切な仲間も危険にさらすのだ」
「はい」
「それに、お前の剣が通らぬ相手が出たとしても、仲間がお前を助けてくれるだろう。ランド王子とは久しぶりに会ったが、なかなか、見込みがあると見たぞ」
「そうなのですか?」
 父は自信ありげに笑った。
「本国サマルトリアでも、ランド王子の評判は決して華々しいものではないが……、それはあの方がまだ、種子だからだ。剣と魔法、両方使えるのは大器の証。だが、二つとも極めるには長い時間を要するだろう。いずれ大輪の花を咲かせる時には、お前の片腕、良き相棒になっているだろう」
(ランドが……相棒?)
 ロランは胸でその言葉をつぶやいてみた。ただの仲間とも、友人とも違う響きに、胸の中心が熱くなる気がした。
「それにしても、〈豚の鼻〉はうまいな。わしも何年ぶりかに食べた。ランド王子に感謝せねばな」
「そうですね」
 父がおいしそうに焼き鳥を頬張り、ロランもあとは、ひたすら食べることに熱中した。空腹時には、乾し肉や保存用の固いパンもごちそうではあるが、長年、城の一流料理人の作った料理で慣らされてきた舌は不満を抱えていたらしい。何日かぶりに食べる温かい宮廷料理は舌にうれしく、父もふだんは粗食のため、二人は盛んに飲み、食べた。
 親子だけの宴はしばらく続き、久しぶりに満ち足りた気分で、ロランは自分の寝室で眠ることができた。
 気力体力ともに充実させ、ロランは翌朝、再びローレシアを後にした。城下町を出たところでキメラの翼を取り出す。一度使ってしまえば、もう怖いことはなかった。
 ランドと会えたら、どんな話をしようか。高まる気持ちを抑えきれぬまま、ロランはサマルトリアへと飛んだ。




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