Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・53

「エレーネはこの秋に結婚を控えておりましてな。魔物が町に入り込むなど滅多になかったので、本当に今回のことは奇跡でした。皆さんが通りがかってくれなかったら、今頃は……」
「ええ……」
 エレーネもうなずく。あらためて感謝をこめ、頭を下げた。
「本当に助かりました。皆さんのおかげです」
 ロラン達はエレーネに案内され、ルートン邸の一室に訪れていた。質素剛健なローレシアの城よりも豪勢な内装で、遠い昔からこの地で栄えてきた商人の財力をうかがわせる。
 港主とは、ルプガナの港すべてを取り仕切る組織の長である。港湾関係の仕事から、入港の手続きまでを組織化し、管理している。港主のルートンは70代と高齢だが、まだまだ現役で息子ともども采配を振るっていると、本人から直接聞かされた。
「なるほど、魔物退治をしながら旅を。その若さで剛毅なことですな」
 お茶とお菓子を振る舞われながら、ロラン達が簡単に旅の目的を話すと、ルートンは面白そうにうなずいた。見た目は白髯白髪の、どこにでもいそうな好々爺である。彼の息子は取引に出ていて留守とのことだった。
「それで、アレフガルドに渡ったら、どこへ行かれるおつもりです?」
「それは……」
「まだ決まってません」
 ロランが口ごもると、ランドがあっけらかんと答えた。ルートンは同席したエレーネともども微笑ましげに笑う。
「いやいや、よいのですよ。足の向くままの旅、うらやましいですなあ。私も若いころは、船を操ってあちこち旅をしたものです。近場はアレフガルド、遠くはローレシアまで」
「ローレシアまで行かれましたか。どうでしたか?」
 ルートン達には、こちらの身分やハーゴン討伐のことまでは話していない。ロランが水を向けると、ルートンは懐かしそうに微笑んだ。
「いい所でしたよ。町としてはまだ発展途上だったが、人々がみな、親切で。土地の料理がまた、うまかったですなあ。あれから忙しくて訪れたことはないが、また行きたいと思わせる町でした」
「そうですか」
 訪れたのは数十年前とのことで、ロランの祖父あたりの時代に行ったのだろう。それでもロランはうれしかった。
「自由に船で旅をされたんですか。さぞ、楽しかったでしょうね」
 ランドがうらやましそうに言うと、そりゃもう、とルートンはにっこりした。若いころはかなり冒険家だったに違いない。
「ところで、あなた方は操船のご経験は?」
 急な質問に、ロラン達は顔を見合わせる。ロランが答えた。
「僕はあります。故郷にいたころは、よく船に乗っていました」
「ほほう」
 ルートンは顎髭をなでて、見定めるようにロランを見た。ロランが尋ねる。
「でも、どうしてそんなことを?」
「いや、もしあなた方にその気持ちがあれば、わしの船をお貸ししようと考えていたのですよ」
「おじいちゃん?!」
 エレーネが驚いて祖父を見る。
「よその方には船を貸し借りしないのが、町の習わしでしょう?」
「そうなのですか?」
 ルナが訊くと、ルートンはうなずいた。
「ええ。船乗りにとって、船は己の命を預けるものであり、命そのものですからな。しかし、あなた方には貸してもいい。大事な孫娘を救ってくださった、その技量。度胸。それほどの器なら、港でくすぶっているわしの船も、喜んで海を走ってくれるでしょう」
 とはいえ、とルートンはロランを見つめる。
「大事な船なので、やはり壊されるのはしのびない。失礼だが、試させてもよろしいですかな? ロラン殿の船乗りの腕を」
「それは……実際に船を動かしてみないと。ご期待に添えるよう努力します」
 殊勝な返事にルートンが目を細めた時である。扉がたたかれ、ルートンが入室を許すと、やつれた男が入ってきた。元は上等だった服は雨風に汚れ、髪も髭もぼさぼさである。
「マーフィーさん?! どうしたんです、そんなにやつれて……」
 エレーネが駆け寄ると、マーフィーと呼ばれた男はくしゃっと顔をゆがめた。
「船が……嵐に遭って沈んで……」
 ルートンの顔が険しくなった。
「話してみなさい」




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