自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・58
- カテゴリ:自作小説
- 2015/09/22 22:46:12
【勇者達の帰還】
世界の北西に、大地の精霊ルビスに祝福された地がある。
その名はアレフガルド。四つの島が複雑な地形を織りなしながら、正しく正方形に収まっている不思議な土地だ。
大地の精霊ルビスは、この世界を創造した存在だ。世界が始まった時、人々はまずアレフガルドに住み、やがて未知の大陸を求めて散っていった。
広さはローレシア大陸に及ばないが、豊富な自然と鉱物資源に恵まれた豊かな大地は、人よここに繁栄あれとルビスが祈った証ともいえる。
だが、創世から長い年月がたち、その祈りも荒涼と吹きすさぶ砂と風に埋もれようとしていた……。
ルプガナからまっすぐ東へ航海し、ロラン達は一日かけてアレフガルドの港に着いた。エレーネからもらった海図に従って複雑な入り江に船を入れると、小さな船着き場で投網を修繕していた漁師が驚いて顔を上げた。
「やあ、久しぶりの客人だ。よう来たな、アレフガルドへ」
漁師は主に船着き場の番をしていると言った。しかし、アレフガルドの衰退で訪れる船も減り、仕方なく網を打って生計を立てているという。
お金を渡して船を頼み、ロラン達は船着き場から東へ向かった。アレフガルドは入り江の多い地形で、港に適した場所がここしかない。
首都ラダトームは大陸の中心にあり、仮に船で行くには大陸を東に回って、入り江から内部へ進まないとならない。しかし内地に進むほど海流が速く複雑なこともあり、現在も町の前に港は造られていない。
「ここが、ご先祖様達の生まれ故郷なんだよね。ローレシア1世と、ローラ姫の」
街道を歩きながら、ランドが言った。今は夏の盛りだが、北方に位置するせいで、暑さはそれほどでもない。
見はるかす草原は穏やかな風に波打ち、見つめていると、懐かしいような、寂しいような気持ちにさせられる。時々草むらの影からスライムが顔を出したが、ロラン達を見ると、ぴゃっと声を上げて逃げていった。
「私達、どんな顔してラダトームに入ればいいのかしらね」
ルナが物思いにふけるように言った。
「勇者の子孫です、なんて言えないもの。……アレフガルドが弱ったのは、私達のご先祖様のせいだし……」
「……」
ロランも答えが出なかった。ルプガナで会った、ラダトームの兵士を思い出す。彼は言っていた。ラルス王家の血がアレフガルドで絶えたから、国は衰退してしまったのだと。
(国ってなんだろう。血が治めるものなのか? 特別な血筋じゃないと、王にはふさわしくないのか?)
「いつも通りでいいんじゃない?」
ランドが微笑んだ。
「別に、名乗りに行くわけじゃないんだしさ。ここに来たのも、ハーゴンの神殿へ近づく手がかりを探すためだろ?」
「……そうだな」
当初の目的を思い出し、ロランもほっとした。ルナも表情がやわらぐ。
やがて3人は、ラダトームの城下町にたどり着いた。
かつては城と町が離れて存在していたが、人口減少により、城の東側にあった町は、城のお膝元に移っていた。その規模も、ローレシア城下町より一回り小さい。
当時の隆盛を歴史の教師から学んでいたロラン達は、あまりの変わりぶりに胸が締めつけられた。
「とりあえず、どうする?」
あまり活気のない町の人々を眺め、ランドが訊いた。
「そうだな……。見たところ旅人も少ないから、宿は急いで取らなくてもよさそうだ。城に、行ってみるか」
やはり古文献を当たろうとするなら、古い歴史を守る城がいい。ロランの決定に、ランドとルナも従った。
町は穏やかだった。人々はつつましく今の暮らしを守っているようだった。
それでも良いのかもしれない。無理に栄えようとしなくても、毎日が穏やかなら。城へ歩きながらロランは思ってみるが、それでいいのかと反論ももたげてくる。
ラダトームの町は老いている。老いはいずれ、死を迎える。何かが去り、消えていく姿を思うと、両手を伸ばしてそれを引き止めたい気持ちに駆られる。
しかし、衰え滅びていくものをとどめることはできない。人も、町も、国も。
そして世界さえも。
邪悪の手から、何を守ればいい。ロランは己に問いかけていた。城で待つ父や家臣、その後ろにいる国民達。ランドの家族。これまでに出会った町、そこに住む人々。これから出会う人々……。
勇者の使命が人々を守り、ともに在ることならば、滅びもまた、受け入れることなのではないか。
(もし、ハーゴンを倒すことができたら、僕は……どうすればいい?)
ふいにロランは、自分が今どこにいるかわからなくなった。ここは自分達の祖となる土地だ。もう一つの故郷と言っていい。けれど、突然胸に吹き抜けた風は、懐かしさよりも慕わしさよりも、どこか遠くへロランをさらっていきそうだった。
「……ロラン。ロラン?」
ランドの声に、はっとする。歩きながら、心はどこかへ飛んでいたようだ。いつの間にか城門まで着いていた。
「ラダトーム城へようこそ」
門前に立つ衛兵の一人が、礼儀正しくあいさつをした。
「ここが……」
3人はそろって城を見上げた。千年以上の歴史を耐え、代々の王と勇者を迎えた城は、威容を少しも損なってはいなかった。感慨に言葉も出ないでいると、観光客だと思ったのか、もう一人の衛兵が微笑んだ。
「お城はどこも見学自由です。ただし、王様にお会いすることはできません。休暇中ですので」
「夕方になると門を閉めますので、それまでに退出をお願いします」
「わかりました」
ロランが二人に礼を言い、3人は城門をくぐった。