アスパシオンの弟子62 奇跡 (後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2015/09/10 23:25:02
「分魂法も灰色の技で可能です」
悩む俺を助けてくれたのは、秀才のソートくんだった。
「ルファの義眼の禁じ手の機能、〈破壊の目〉は魂を吸い込みます。その出力を調整すれば、
魂を完全には吸い込まなくなります。それで分魂と同じ効果を得られるかと」
ソートくんは涼しい顔で赤い義眼をいくつか、自分の机の引き出しから出してきた。
「三番島にこっそり行って、出力が違う〈破壊の目〉がついた義眼を何個か作ってみたんですよね」
え……いつのまに?
「容量を無限にするより、機能縮小させる方が百倍難しかったです」
そうだよね。時の泉の機能縮小版を作る手伝いをしたとき、一級技能導師さんたちが言ってた。
普通に作るより何十倍も手間かかるって。ていうか。かつて我が師アスパシオンから聞いた言葉を
このとき俺は思い出した。
『どっかんぼっかん大技繰り出すなんて超簡単なんだよ。でも黒き衣の導師になるには、韻律を
自在に微調整できるレベルにならねえと。鼻毛を気づかれないように最長老の肩に飛ばしてだな……』
そうだ鼻毛。鼻毛レベルになってるってことなのかソートくんは!
「は? なんですか鼻毛レベルって」
「いやー、すごいねソートくん! さすが秀才! いや、天才!」
分魂の入れ物は準備OKということで、俺は時の泉を我が城の地下に作ることにした。
時間流を堰き止めるタキオン波の結界装置を組み上げるには、かなりの日数がかかる。でも優秀な
ソートくんと一緒にやれば二人だけでも何とか作れるだろう。
「記憶を取り戻させていいんですか? 僕的には、殿下のことを忘れさせたままにしたらいいのに
と思いますけど?」
「それはダメだよソートくん。殿下はまだエリシア姫のことが好きなんだよ」
「渾身のプロポーズ姿でカプセルの前に行ったくせに」
い、いやそれは……実はほんの少しだけ、「ピピさんが私を助けてくれたのね」から大逆転
あるかな……とか。万が一の奇跡を期待したのは否定しないけど。けど……。
「僕だったら姫は死んだことにして、僕だけのものになるように囲いますけどね」
そ、それは。ソートくん、それはちょっとモラル的に危険じゃないか?
「好きになった子は、他のだれにも触れさせない。あ、僕だったら、の話ですけどね」
ソートくんの目は真剣だった。こわいぐらい真顔だった。この子、頭よすぎてちょっと得体の
知れないところがあるんだよね。これから怖い物作らないといいけど。
俺は、おのれが信じることをやるまでだ。
姫の記憶を取り戻す。姫と殿下を幸せにする。
そのためにやれることを、すべて。
それから俺は夜な夜なソートくんと一緒に徹夜でタキオン結界装置の部品を組み立てて。
明け方ウサギに変身し、姫の部屋のピッコちゃん専用布団に潜り込み。
昼間は姫に抱っこされて寝呆ける生活を送っていた。
そんなとある日の午前中。
「マエストロ・ピピ!」
城に客が来た。
「すまない。姫が完全に回復するまで遠慮しようと思ったんだけど。でもどうしても会いたくて……」
ほかでもない姫の想い人だった、カイヤート・シュラメリシュ殿下だった。
俺は急いで人間に戻り、応接室で殿下と会談した。
「一番上の兄上と和解できた。でも二番目の兄上とは残念ながら決別せざるを得なかった。僕を
殺そうとした黒幕は、二番目の兄上だったと判明したからだ。僕はこれから軍を率いて北の砦へ
入り、兄様と雌雄を決する。だからその前にひと目――」
「でも、姫は……」
「わかってる。姫の両親から事情を聞き出したよ。姫を生き返らせてくれたこと、感謝しても
しきれないというのに、僕の気持ちを慮って姫の症状のことを黙っててくれたなんて。その気持ちが
とても嬉しい。宮中では姫の回復が報じられて、みんなピピ様を褒め讃えている。おかげで黒き衣の
後見導師様が、ピピ様に後押しされてる僕をついに認めてくださって、一番上の兄上を説得して
くれたんだ。他の廷臣たちもみな、僕を支持してくれるようになった。これはみんな、ピピ様の
おかげだ」
「殿下、俺のこと買いかぶりすぎですよ。俺はそんな大層な人物じゃ――」
――「ピッコちゃん? どこにいったの?」
廊下から俺を探す姫の声が聞こえてくる。殿下が緊張したそぶりで居住まいを正す。
「ピピ様。僕は……姫に会う覚悟ができてます」
俺は殿下の気持ちに応えて、一緒に廊下に出て姫に会わせた。
「あら、お客様? ごきげんよう。ぜひ一緒にお茶を飲んで古典詩でも読みませんか?」
無邪気な姫は最近、お手伝い人形や書物から学んで、みるみる失った十年分の知識を埋めている。
足りないものは――大事な人との思い出だけだ。
殿下は目に涙を貯めて黙って姫を抱きしめた。
すると。
姫は一瞬びっくりしたけれども……驚いたことに彼女の白魚のような手は自然にゆっくり、
殿下の腰に回った。
直後。俺は我が耳目を疑った。
「あの……以前どこかで?」
姫の口から信じられない言葉が出たからだ。
「初めてという気が……しなくて。このぬくもり……」
頬をほんのり染めて、姫は首をかしげた。
「あたたかい、ぬくもり。私、知ってる……」
「エリシア……!」
殿下は姫をきつく抱きしめ、声を殺して泣き出した。
俺の目にも歓喜の涙がこみあげてきた。
奇跡だ。これこそ。これこそ本物の。奇跡。
すっかり消えたはずの記憶。なのに、姫は覚えていた。おぼろげだけれど、殿下をしっかり
覚えていた。
よかった……
姫は。姫と殿下は……やっぱり、運命の恋人同士だったんだ……。
「ピピ様、泉はもう作らないんですか?」
「うん……なんか、必要ないみたいだから」
姫と殿下が再び愛しあう二人として新たな一歩を踏み出した日。俺はエリシア姫を実家に帰した。
カプセルから出して二週間、姫は元気に回復したことが確認できたから。そして。過去へ行って
分魂する必要も、全くないと分かったから――。
「だから死んだことにして囲えばよかったのに。完全に失恋しちゃいましたね」
いいんだよ。姫が幸せになれば俺は満足なんだって。
「ちり紙どうぞ」
「ありがと……」
これ、嬉し涙だからな? 失恋の涙じゃないからな?
