Nicotto Town


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自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・81

「え?……いや」
 ロランがきょとんとすると、ルナは小さく吹き出した。
「ひどいわね。私、一生懸命探したのに。……あのね、あなたとランド、衣装部屋のタンスに入って、一緒に寝てたのよ」
「えっ」
「気持ちよさそうにドレスか何かにくるまって、ぐーすか。私、あきれちゃったわ」
「あ……」
 ロランも思い出した。隠れ場所を探して衣装部屋に入り、タンスを開けたらランドが先に入っていてびっくりしたのだ。名案でしょ、と幼いランドは笑った。中は広かったので、二人でそこに入り、なかなか見つけられないでいるルナを待っていたら、いつの間にか眠ってしまったのだ。
 起きたら、城の女官数人とルナがタンスの前に立っていて、ルナは怒って泣きべそをかいていた。悪いことをしたと、ロランはランドとともに一生懸命謝ったのだった。
「……あの時の私の気持ち、わかる?」
 茶目っ気を込めた笑みを浮かべ、ルナはロランを見た。
「私だけ置いて行かれた、って思ったの」
「え……」
 ロランは目を丸くした。
「そうだったのか?」
「そうよ。あんた達だけ、仲良く寝てるんだもん。私も仲間に入れてほしかったわ。女官達は、まあ双子の兄弟みたいって喜んでたけど」
「……ご、ごめん」
「……もしかしたら、今のランドもそれと、同じ気持ちだったのかもしれないわ。旅をしている間。あの子が呪いのことずっと隠していたのは、きっとそのせい」
「え――」
 ルナは、ランドの気持ちになって考えてみた、と言った。
「ランド、最近は戦いで苦戦すること多かったでしょう? きっとそれ、気にしてたのかもしれない。自分が置いて行かれるって」
「そんなの、こっちは気にしてないよ。それに、ランドに助けられることも多かったし」
「でも、ランドも男の子でしょ。魔物はほとんどあなたがやっつけちゃうから、私とランドは後方支援しかできてない。それが役目だって私は割り切ってるけど、本当は、あなたと隣で戦いたいのよ。ランドは」
 男だったら。ロランはルナの言ったことを頭の中で繰り返してみた。もし自分が同じ立場だったら、やはりそれはつらく思うだろう。例えば、魔法しか効かない相手と戦っていたら、自分は何もできない。ランドをうらやましく思うに違いない。
「……ランドは自分が役に立っていないと思いこんでいたんだな。だから、自分を犠牲にしてでも助けようとしたのか……」
「でもその選択は間違っていなかったのかもしれない」
 静かにルナは言った。
「もし3人でかかっていたら、全員倒れて取り返しのつかないことになっていたわ。……だからこれでよかった、なんて言いたくないけど、もうこれ以上、自分がどうすればよかったとか、過去を悔やんでも仕方がないのよ」
 助けられなかったのは、自分も同じだから。硬い面持ちでルナは言った。
「……そうだな」
 うずくまりたくなる気持ちを抑え、ロランは縁を両手でつかんだ。彼方を見つめる。
「今、自分ができることをやる。それしかない。ランドのために」
 ルナはうなずいた。そしてロランと同じ方向を見つめた。


「……なるほど、世界樹の葉ねぇ」
 ロランとルナを表す光点の行く先を魔法の地図で眺め、薄暗い広間でバズズがにやりと笑った。鼻が上向いた醜い顔が、いっそうゆがむ。
「面白い。そんなに王子を殺されたくなくて足掻くなら、こちらも邪魔せんわけにはいかんなあ」
 バズズは床から何かをすくう仕草をすると、世界樹の島の上に手をかたむけた。黒い砂のようなものが、さらさらと島の絵上に落ちる。
「さあ、お膳立てはしたぞ。どうする、ローレシアの王子?」
 バズズは独りで嗤っている。


