自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・16
- カテゴリ:自作小説
- 2015/09/01 22:38:51
無事にサマルトリア城下町に着くと、ロランはすぐ城へ向かった。
城内1階には大聖堂があり、ここは日中、町の人々に開放されていて、人の出入りが多かった。犯罪率の低さでも有名だったこの町にも、ついにスリの集団が出たと、リリザの町で噂になっていた。
対策としてか、出入り口や廊下に立つ衛兵の数が目立った。さらに、〈スリに注意!〉という看板まで出ている。そのあたり、おおらかなサマルトリア王らしい。
城の出入り口に立つ衛兵は、ロランの顔を見ると心得たようにうなずいた。「どうぞお通り下さい」と、恭しく礼をする。
前に訪れた時に王の謁見を願った際も、さして厳しい検査はされなかった。ロランの父王もそうだが、よほど忙しくなければ、王は旅人にも会ってあいさつをする。そうして国内外の情報を集め、さらに訪問者に国への親しみを持ってもらうのがねらいだ。しかし、衛兵がかしこまって礼をするのは、王族だけである。
ロランが城門に来たことで、サマルトリア王にも話が通っていたらしく、謁見の間に入ると、すでに王が玉座に座っていた。だが、肝心の彼がいない。
嫌な予感がした。
「おお、ロラン王子。よくぞ無事で。……して、ランドはどうしたね?」
「……え?」
王の対応に、聞き返すまでもないだろう。だが一筋の希望をこめて、ロランは問い返した。
「ローレシアに僕を迎えに行ったと聞いたので、僕も一度家に帰ったのですが、僕の不在に、ランドはサマルトリアへ戻ったと。そう父から聞きました」
「なんとっ」
なんと、じゃないぞ……。目を丸くする王に、ロランは思わず八つ当たりしたくなった。さあ、今度はどこへ行ったんだ?
ここに来るまでに何日かかったと思ってるんだ。春先でまだ朝晩冷え込み、何日もの野宿は正直つらかった。魔物が次々と襲いかかってくる山を越えるのも大変だったのだ。キメラの翼がなかったら、ひと月は無駄にしていたところだ。
もし王がまた、息子は一度戻ってきたが、またどこかへ行ったと言うなら、さすがに怒るつもりだった。なぜ力ずくで引き止めなかったのかと。
ロランが身構えていると、王は困ったように首を傾げた。
「ランドはここに戻ってきておらんぞ」
「え?!」
肩すかしを食らった気分だった。ロランが言葉を告げないでいると、王は、戻っていないと繰り返した。
「あやつ、いったいどこにおるのだ? もしかしたらここに来る途中、またローレシアに戻ったのかもしれんな。そこで待つ方が良いと思って……」
そうだろうか。ロランは考えた。ランドの行動力は異常だ。ひと所にとどまらず、次から次へと飛び回っている。のんき者といえばのんびり屋が相場だが、むしろせっかちなくらいだ。
王もそれを知っているから、ローレシアに後戻りしたのではと言ったのだが、なんとなくそれは違う気がした。
(またローレシアに戻るのはきついな……キメラの翼を買うお金が、もうないし。かといって、歩くのもな……それでまたすれ違いになったら、何日もまた無駄にしてしまう)
こうしている間にも、邪教の軍団はあちこちを侵略しているだろう。行方不明のルナの安否も気がかりだ。
だが、ランドの行き先は、ここか、ローレシアしかない。やはり戻るしかないだろうと、ロランは渋々決断した。
「ありがとうございました。もう一度、城に戻ってみます」
「うむ……たびたび世話をかけて、申し訳ない。息子に代わってわしが謝ろう。それでもし、あやつがここに来たら、次は縛ってでも引き止めておくからな」
「よろしくお願いします」
「うむ」
お互いに剣呑な約束を取り交わし、ロランはサマルトリア城をあとにした。