Nicotto Town


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自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・40

【風の塔】

 百里が浜からさらに南下し、海につながる支流の橋を二つ越え、ロラン達は風の塔の立つ平原まで来ていた。
 浜で釣った魚を食いつなぎ、平原に向かう途中の森林地帯で食べられる木の実を採取し、川でまた魚を釣った。時期が良かったので、ここでも大漁を得られたものの、今が冬でなくて本当に良かったとロランは思った。
 それでも、3人の体力はかなり消耗していた。浜や川で体を拭くことはできたものの、完全に清潔とは言いがたい。サマルトリアに向かうまでの間は、ロランもなかなか地面では寝つけず、毎日入っていた風呂が恋しかったものだ。その点に関しては、女の子であるルナが一番つらいだろう。
 しかしルナは泣き言一つ言わず、できる限りの努力をして身だしなみを整えていた。これが遊びの旅ではないことを自覚しているからだ。
 とはいえ、さしもの彼女も、塔が見えてきた時は漏らさずにはいられなかった。
「お風呂入りたい……あの塔で風のマントを取ったら、すぐ帰りましょうね」
「ああ、わかってるよ。頑張ろう」
「ぼくも甘いものが食べたいなぁ……」
 万が一、風のマントがなかったらという恐ろしいことは誰も言わない。これ以上弱音を吐けば、気持ちがくじかれるからである。


 塔は、前に丘で見たとおり、古色蒼然と立っていた。ルナによればかなり古い年代に建てられたらしいが、ほとんど朽ちた所はなく、しっかりと天に向かってそびえていた。
 正方形に近い形で、ナイフを入れる余地もないほどきれいに石組みがされている。広さは思ったほどではないが、かなり高い。正面に入り口があり、扉はなかった。代わりに太い円柱が両脇に立ち、門の役目を担っている。
 いつ魔物が襲ってくるかわからない。用心しながら、3人は入り口をくぐった。
「案外、きれいだな……」
 ロランは辺りを見回した。しゃべると声が反響してひどく大きく聞こえ、魔物に見つかるかと、慌てていつもより声を落とす。
「昔、誰か住んでいたのかな」
 ランドが不思議そうに、広間を中心に配置された、天井の高い大きな部屋を見る。
 1階中央には、上へ続く大きな階段があった。それを囲むように部屋が四つあり、どれも扉はない。
 薄暗いかと思ったら、北側と東側にも扉のない出入り口があり、そこから光が差し込んでいた。かなり開放的な空間になっているが、往時はすべてに扉があって居住区になっていたのかもしれない。
 とりあえず、目についた中央の階段を上った。2階も同じような構造で、やはり上へ続く階段がある。この調子で最上階まで行けるのだろう。
 3人はどんどん上へあがっていった。塔をねぐらにしていたのは、大ねずみやキングコブラ、兜ムカデなどが大半だった。途中、魔術師の集団が現れたが、3人を見るとローブの裾をからげるようにして逃げてしまった。
「思ったより戦いがきつくなくて良かったわ。あいつらも大したことなかったし」
 歩きながら、ルナが言った。あいつらとは、先ほど逃げた魔術師の集団のことである。
「ここ、ハーゴンの邪教秘密支部だったのかなぁ? でも、ぼくらを狙ってた様子はなかったね」
 何げなくランドが言う。しかしロランは、冗談でも笑えなかった。
「……狙う価値もないってことかもな。今の僕らは」
 ルナが笑顔を消した。肩から下げた杖の柄をきつく握りしめる。
「だったら、そうさせてみせるわ。もっと力をつけて、どんな魔物も倒せるようになって――今度は返り討ちにしてみせる」
 淡々とした口調に、むしろ怒りのすさまじさが込められていた。ランドが困ったように唇を動かしかけたが、結局何も言わずに歩く。ロランも沈黙することでしか、その怒りを受けとめることはできなかった。
 やがて3人は階段の行き止まりまで着いた。長方形をずらして並べたような十字型の空間に、四つの上り階段があった。
「どうする……?」
「そりゃ、上るしかないだろう」
 ランドが少しうんざりした顔をしたが、ロランは構わず、目に着いた北側の階段を上ることにした。だが、さほど長くないその先には、人が二、三人寝られるくらいの小部屋があるきりだ。
「ありゃ」
 続いて階段を昇ってきたランドが、ばつの悪そうな顔をする。
「あのさあ、ぼく思うんだけどさ」
 残りの階段を見て、ランドが言った。
「たぶんあれは、全部同じだと思うな。この塔を前に使ってた人の部屋だったんじゃない?」
「でも、どれかはマントのある部屋に通じてるかもしれないわ」
 ルナが可能性を捨てきれず言う。ランドは広間の中央にあぐらをかいて座り込んだ。
「じゃあぼく、ここで待ってるから。二人が見てくるといいよ」
「あらっ、一人だけ怠ける気?」
 ルナが両手を腰に当てて見おろすと、ランドは弱々しく笑った。
「ごめん。実はさ……魔力が残り少なくて、ちょっとめまいが……。ぼくもルナくらい、魔力が豊富だったらいいんだけどね」
「あ、そうか……」
 ロランは自分の額を打ちたい気持ちになった。ここに来るまで、ランドは細かく魔法を使っていた。キングコブラが多く出るせいで、先頭で戦うロランはしょっちゅう毒に見舞われたのだ。解毒の呪文キアリーはランドしか使えず、かなりその世話になっていた。
 腕力がロランよりも乏しいせいで、力任せに攻撃するよりもギラの呪文を使うことが多かったし、たまに血の騒いだ魔術師集団がこちらへ向かってくれば、彼らの呪文攻撃を防ぐため、魔封じの呪文マホトーンで援護もしてくれた。
 戦闘はどうしても攻撃をする側が華々しく目立つものだが、ランドが地道に支援してくれるから安心して専念できるのだと、今になってロランは気づいた。
「ごめん、気づけなくて……。ルナ、階段は僕が見てくるから、ランドのそばについててやってくれ」
 ロランはランドの前にひざまずき、やや血の気の失せた頬に片手を添えた。ランドは小さくかぶりを振った。
「いいんだ。ロラン、気をつけてね」
「ああ」
 荷物もその場に置き、身軽になったロランが残る階段へ走っていくと、ルナはランドの隣に膝をつき、両手をかざした。
「ベホイミ」
 ホイミよりも高度な回復呪文である。ルナは最初からこれが使えた。ホイミより強く明るい青の光が、ランドの全身を包む。
「ありがとう、ルナ。だいぶ楽になったよ」
「ううん、私も気づけなくて、ごめんなさい」
 ランドの隣に自分も座り、ルナは苦笑した。




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