「見えてきた。あれが世界樹の島か!」
 気を急く航海から数日後、東の果てに高くそびえる岩山の孤島が浮かび上がってきた。ロランは舳先に伸び上がり、島を凝視した。
 急峻な岩山がぐるりと島全体を取り巻いていて、とても接岸はできそうにない。老薬師が言っていたように、潮の裂け目から上陸場所を見つけるしかなさそうだ。
「カイル、行けそうか?」
 操舵室に戻り、舵を取るカイルに話しかける。カイルはうなずいた。彼もまた船の乗り手でもあるのだ。
「やりますとも。ランド王子のため、そしてロラン様のため。このくらいの海流、切り抜けて見せます」
「問題は、潮の満ち引きだけど……。干潮時じゃないと上陸できないって話だったわ」
 カイルとともにいたルナが眉を寄せる。大丈夫です、とカイルが言った。
「潮は引いています。昨日見た月で確認しました」
「そうなの。さすが、ローレシアの兵士ね」
「いえ。陛下や上官の教育のおかげです」
 ルナが褒めると、カイルは頬を赤くして照れた。
 カイルの言うとおり、船は難なく島の西にあるわずかな浜辺を見つけた。投錨して小舟を下ろし、カイルに船を任せると、ロランはルナと小舟で島へ渡った。


「世界を支える生命の樹、と言われているけど……なんて寂しい所なのかしら」
 魔道士の杖を抱え、砂地を歩きながらルナが言った。ロランも周辺を見渡す。
 砂と岩山ばかりで、島には生命の姿がなかった。草一本生えていない。砂の道が、砂浜から東へ、岩山の谷を抜けて奥まで続いている。いつの間にか薄い霧が出ていた。
「急ごう」
 ロランは足を速めた。ルナも続く。二時間ほど歩くと、急に視界が開けた。
「――あれか!」
 広大な砂漠の真ん中に、巨大な樹が立っていた。霧が晴れ、強い日差しがその偉大な姿を揺らめかせている。島を取り巻く岩山の壁が遠くに見えていた。
 ロランは走り出していた。早く葉を取ってランドに届けなければ。
(待ってろ、ランド。僕が戻るまで頑張れ。頑張れよ!)
「待って、ロラン!――あれは!」
 同じく走り出したルナが、はっとして叫ぶ。ロランも気づいた。自分と世界樹の間に、黒い大群が帯を作っていた。
「――魔物か!!」
「すごい数だわ。世界樹は聖なる植物。きっとハーゴンが樹を襲わせるために召喚したのかも」
 ルナが行くべきかためらった刹那、ロランは背のロトの剣を抜いて大群へと駆け込んでいた。
「――どけぇ!!」
 凄まじい怒りの咆哮をあげ、ロランは魔物に斬りかかった。大樹の幹に邪悪な笑顔が浮かぶ人面樹やウドラーが、枝の腕を動かしてつかみかかってくる。それをやすやすと切り飛ばし、振り下ろした剣は轟と幹を縦に裂いた。脇から襲ってきたゴールドオークの腹を鋭い蹴りで薙ぐ。蹴られた獣人は血を吐いて吹き飛ばされる。
 妖気の塊に顔が付いた魔物はガストだ。不気味な声でラリホーやマヌーサをかけてくる。しかし、ロランの腰に着けている魔除けの鈴が淡く光って無効化した。ウドラーを切り裂いた返し手で、ロランはガストの群れを一閃する。斬撃に沿って衝撃波が生まれ、それに当たったガストが何匹も散り散りになる。
 妖術師が青い宝玉の付いた杖を振りかざし、ベギラマを唱えた。灼熱の炎の帯がロランを襲うが、ロランは炎をくぐり抜けて突進し、迷わず懐に飛び込んで剣を貫き通す。
 砂から泥の腕が次々と生えてきた。腕だけで人を襲うマドハンドの群れだ。ロランの足をつかんで邪魔しようとする。右の足首をつかんできた一匹を、ロランは剣を垂直に突いて倒し、寄ってくるものは蹴り上げ、踏みつぶして先へ進んだ。その間にも、間断なく襲うオークやサーベルウルフなどを盾で殴りつけ、斬り払う。
 戦の鬼神そのものとなっているロランの姿を見て、ルナは、もう後戻りができないと悟った。




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