Nicotto Town



アスパシオンの弟子63 大鍛冶師(後編)

 ソートくんは自らを「大鍛冶師」と称して権勢を奮った。

 でも俺の願い通りに、アイダさんの赤鋼玉の目を外してくれた。

 そして本物の目玉はくり貫いちゃったから戻せないと言って、青鋼玉の義眼を嵌めていた。

試しに僕が作ったものです。鉱物組成が同じなので簡単でした

 「破壊の目」も神獣操縦機能も無いそうで一安心。

 でも、「ポチ」って俺が呼んでこっそりちまちま組み上げてた兵器は、黙って改造しまくってた。

 あの、蛇のガルジューナのように――。

 神獣を使用したソートくんは当然、大陸諸国から大ブーイングを受けた。しかし彼はその声を

瞬く間に封じてしまった。おかしくなったけど、彼は超優秀だったからだ。

彼はアイテリオン及び大陸同盟理事国と密約を結んだ。というか、奴らを脅しつけた。

 ガルジューナを封印してやるから、諸国の反応を抑えろ。

 そして理事国が使用するための「特別許可兵器」を樹海王国が作ってやるから、公認しろ、と。

 もしこの恐喝が効かなかったら、ソートくんは本気でガルジューナで大陸征服をやらかすつもりだった。

 俺がかつて、我が師アスパシオンと一緒に出くわした蛇の脳。

 箱に入れられたとても小さな緑の蛇。

 あれはソートくんが蛇を徹底的に改造しまくった、なれの果ての姿だった。

 彼曰く、ガルジューナは竜王メルドルークも真っ青の性能らしい。

 ただし、「本気を出せば」。

 メルドルークに会いたがってだだをこねる蛇に、ソートくんは手を焼いてたようだ。

 四六時中、「甘えるなー!」と叱咤してたらしい。

 未来のトルナート陛下と違って全然優しくないところが、「王者」としてはちょっと足りない

ところであったような気がする。

 ともあれソートくんはガルジューナを使って、とある島を一瞬で焼き尽くすパフォーマンスを

ぶちかまして見せた。ゆえにアイテリオンは蛇の能力がはったりではないことを悟り、彼の要求を

素直に呑んだ。

 そこでソートくんは自分が提案した通りに、黒鉄鋼山にガルジューナを封印した。金獅子家やスメルニア皇家

樹海王国が作り出す兵器の輸出先となったので、王国はしばらくは安泰になる……と思いきや。

 ガルジューナを早々に封印したのは大失敗だった。

 一年もしないうちに、大陸西部に「魔王」と呼ばれる奇奇怪怪なるものがポッと出現した。

 のちのちの展開を思い起こすに、アイテリオンこそが「魔王」をわざと、この時のために

作り出したんじゃないか。俺はそう疑っている。

 たぶん――「魔王」は、間違いなく白の導師の子どもだろう。

 なぜならそいつは紫色の目をしていて。銀の髪を持っていて。

 羽化に失敗していて、気が狂っていた。

 あの、ヴィオのように――。




「奥さん、何読んでるの?」

 夕飯のパイをたらふく食ったあと。夫婦の寝室で、俺の奥さんが揺り椅子に座って古い本を読み始めた。

「天界の騎士物語よ」

「ああ、それは……」

三人の天界に住む騎士が、魔王を倒してめでたしめでたし」

 きいこきいこと、揺り椅子が動く。奥さんの白髪一本とてない赤毛を、俺はうっとり眺めながら撫でてやる。

「本当に、めでたしならよかったのにね」

 遠い目をして奥さんは本を撫でる。

 この本は、俺が書いてやった。ハッピーエンドになるように。

 三人の騎士とは、奥さんの双子の兄さんとその息子、それと彼らの「大親友」のソートくん。

魔王を退治して、三人は末永く王国を盛り立てて幸せに暮らしました、となっている。

 でも、現実は……。

 大陸西部に出現した「魔王」は、得体のしれない魑魅魍魎どもを次から次へと作り出し、

大暴れして、瞬く間に国を二つ三つ平らげた。

 損失を恐れた大陸同盟の理事国は、「大鍛冶師」が統べる樹海王国に討伐を押しつけた。

 ソートくんが、おのれの力を過信していたのは否めない。

 しかし「魔王」が率いる、この世の者とは思えない異形の眷属たちには、「大鍛冶師」の作った

鋼の兵器たちはまったく歯が立たなかった。

 痛恨の極みは、初戦で王が世継ぎをかばって戦死したことだ。

 王宮で葬儀を行おうとする王子の代わりに、ソートくんは王の赤い瞳と自分の青い瞳を交換して

神獣ガルジューナの封印を解き、戦場に乗り込んだ。

 俺も「初代ポチ」に乗って参戦したが、ロケットパンチくり出すとかあまりの改造されっぷりに

唖然としたものだ。

 蛇とポチはなんとか魔王軍を撃退したものの。

 俺たちが異形の軍勢におびき出され、戦地で釘づけになっている間に、悲劇が起きた。

 かつて滅ぼしたはずの第二王子一派の残党が、一斉蜂起して王宮へ攻め込んできたのだ。

 たぶんアイテリオンが叛乱軍をずっと匿っていたんだろう。

 叛乱軍は若き新王の資質に不満を唱えながら押し寄せてきて、退位を迫った

 少年王は王宮にたて篭って、孤軍奮闘。魔王討伐で主力軍がいない中、必死に抵抗したけも――

あえなく致命傷を負った。

 報せを受けたソートくんは俺に魔王討伐軍の指揮を任せ、蛇と一緒に王宮に急行したけれど、

時すでに遅し……。


『樹海王朝の最後の王の骸を、隠してきました』


 憔悴して戦地に戻ってきたソートくんは淡々と言った。

『叛乱軍は蹴散らしてやりました。王は、王の証と一緒に秘密の部屋に眠っています』

 なんともないようなそっけない貌をしてそう報告してきたけど。

 ソートくんは、少年王を葬っている間、ずっと泣いていたんだろう。

 泣きながら、亡くなった若き王の体にすがって詫びていたんだろう。

 自分の力のなさと。傲慢さを。

