自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・31
- カテゴリ:自作小説
- 2015/09/09 11:11:43
ロト王族同士で、避難路のありかは伝えられていた。
ムーンブルク城中央にある庭園は、一度城の外に出て壁沿いに下り、城南西壁にある別口から入らないと行けない。薬草も残り少なく、次々と襲いかかってくる魔物に手を焼きながら、二人は苦労して庭園に入った。
美しく整えられ、咲き誇っていたであろう草花や木々は炭と化していたが、ここだけは毒と瘴気の汚染が少なかった。ほっとして顔を覆っていた手布を外し、空を見上げると、いつの間にか夜になっていたらしく、星が瞬いていた。
隠し階段はすぐに見つかった。ぽっかりと地面に口を開けたそこへ、たいまつを掲げたロランとランドは用心深く降りた。
中は広めの地下室になっており、床を毒水が半分覆っていた。汚染のない壁際の床に人影がうずくまっている。それがわずかに身じろぎしたので、ランドが驚いて大声を上げた。
「生きてる?!」
「しっかり! 大丈夫ですか?!」
ロランは駆け寄り、たいまつを床に置いて男を助け起こした。それは、黒髪の青年騎士だった。肌は暗がりでもわかるほど青白く、乾いた唇には血が固まってこびり付いていた。
青年はうっすらと目を開けた。生気のない目がロランを捉える。
「ああ……あなたは、死人ではない……旅の方が、こんな所へ……どうして」
「ローレシアのロランと、サマルトリアのランドです。僕達は行方不明のルナ王女を捜しています。ムーンブルクの騎士殿とお見受けします、なんでもいい、知っていることがあれば教えてください」
ロランの名乗りを聞いて、青年の薄く開いた瞳がかすかな驚きを放った。そして、淡い安堵を浮かべる。
「ロラン、ランド、両殿下……。ああ、待っていた甲斐があった。あなた方なら、きっと王女を助けられる」
「待っててください、今、ホイミの呪文を……」
ランドが回復させようとすると、騎士は手のひらを差し向けて止めた。かすれた声で言う。
「一刻を争います……どうか聞いてください。……ルナ姫様は、悪魔神官の呪いにより、犬の姿に……。通常では、その呪いは解けない。まさに死に匹敵するものですが……この地には、太陽神ラーの鏡が眠っているという言い伝えがあります」
「ラーの鏡?」
ロランが問い返すと、騎士は弱々しくうなずいた。
「真実を映し出すという、ラーの鏡……それを呪われし姿の姫様に向ければ……きっと……」
「それはどこにあるか、わかりますか?」
「ここから東へ向かった地に、4本の橋が架かる川があります……。鏡は、そのたもとにある池に眠っているそうです。古くからの言い伝えゆえ、真相を確かめたことはなく……ですが、呪いを解く可能性は、これのほかには……」
「感謝します」
やっと手がかりを得た興奮にふるえながら、ロランは騎士の手を握った。ひどく冷たかった。
「ありがとう。必ず鏡を探し出し、ルナを助けてみせます」
ロランを見つめ、騎士は数度、弱くうなずいた。
「お頼み申します。どうか、姫様を……」
「あなたもここから出ましょう」
ランドが呼びかける。
「ムーンペタで手当てをすれば、助かりますよ!」
「ありがとうございます、ランド殿下。しかし私は、ここに残ります」
「でも、それでは……!」
言い募ろうとするランドの肩に、ロランは手を置いた。
「無理に動かすと危険かもしれない。それに、この人は残りたがってる」
「ロラン!」
見捨てるのか、とランドが非難の目を向けたが、ロランは、騎士の手を握った自分の手を見つめていた。
「必ずルナを助け、ここに連れてきます」
騎士を壁にもたせかけ、ロランは約束した。ランドが、その間に使ってくれと、残りの薬草全部と、水筒といくらかの食料を床に置く。ありがとう、と騎士は微笑んだ。