ちーんと湿りきった鼻を噛むと、そういうことにしておきます、とソートくんに苦笑された。
この後ほどなく。カイヤート・シュラメリシュ殿下は戦で第二王子を打ち破って、見事王位につき。
即位と同時にエリシア姫を娶った。姫は子宝に恵まれ、双子の王子と王女を生んだ。樹海王国は
俺と黒の後見導師の協力のもと、隆盛を極めた。
森に呑まれていく平和な国。その滅亡は、背後に白の導師アイテリオンが見えかくれする、
二番目の王子の叛乱から始まった。
神でもなんでもなくただ寿命がないだけの俺にできたのは、姫の子孫たちを護り抜くことだけだった。
必死に姫の一族を守ったその見返りを、ほどなく俺は十二分に貰うことになった。
ウサギ姿で姫の双子をあやしながらオムツを代え、完全に乳母みたいになってた俺は、まったく
予想だにしなかった奇跡? を体験した。
いまだに信じられない。
まさか双子の王女の方が……。
「ピッコ! ピッコちゃん!」
「はがががが。俺、ぬいぐるみじゃないからぁ」
「ピッコちゃん、お馬さんしてー!」
「ひいいい」
この乱暴極まりない赤ん坊が、十五年の歳月の後に……。
「ピピ様。ふつつかものですが、どうぞよろしくお願いいたします」
俺の押しかけ女房になったなんて――。
読んでくださってありがとうございます><
失恋モードは当初から予測していたのですが、
最後にまさかその筋から奥さんがやってくるとは^^;
しかし主人公に浮いた話がないのはあまりにも、なので
拾う神登場とあいなりました^^
読んでくださってありがとうございます><
本命には運命の人がいたようでありますが、
その一族を見守っている間にまさかの^^;
さりげなくひかるげんじしているピピピのピッコちゃん、
おそるべしです@@;
読んでくださってありがとうございます><
限りあるものだからこそ、その一瞬の輝きを大事に
護りたいと思うペペさんなのでありました。
先週の雨はすごかったですね><
本当にご無事でなによりでした。
私のところも目の前の川がすんでのところで避難水位に;
(あと一センチで避難開始でした)
自然のこわさを実感した長雨でありました。
読んでくださりありがとうございます><
寿命がちがう者同士の、となると
どうしてもその問題が出てきますよね(ノД`)・゜・。
ぺぺさんはこれからそこをどう乗り越えていくのか、
というのも考えつつ、お話を描いていこうと思います。
読んでくださってありがとうございます><
これからお話の出発点へむかうにつれ
あれ、これは前の話で……! という感じに
できればよいなぁと思っています^^
「俺」ぺぺ君、可愛い嫁がもらえてよかったですね
姫の記憶は失われていたのではなく、取り出し方がわからなくなっていただけ^^
本来の状態に戻ってめでたしめでたし^^
やー、ペペさん、やりましたねー
歳の差はえらいことになっていますが・・・
でも、ペペさんは時間の流れから独立していますから
比較自体が無意味ですね^^;
ペペさん、王女さま、ソートくん。
歴史に何を刻み込んでいくのでしょう。
続きが楽しみです^^
いつも楽しいお話をありがとうございます♪
誰もがあこがれる永遠の若さと命を保っていることは、時には辛いこともあるのですね。
限りある若さと命、それ故、かけがえのない大切なものなのでしょうか。
そうそう、メッセージにも書きましたが、この大雨で北国の田舎町も大騒ぎです。
TVで見ていた鬼怒川の堤防決壊の凄まじさを、1日後には自分たちも味わうことになるなんて。。
市内の上空を救援ヘリが行き交っています。
・・ということで、今日は出勤できず、自宅待機になっています。
m(_ _)m
好きになった人は、年老い別れることになる。
ある種とても悲しい話かもしれない
お題:パーティーで食べたい料理
姫がいれば毎日の食事は華やいで、あたかもパーティーのようなもの。
色鮮やかなニンジン料理は姫さまお手製、ぺぺさん専用の特別メニューです♪
でもこれからの未来はどうなるのですかね。