 なぜそれが分かるかと言えば。いまわのきわに若き王の瞳にはまっていた赤鋼玉の瞳が、

今は俺の右目に嵌まっているからに他ならない。

 そう、我が師アスパシオンは見たのだ。

 瞳に秘められた記憶から。ソートくんの泣き顔を――。

 

 


「旦那さま、もう遅いですよ。寝床に入りましょう」

「あ、うん」

 俺は奥さんに促されてオリハルコン地の寝間着に着替え、歯を磨いて寝床に入った。

 奥さんが隣に寝そべってくるのを、ぎゅうと抱きしめる。この人が幾つになったって、これは

決して変わらない習慣だ。

 俺の奥さんは甥の後を継いで女王になることを拒んだので、俺もソートくんもその意志を尊重し、

プトリ家を始めとする家臣たちに「新生メキド王国」の国政を委ねた。

 アイテリオンは協定に違反して蛇を使ったソートくんを大陸同盟の国際裁判に召喚した。

 むろんソートくんは出頭を拒み、雲隠れ。百数十年経った今も、人知らぬこの塔に潜んで、

時折「新生メキド王国」の政治に目をかけている。

 そして俺は塔で今ひたすら、「ポチ二号」を組み上げている。

 初代ポチは魔王軍に壊された拍子に逃げ出しちゃったからだ。

 でも。

 今だに一つ、分からないことがある……。

「うわ。急に見えなくなった」

 俺は魔法の気配を降ろして、赤い右目をひょいと外した。さすがに経年劣化のせいか、

最近すこぶる目の調子が悪い

 修理しようか、壊れるままに任せようかと悩んでる。

 だってこの瞳は……。

 左目を細めて、俺は赤い瞳にうがたれた銘を睨むようにして読んだ。


 『愛打式 七一零四  ⅣⅤⅣⅨ  三番島』


 幾度聞いても、何かの間違いじゃないですかとごまかされるんだけど。

 ご命令通りちゃんと破棄しました、と言われるんだけど。

 いつすり変えたのか。

 俺が作った義眼はどこに行ったのか。

 ソートくんがいつか真相を話してくれるのを、俺は密かに期待している。

 いつの日か。

 いまわのきわにでも。

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2015/12/20 17:35
シリアスな歴史に可愛いネーミングの登場人物たち…
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2015/11/16 22:35
やっぱり恫喝外交が一番手っ取り早いのでしょうか。
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2015/09/27 09:00
夏生さま

読んでくださってありがとうございます><
ぺぺさんのアイテリオン包囲網はちゃくちゃくと進んでいるはずなのですが……
奥さんのことを想ったり、ちょっとマッドな方向にいっちゃった弟子に悩んだり。
やはり人間ですね>< すんなり計画通りに、とはなかなかいかないようです。
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2015/09/27 08:56
よいとらさま
いつも読んでくださってありがとうございます><
ぺぺは自分の周辺しか回顧してないのですが
なんだかいろいろ隠れてやっている感じであります@@;
「こんなこともあろうかと」というサナダさん節を
これから何度もかましてきそうで大変こわいです@@;
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2015/09/27 08:54
優(まさる)さま

いつも読んでくださってありがとうございます><
相手が強すぎるのでなかなか上手く行かない部分もあるのでしょうが、
たぶん大丈夫^^最終的には弟子くんの計画通り? にいくのかな?
弟子くんたちを心配してくださってうれしいです^^
 
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2015/09/20 17:41
今晩は!

幾世紀にわたる過去と未来。
秘められた歴史が明らかにされてきました。

歴史を知りつくしたぺぺ、これからどう展開するのでしょうか。
次作が楽しみです。
今回も鶴首してお待ち申し上げます。
m(_ _)m

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2015/09/20 09:39
おはようございます♪

樹海王国の興亡は、ペペさんの弟子のソートくんとともに・・・
ペペさんは、奥さんとソートくんとともに・・・

そして、奥さんもソートくんも延命の限界が。
ペペさんがお師匠様といっしょにメキド王国にいた時代も近づいてきて、
またひとつ、新たな展開が待っているのでしょう。
とても楽しみです^^

いつも楽しいお話をありがとうございます♪
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2015/09/19 18:29
これからこのお話は何処へ向かっていくのでしょうか?

もう1回過去へ向かって作り直すのですかね・・・。
アバター
2015/09/19 17:42
カテゴリ:旅行・レジャー
お題:やってみたい贅沢

うっそうと繁る密林の中のお洒落な円塔で、
ひっそり誰にも知られずにカンヅメ状態で何かに打ち込む……という贅沢。

ソートくん→世界征服計画の練り直し?
ぺぺさん→奥さんとらぶらぶで「ポチ」?を製作♪




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