自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・19
- カテゴリ:自作小説
- 2015/09/04 09:16:54
サマルトリア城下町から北西へ、ロランとランドは進路を取った。城下町で多めに保存食や道具類を買ったが、城には寄らなかった。
ランドが、妹に会うのを避けたのだ。会わなくてよかったのかと問うと、ランドは苦笑した。
「外に出たいって気持ちに、火がついちゃうだろ? でも、こっちはだめだって言うしかない。結構つらいんだよ、兄としては」
「そうだな……」
アリシアの長話に同席させられるのも懲りていたので、ロランとしても助かった。アリシアには、少し気の毒だが。
サマルトリアは世界の北に位置し、年間通して冷涼な気候である。ロラン達が歩いている、緩やかな起伏を描く平原には、背の低い植物が多く生い茂り、奇岩があちこち点在している。サマルトリア地方の特徴的な風景だ。
この時期は曇り空が多く、この日も曇っていた。晴れていれば広大な景色を楽しめただろうが、今は物寂しさが漂っている。冬ならなおさらだろう。
「思ったんだけど」
歩きながら、ロランが尋ねた。
「銀の鍵はランドの家に伝わっているんだろう? どうして洞窟にあるんだ?」
ロランの後ろを歩くランドが、やや肩をすくめた。
「そりゃ、悪用されないためさ。言っちゃなんだけど、あれは全世界の一般人の家の扉を開けるくらいの力はあるからね」
「昔のサマルトリア王が作らせたのか? もしかして、よく鍵を落としてたとか」
「違う違う。取り上げたんだよ、初代サマルトリア王が」
それなら面白いけどね、とランドは笑いながら由来を話した。
初代サマルトリア王の時代、アレフガルドに住んでいた魔法の鍵職人が移り住んできた。当時、アレフガルド大陸にあったすべての町では、家々は魔法で作られた鍵を用いており、厳重な施錠をしていた。
竜王の時代、格段に増えた悪党や魔物から身を守るためと言われているが、すぐ壊れてしまうので経済的ではなく、魔法の鍵産業はいつしか廃れ、普通の鍵を用いるようになった。
しかし、魔法の鍵職人の生き残りが、ついに壊れない魔法の鍵を作り上げた。それが銀の鍵である。
職人はさっそく、初代サマルトリア王にそれを献上した。量産して民に売り、皆が鍵を使えるようにと申し出たが、賢明な初代サマルトリア王は、この鍵に致命的な欠陥があることに気がついた。
ランドの話した通りのこと――よほど複雑でなければ、鍵穴に関係なく解錠してしまう事実にである。
これでは、誰でも他人の家に入れてしまうし、盗賊などが悪用しかねない。そのことを告げられた職人は多大な衝撃を受け、慚愧(ざんき)の念を持って廃業を決意した。王は彼をなぐさめ、代わりに、細工の腕を買って宝飾師の仕事を与えたという。
そして銀の鍵は、王家の者でも悪心を抱かぬよう、城から西へ遠く離れた湖の洞窟へ封印したのであった。
「なるほど。その洞窟のある湖って、一度だけ、みんなで来たっけ」
「そうそう、お弁当持ってね」
ランドが隣に来て、ロランは微笑み合った。6歳の夏に、ランドとルナ、父親達とそろって遊びに行ったことがあった。それが、皆で遠出した最後の思い出になっている。
「きれいな所だったな。でも、あの洞窟にそんな話があるなんて知らなかった」
「ぼくも、鍵を見るのは初めてなんだ。でも見つかれば、きっとこれだってわかる」
半日歩くと、白く切り立つ岩山が見えてきた。細い谷になっていて、西へ抜けるにはここを通らなければならない。
あの時は、馬車を仕立てて行ったんだ。ロランはまた、昔を思い出していた。絶え間なくランドやルナとおしゃべりをして、いろんなものを見て、そのすべてに感動した。親達も笑っていて、輝いていた。一番幸せだった、あのころ。
「魔物だ!」
峡谷にさしかかったとたん、ランドが鋭い声で叫んだ。一瞬で現実に戻り、ロランは銅の剣を抜く。ランドは、まだ不慣れな棍棒を両手で構える。
その左腕には、小さく丸い盾を着けていた。木の板になめし革を張っただけの簡素な盾だが、このあたりの魔物相手に身を守ることはできる。ロランが初めてリリザに立ち寄った時に買った、皮の盾だ。ランドの身がいささか不安なので、自分の分を与えたのである。
ナイフのように鋭い岩が折り重なった壁面を滑り下りてくるのは、赤と黒の縞模様が毒々しい大蛇、キングコブラだ。3匹もいる。
ロランは今さらながら、自分の武器が銅の剣であることに舌打ちした。ランドの武器が棍棒のままであることにも。
キングコブラが、今まで遭った魔物より強いだろうことは直感した。旅の日程を送らせてでも、町の周辺で戦ってゴールドを稼ぎ、鎖鎌を買えばよかったか。
ぬめぬめと光る大蛇の胴の太さは大人の脚ほどもあり、長さはその3倍はあろう。鈍器でどこまで通じるか。