Nicotto Town


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自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・79

「……ロラン」
 装備を解き、ベッドに横たえると、ランドがうっすらと目を開けた。ロランは冷えきったランドの額に手を当てて、うなずいてみせる。
 ルナ達が出て行ったあと、ようやく我に返ったロランは、ランドを寝かせようとしたのだった。
「ここにいる。さっき、ルナ達が医者を呼びに行ったから。大丈夫だ」
「そう……」
 血の気のない唇から、あえかな声でランドは応えた。
「……最後に、君の顔を見られてよかったよ」
「最後なんて、言うな」
 ロランは目をすがめた。
「弱気になるなよ。大丈夫だ、きっと良くなる」
 しかし、ランドはかすかに首を横に振った。
「これは……病気じゃない。呪いだ」
「――え?」
 ロランは息が詰まった。血の気がざあっと音を立てて退くのが聞こえた。
「呪い……だって?」
 ランドは小さくうなずいた。
「ハーゴンが、ぼくらに呪いをかけた。ラダトーム城に泊まった夜……夢を通じて魂に入り込んできたんだ。ぼくらを殺すために」
「あの夜に? でも、僕は夢なんて見なかった。たぶんルナも」
 ランドの微笑が切なくなる。
「ぼくの夢には出てきたのさ。でも、それでいいんだ。おかげで、君達には呪いが降りかからずに済んだから」
 言ってから、ランドは苦しそうに息を継いだ。
「やられたのが、ぼく一人でよかった……。でも君達がいれば、旅は続けられる」
「何を言って……」
「……行くんだ」
 まっすぐにロランを見つめ、ランドは言った。
「君達なら、紋章を集めてハーゴンを倒せる。さあ、ぼくに構わず行ってくれ」
 ロランは目を見開いた。いやいやをするようにかぶりを振る。
「――呪いなんて、みんなで引き受ければよかったんだ! ランドだけ苦しむ理由なんてないっ……。どうして、一人で背負ったりしたんだ! どうしてっ……」
 胸に載せられた友の手を両手で握りしめ、ロランは顔を伏せた。激しくしゃくりあげる背中を、ランドのもう片方の手が優しく触れる。
 ごめんよ、と言った。
「そんなに悲しませて……。でもきっと、これがぼくの役目だったんだ」
「役目なんて言うな!」
 濡れた瞳でロランはランドを見、怒鳴った。
「そんなこと僕は信じない。一体誰がそんなこと決めたんだ。もしそれが神だっていうんなら、僕は神を捨てる!」
「……神様じゃない。ぼく自身さ」
 ランドは焦点の定まらない目でロランを見た。
「……ぼくが自分でやったことだ。だから、ぼくはこれで幸せなんだよ」
「そんなの……」
 理不尽だ、と言おうとした。だがランドはロランの言葉を待たず、ふっとまぶたを閉じた。
「――ランド? ランド!」
 ロランは耳元で何度も呼びかけた。しかし昏睡に入ったランドは、二度と応えなかった。

 

 ひいひいと息を切らせて部屋を訪れたのは、薬師の老人だった。職を示す淡い緑と白のローブを着ている。
「年寄りを走らせるもんじゃない……久々に疲れたぞい」
「すみません、さっそく診ていただけますか?」
 走らせた張本人であるルナが急かす。やれやれと愚痴りながら、薬師はベッドに横たわるランドの前の椅子を引き寄せて座った。慣れた手つきでかけてある毛布をどかし、服の胸元をはだける。現れた肌を見た瞬間、全員が言葉を失った。
「……これは」
 ロランは顔をゆがめた。ランドの胸から腹にかけて、毒々しく赤黒い痣が広がっている。まるで毒蛇の群れが好き放題暴れ狂っているようだ。
「むう」
 ひと目見て、薬師は目をすがめた。
「ベホマも弾いたと言ったな。間違いない、これはただの病ではない。呪いじゃ」
「呪い……やっぱり」
「お嬢さん、気づいていたのかね?」
 一度呪いにかかったことのあるルナは、感覚でわかっていたらしい。薬師は「しかし」と継いだ。
「これは並の魔物の仕業ではないぞ。これと似たようなのを、わしは診たことがある。世にも恐ろしい、ロンダルキアからのものじゃ」
「……邪神官ハーゴン」
 ぽつりとロランがその名を口にした。薬師はぎょっとしてロランを見る。
「お前さん、心当たりがあるのかね? ハーゴンは恐るべき呪いの使い手じゃ。神殿からの祈りで、世界中どこへでも呪殺できるという。しかし、通りすがりの旅人を呪うことはせんはずじゃ。高位の司教や魔法使いなど、あれの障害になりそうな者のみ排除する。この町でもそれで、何人かがやられた。皆、強い力を持つ魔道士や僧侶だったのじゃが……」
「私達、ハーゴンを討伐するために旅をしているんです」
 強い瞳でルナが言った。それだけで、薬師は納得したようだった。
「うむ、そうか……。それなら狙われる理由もあるじゃろうな」
「――ランドがさっき、話してくれた。間違いない。呪いの主はハーゴンだ」
 ロランは硬い面持ちで言った。
「呪われたことを、ずっと隠してたんだ。おそらく、呪いを受けた時に感じたんだろう。……自分は、長くないと」
「……ばかね」
 ルナが怒りに瞳を濡らす。
「あの子ったら。手遅れになってから教えても遅いのよ……!」
「――呪いを解く方法がないから、そうしたんだ」
 責めることなく、ロランは悲痛に言った。
「最初から助かりたくないなんて、考えてなかったはずだ。でもここに来るまで、見つからなかった。だから……」
「わかってる!」
 ルナの頬に一筋、涙が伝う。
「どうしうようもなかった。あの子も、私達も。……でも、だからって受け入れられるわけないじゃない!」
「……何か、方法はないのですか?」
 ずっと押し黙っていたカイルが薬師に尋ねた。薬師は無念そうにかぶりを振った。
「ハーゴンの呪いにかかって生き延びた者はおらん。死のみが、その呪縛から解放される手だてなのじゃ」
「そんなっ……それではランド様が……」
「――じゃが」
 薬師は難しそうに白い眉を動かした。
「ないこともない。しかしそれは、奇跡に頼らなければならんぞ」
「教えてください!」
 ロランが詰め寄った。
「どうすればランドは助かるんですか?!」
 薬師は厳かにその名を口にした。
「――世界樹の葉。それがあれば、お仲間を助けることができるかもしれん」




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