Nicotto Town


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自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・69

 ランドの言い方はまわりくどかったが、つまり、かがり火のついていない部屋の階段は行かない方が良いということだ。他と明らかに違うからといって、それが正解とは限らないからである。
 すると残るは三つ。選ぶ根拠もないので、一つ一つ確かめることにした。
 ロラン達は何度も行き止まりに突き当たり、来た回廊を戻った。次から次へと魔物が襲ってきたが、体力を温存するためになるべく逃げた。
 全域で出現するゴーゴンヘッドも厄介だったが、白骨が武装したアンデッドマンも頻繁に現れた。
 ただつかみかかるだけのリビングデッドと違い、生前の剣技の巧みさにロランも手を焼いたが、ランドとルナの援護で切り抜ける。
 
そしてようやく、3階の別区画で銀縁の巨大な扉に行き当たった。ここに来るまでに何度も行きつ戻りつし、一生分の階段を上り下りした気がする。正しい階段を最初にのぼっていれば、すぐにここに着けただろうが、知らなかったのだから仕方がない。
 ロランは頭がこんがらがって、ここに着いた時、どこをどう来たのかも覚えていなかった。
「鍵がかかってるみたいだ。びくともしない」
 ロランは足を踏ん張り、両手で大扉を押してみて、すぐに諦めた。ランドが前に出て、扉を確かめる。
「ようやく、これの出番かな」
 ランドは、両開きになっている扉の境目に鍵穴を見つけた。巨人が使うような大扉なのに、それはランドの持つ銀の鍵が使える大きさの穴だった。
 ランドが銀の鍵を鍵穴に差し込むと、扉はきしみを立ててひとりでに開いた。魔法の扉の証拠だ。
 銀の鍵は、それにかけられた魔法によって、相性の合う扉を全て開くことができる。この大扉もそうなのだろう。
「これが魔法の扉ってことは、魔法の鍵は銀と金の鍵以外にも、まだあるのかな」
 ロランが疑問を口にすると、ランドが答えた。
「いや、この大扉が自動で開いたのは、開錠した時にそうなるよう、蝶番(ちょうつがい)に魔法がかけられてるからさ。施錠そのものに働きかける魔法とは別だよ。この扉の鍵は、いたって普通だった」
「う、ううん?」
 ロランは首をかしげた。ルナが笑う。
「鍵を開ける魔法と、扉を開けてくれる魔法は違うってことよ。ロランだって、扉を開けるために、鍵を開けて、扉を押して……って、行動の種類が違うでしょ?」
「ああ、そういうことか。……でも魔法って、本当に不思議だな」
 扉の奥は、魔除けの青と白の石板が並ぶ床が広がっていた。この形式には見覚えがある。風の塔だ。
 とすると、この大灯台も風の塔と同じ時代に造られたのだろうか。その名の通りの建造物だったなら、頂上で火を燃やせば、かなり遠くからでも良い夜標になっただろう。
 ロラン達は部屋の先に続く階段をのぼった。階段の先は、また同じ構造の部屋になっていて、それが繰り返されて頂上へ行き着くようである。並の人間ならとうに音を上げる高さの階段を、3人は黙々とのぼった。
 8階が頂上で、周囲に壁はなく、中央に巨大な火台があった。しかし、昼間であることを差し引いても、そこに燃えている炎はわずかしか見えない。
「ふわぁ……高い」
 ランドが風にマントと髪をなびかせながら景色を見渡す。ロランとルナも、その絶景にしばらく見とれた。
 かなりの高度なので、低い位置を流れる雲の群れが地上に影を落としている。北はアレフガルド大陸。ラダトーム城と竜王の城まで見つかって驚いた。東には、森の中に小さく町が見える。ムーンペタだろう。南を向けば、ムーンブルク城が黒いもやに霞み、西は大砂漠が白く光っている。
 そしてムーンブルク城からさらに南に目をやると、天を支えるような真っ白な台地があった。
「客人か。珍しい……」
 火台の向こうから、中年の男の声がした。ロラン達がはっとして居ずまいを正すと、鎖かたびらに鉄兜をかぶり、鋼鉄の剣を下げた戦士らしき男が歩み寄ってきた。
「旅人か。物好きな……。しかし、ここまでやってこれるとは、並の者ではないな」
「あなたは、どうしてここに?」
 ロランが尋ねると、戦士は髭面を笑ませた。
「俺はずっとここで、ロンダルキア台地を見続けている。お前達も見てみるか?」
 戦士は腰に下げていたポーチから、大ぶりの双眼鏡を出してロランに差し出した。ロランは双眼鏡を目に当て、南側を覗いてみた。倍率は良く、遥か遠くにあるロンダルキア台地がはっきりと見える。
 山々は白く、神々しく青空に輝いていた。禍々しい魔物が根城にしてるとは思えないほど美しい。
「あなたですね? 時々、ムーンブルク王にロンダルキアの状況を報告していたのは」
 ルナが問うと、戦士は「ああ」と言った。笑みはない。
「ここからじゃ、とてもハーゴンの神殿までは見えないが、そこから飛び立つ魔物の群れは見える。しかし、俺にできたのはそれくらいだ。この間町に降りた時に、城の悲報を聞いたが……さすがに無念だった。国王陛下には、一介の冒険者だった俺に目をかけていただいたからな」
 戦士は、ルナがムーンブルクの王女だということに意識が向かないようだった。
「国王亡き今、俺がここにいる理由もないが……、長くここに住み着いていると、そうしなければならないような気にもさせられる。せめてロンダルキアに入る手だてがわかれば、国王のかたきを討ちにも行っただろうがな」
「やはり、台地への侵入は難しいのでしょうか?」
 ランドに双眼鏡を渡しながらロランが尋ねると、戦士は短く笑った。
「俺も若いころは、世界各地を巡って入り口を探したものさ。ロンダルキアは世界の秘境。人類史上、誰も到達したことがない、神の台地といわれている。もしそこへ入れたなら、冒険者としても名を上げられただろう。だが、俺にはとうとう見つけられなかった」
「……」
「だが、旅の途中、こんな噂を聞いた。ここから遥か南西の神聖都市ベラヌールは、別名"魔界に近い街"というらしい」
「魔界……?」
 うれしそうに景色を楽しんでいたランドが、双眼鏡を離して顔を戦士に向ける。ついでに、礼を述べて双眼鏡を返した。
「それって、つまり……」
「あくまで、噂だ」
 戦士は冷めた微笑をランドに向けた。
「そしてそれが、どういう意味かもわからん。ベラヌールとロンダルキアは大海を隔てている。とてもつながりがあるとは思えない」
 ロラン達は顔を見合わせた。遠く離れた土地でも、そこに行ける手段がある。その名も知っていた。
 これ以上は話を聞き出せないと思い、ロラン達は礼を言ってその場を離れた。戻り際、戦士が振り返って言った。
「ああ、戻りはグレムリンに気をつけろよ。最近どうも騒がしいんでな」




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