Nicotto Town


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自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・65

 この世界は、大地の精霊ルビスが創ったものである。しかし、それ以前にこの次元にはもう一つの世界があった。
 それが、〈上の世界〉である。
 次元とは、同じ時間と空間を意味する。
 勇者ロトは、その上の世界から落ちてきた者だという。
 アレフガルドは、上の世界から移住してきた人間が住む土地だった。上と下をつなぐ大きな穴が存在しており、世をはかなむ者や、冒険心に釣られた者、お尋ね者などが穴を通って――正確には落下して、この世界へ来た。現在生きる人々は、その末裔なのである。
 上下をつなぐ穴は、上から来られても下から上へは行けなかった。そして、勇者ロトが、この世界を支配していた闇の大魔王を退治した際に、穴は閉じられてしまったという。
 竜の女王は、上の世界の秩序を守る存在だった。
 勇者ロトが、上の世界で人々を苦しめていた別の魔王と戦っていた際にも手を貸さなかったのは、女王がただそこに在るということに意味があったからである。
 竜の女王は、柱であった。霊峰に構えた城に身を置き、森羅万象を見守る存在だった。しかし、現世に肉体を持っていると、世の理として寿命が来る。命尽きる間際に、まるで導かれるように勇者ロトが女王の元を訪れ、彼女から光の玉を授かった。
 女王は多くを語らなかったが、上の世界を荒らしていた魔王を統べる上位の魔王の存在を感知していた。ゆえに、闇の衣を剥ぎ取る力を持つ光の玉をロトに与え、諸悪の根源を絶つよう託したのである。
 ロトに光の玉を与えると、女王は卵を産んで現世から去った。その卵から生まれる新たな竜の神が上の世界の柱となるはずだった。
 だが皮肉にも、勇者ロトが下の世界――こちら側で大魔王を倒した際に、大魔王の放った断末魔が次元の裂け目を生み、それが竜の女王の城を引き裂いたのである。
 邪悪な波動を受けた卵はこちら側に落ち、そのまま長い眠りについた。やがてラルス16世の時代に卵が孵化した。生まれたのは、邪悪な心を持った竜の神――竜王だった。

「肉体を持った光はこの現世において、たやすく反転する。神とてそれは避けられないのだ。我が曾祖父は、己がなぜ邪悪を欲するのか、その理由を知りたかったに違いない。本来世界を守る叡智や優しさは破壊の衝動に変換され、極悪の限りを尽くしてしまった。ラダトーム城に納められていた光の玉を奪ったのも、竜の神たる本能によるものかもしれぬ。もともとは、“我ら”の物だったのだからな」
「お母さんの形見だから、取り戻したかったのかな?」
 ランドが疑問を口にすると、竜王のひ孫は怒るでもなく微笑んだ。
「そういった情は疑わしいのう。だが、その手の感情は微笑ましい。――悪くはない」
「そういえば、光の玉は今もラダトーム城にあるんだろうか?」
 今まで疑いもしなかった疑問が湧き、ロランは誰ともなしに尋ねていた。
「光の玉は平和をもたらす至宝。そこにあるだけで平和をあまねく与えるのだと、僕らは教えられてきたけど」
「あれは、もうない」
 あっさりと竜王のひ孫が言った。3人は言葉を失った。
「ないですって? どうして?」
 ルナが詰め寄る。竜王のひ孫は軽く首をかしげた。
「曾祖父が奪った光の玉はお前達の先祖が取り返し、再びラダトーム城に納められた。だが、それ以来行方は知れない。城の人間は言えるはずもないのだ。玉が、宝物庫から消滅してしまったとな」
「消えた?」
 ロランが眉を寄せる。
「そうだ。玉は消えた。竜王の手に渡ったことで、宿していた力が失われたのだ。たとえ悪に堕ちても、竜王は玉の主であったからな。曾祖父が念じれば、玉は力を放出もさせただろう。勇者が取り戻した時には、もう抜け殻寸前だったというわけだ」
「そんな……」
「森羅万象を守る竜の玉が失われたことで、この世界は衰退が始まっておる。魔法力を持つ人間の出生率の低下がその最たる証だ。魔法は世界を巡る神秘と万能の力。それが徐々に弱まっているのだ。この意味がわかるかね?
 大昔は、現在人間が使える魔法よりずっと強力な魔法が使われていたのだ。勇者ロトも強大な雷を呼び、死にかけた者さえ復活させる魔法を修得していたという。昼夜を転換させる魔法もあったのだ。
 匠の一族はこぞって威力のある武器や防具を造り、それを持って人間達はアレフガルドに蔓延していた魔物達に対抗していた。
 だが今はどうだ……。魔法使いは、昔で言えば中程度の魔法しか使えなくなり、匠の一族は技を忘れ、伝承者が消える一方だ。
 ハーゴンという邪教の教祖が、そのことに気づいた。奴は、魔界から破壊神を召喚して、この滅びかけている世界を滅ぼそうとしておる。それが人間共の救いだと説いているのだ」
「この世界はもうだめだから、全員で死のうってことですか?」
 ランドが尋ねる。竜王のひ孫はかぶりを振った。
「信者の一部はそう信じているようだが、ハーゴンの狙いは違う。奴の目的は破滅だけではない。しかしそれは、奴に直接会って確かめることだな」
「ハーゴンが各地から人をさらったり殺す理由は? ただ滅ぼすなら、信者にしたり、さらう理由がわからない」
 と、ロラン。答えは簡単だ、と竜王のひ孫は言った。
「ハーゴンが呼びださんとする破壊神は、人間の血を求めるのだ。何千、何万という生き血をな。各地の襲撃で殺した血、ハーゴンの神殿で直接捧げる血、それに区別はないようだが……飼っている魔物共を鼓舞するため、わざわざ神殿へ運んで、大量の人間を処刑しているようだな」
「それじゃあ、お父さま達の血も……」
 ルナの顔から血の気が引いた。抱きしめるように杖を両手で握る。
「さもあらん。――ここで、先の質問に戻る。私が、ここを動けない理由だ。私はまだ悪の属性を残しているが、本性は地上の守護者だ。この反転した属性ゆえに、要である私がハーゴンを倒しにこの場から離れると、かつて竜王に付き従っていた魔物共が復活してしまうだろう。
 しもべは私について戦うだろう。魔物同士の血で血を争う戦いが世界中で始まり、そこで出る多くの犠牲は、当然人間達だ。天変地異も起こるだろうな」
「つまり、あなたはこの世界の楔(くさび)のような存在で、あなたがここから抜けると、この世界がめちゃくちゃになると。そういうことですね?」
「緑の王子よ、短く言うとそれだ。長い説明になったが、そういうことよ」
 竜王のひ孫は再び肘掛けに寄りかかった。
「人間、誰でも死にたくはなかろう? せめて寿命が来るまで穏やかに暮らしたい気持ちは、私も同じじゃ。そこで、お主らの出番というわけだ」




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