Nicotto Town


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自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・50

【機港都市ルプガナ】

 ドラゴンの角北の塔から、いったん北上し、東へ。ロラン達はついにルプガナの町へ到着した。
「ここがルプガナか……。こんなに大きな町だったのか」
「ねえねえ、見たことのない設備があるよ!」
 町の入り口にたどり着いた時は日も西に傾いていたが、町は多くの人でにぎわっていた。ランドがロランの袖を引き、港付近を指さす。鉄骨で造られた骨組みに滑車が付いた巨大な装置は、荷物を下ろす機械だろうか。
 ローレシアにも大きな港があるが、これほど大規模の設備はない。工房があって、独自の技術を発達させていると聞いたことはあるが、ここまでとは思わなかった。
「まず宿を取りましょう。アレフガルドに渡る船は、明日探せばいいわ」
 ルナが言った。ここまでの厳しい旅で、ロラン達は人より少ない食料でも行動できるようになっていた。足も速くなり、常人以上の日程で到着できたが、それでも町に着けば充分に休みたいし、食事もたくさん取りたくなる。
 3人は町に入ってすぐの宿屋に部屋を決め、宿の中にある食堂に入った。海の町らしく、豊富な海鮮料理が主なメニューだったが、世界中からさまざまな物資が届くとあって、ローレシアやサマルトリアの食材を使った料理も載っていた。
 懐かしさのあまりそれらも頼んで、やっぱり地元で食べるのが一番だね、などと盛り上がっていると、隣のテーブルにいた兵士らしき若い男が苦笑した。
「あ、すみません。うるさくして、ご気分を害されたでしょうか?」
 ロランがわびると、男は傾けていたエールのジョッキをテーブルに置いた。
「いや。そんな風に故郷を懐かしむことができるあんた達がうらやましくてね」
「ご出身はどちらですか?」
 ランドが気のおけない口調で尋ねると、男は「アレフガルドだ」と言った。
「俺はラダトーム城の兵士でね。だが、今はこの町で雇われてる。国を守るより、よその町を守れとさ」
 男は遠い目をした。ルナが質問を重ねる。
「町で雇われてるって、どういうことですか?」
「金のためさ。アレフガルドには、今は城下町しか町が残っていない。兵士が余ってるから、国費を稼ぐために派遣に出されてるんだよ。まあ、くだらないことを王様も考えついたもんだ。もっともその王様も、ハーゴンと邪教を恐れてどっかに逃げちまったけどな」
「え……逃げた?」
 ロラン達がぎょっとすると、よほど話したくてたまらなかったらしい。男はためらいなく毒づいた。
「あの国もずいぶん変わっちまったよ。昔は、世界に名だたるアレフガルドのラダトームと呼ばれていたのにな……。
 古い王家の末裔だったローラ姫が、ロトの子孫の勇者と国を出て行ったころからさ、国に元気がなくなったのは。
 竜王に滅ぼされた町は復興せず、ほかの住民は、勇者とローラを慕ってついて行くしで。最近まで頑張ってたメルキドの町も、住民が惰弱な王を見限って別の土地へ引っ越したらしいぜ」
「……」
 ロラン達はうつむいてしまった。自分達の先祖のローラ姫は、この世界が創世された時から王として君臨していたラルス家の末裔である。
 彼女の父だった当時の王、ラルス16世は、一人娘がアレフガルドの地を継がないことにどれだけ胸を痛めただろう。それでも送り出したのは、ただひたすら、娘の幸せを思ってのことだったに違いない。
 しかしラルス16世が没してからは、ラルス16世の遠縁の貴族が王家を継ぎ、ロト三国との国交は減った。今では使節を互いに送るやりとりだけで、王同士が直接会見することもなくなったのである。
「なんであんた達がしょげてるんだい? すまんな、さっきのことは忘れてくれ。仮にでも故郷の悪口を言うもんじゃないな。俺も後味悪くなったぜ……」
 苦笑する男に、ロランはかぶりを振った。
「いいえ。貴重なお話、ありがとうございました。――すみません、この方に何かお酒と料理を」
 ロランが近くを通りかかった給仕係を呼び止める。年齢にふさわしからぬふるまいに、男は目を丸くした。そしてまた苦く笑う。
「あんたみたいな人が、うちの王様だったらなあ……」


 部屋に入れば、あとは風呂に入って寝るだけだったが、ランドが町を見物したいと言うので、もう少し外を歩いてみることにした。
「あ、そうだ。お金も貯まってるし、装備を新調しないか?」
 ロランは言った。このくらい大きな町なら、強い武具もありそうだ。二人も賛成したので、武器屋を探して歩きだした。
「それにしてもさ。ここ、港町なのに船が見えないね。というより、港そのものがさ」
 大通りを歩きながら、ランドがきょろきょろする。ルナもうなずいた。
「そういえば、海の方に高い壁があるわね。……もしかして、あれが港なの?」
 町の東側には、城壁もかくやという防壁があり、そのせいで水平線が見えないのだった。港といえば、津波や嵐を想定して、あえて開放的に造られているものである。それをあえて立ちふさがるように建造しているのは、建物の強度によほどの自信があるからだろう。
 ローレシアに比べると、格段に高い技術と財力がある町だ。でもロランは、壁から放たれるかたくなさが少し気に入らなかった。
 装備の店は、町の北側にあった。大きな店で、この時間でも船乗りや冒険者が、魔物から身を守るための武器や防具を品定めしている。ロラン達もさっそく品揃えを見て回った。
「あっ、魔道士の杖を売ってる! ぼく用にもう一本あってもいいかもね」
「そうだな。でも剣は鋼鉄の剣どまりか。めぼしい物はないな……」
「あら、待って、ロラン。身かわしの服を売ってるわよ」
 ルナが壁際に掛けられた見本を指した。薄緑色の丈の短いローブで、フードとケープが一体になっており、胸元に青い宝石があしらわれている。
「こう見えて鉄の鎧より丈夫だし、とても軽いから敵の攻撃も避けやすくなるの」
「なるほど。ルナとランドには、それでもいいかもな。でも僕にはな……」
「あら。何が不満?」
「だって」
 ロランは背負った鋼鉄の盾と剣を振り向いた。
「その服にこの剣と盾じゃ、見た目がさ……」
「ああ、それならお客さん」
 こそこそ話をしていたのだが、聞かれてしまったらしい。人のよさげな店主がニコニコして近づいてきた。
「そうおっしゃるお客さんも多いので、うちでは身かわしの服を仕立て直すサービスもしてるんですよ。今、お客さん達が着ている服と同じように仕立てて差し上げます。ただし、その分のお代と日数をいただきますが」
 1人500ゴールド上乗せして、3人分でおよそ4日かかるという。4日滞在は少し長い気もしたが、申し込むことにした。別室で職人が寸法を測り、3人の着ていた服から型紙を取る。
「よかったわ。私、この服気に入ってるから」
 店を出て歩きながら、ルナはうれしそうに言った。ロランやランドも、城を出た時から着ている服には愛着がある。同じ見た目で着られるのなら、それが一番いい。




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