自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・86
- カテゴリ:自作小説
- 2015/10/13 09:27:25
ベラヌール大聖堂。その地下に、審問の間があった。
老法王ハミルトを中心に、何人もの司祭と審問官がロラン達を半円状の雛壇から見おろしている。うち1人が厳かに告げた。
「邪教に通じ、命乞いをした被疑者3名に弁明の余地を与える。何か言うことはないか」
「ちょっと、なんで私達、もう犯罪者になってるの? これじゃ裁判ですらないし!」
小声でルナが怒りを表す。ロランも眉をひそめた。
「ああ、ひどいな。この町の司法はどうなってるんだ……」
「ぼくが説明します」
ランドが証言台に立った。やや緊張しているが、恐れは見えない。
「ぼく達は、邪教の大本である邪神官ハーゴンを倒すために世界を旅しています。ハーゴンはそれに目をつけ、自分の障害になると判断して、こちらに呪いをかけました。ぼくはその呪いを受けてしまい、そしてこの町で倒れてしまったのです」
「ハーゴンの呪いはよく知っている。心ある強者達が、なすすべもなく倒れていった」
ハミルトは慈悲深そうな目をランドに向けた。だが、口を開いたのはその横にいる審問官だった。
「だからこそ、命が助かったことに疑惑が出ている。お前達が邪教に魂を売って救命してもらったのだろう?」
「違います」
ロランはランドの隣に立って、審問官を強く見上げた。
「ここから遥か東にある世界樹の島で、その葉を取ってきたのです。死人をも甦らせる世界樹の葉の薬効で、ランドは死の淵から生還できました」
「その証拠は?」
もう一人の審問官が冷たく突き放す。ありません、とロランは見返した。
「葉は一枚しかなく、もう使ってしまって持っていません。でも、僕らが世話になった、この町の薬師の老人を訪ねてください。彼なら事の次第を知っています。世界樹の葉のことを教えてくれたのもその方です」
「薬師などいくらでもいる。名を言ってみろ」
「名前……?」
しまった、とロラン達は顔を見合わせた。あの腕利きの老薬師の名を聞くのをすっかり忘れていたからだ。向こうも向こうで、世話になったからお礼がしたいと言うロランに、「わしは通りすがりの爺じゃから」と、笑ってそのまま去ってしまったのである。
「――調べてください。それくらいは、調査側としても当然でしょう? あなた達は、いたずらに無実の人間を罪に陥れたいのですか?」
ルナが言うと、審問官は聞くに値せず、と無視した。
「罪人に酌量の法はないのだ。悪は見つけ次第滅ぼす。それが、白が黒に染まらない唯一の手だてである」
「そんな……!」
横暴にも程がある。ここは身分を明かしてでも無罪を訴えるべきか。ロランは一瞬そう思ったが、審問官達の顔を見て、無駄だと悟った。被告人の身辺を調査しないということは、何を突きつけても信じないということでもある。
犯罪者に弁護の余地なし――その心理はわかるが、こうして無実の者まで罪に問われる法は、やはり害悪だ。しかも、人間の思惑ではなく、神の名の下に行われるとあっては。
「これじゃ、ハーゴンと同じだ……」
「何か言ったか?」
ロランは腹立たしげにつぶやいた。だが、彼らには聞こえなかったようだ。
「では、判決を下す――」
「待ちなさい」
審問官が木槌を2回叩いた時、法王ハミルトが穏やかな声を放った。
「どうやらその方達は、邪教の影響を受けていないようです」
「法王!? しかし、町で彼らを見かけたという神官は、確かに彼らは呪われていたと証言していました」
「しかし、今はそれが見受けられない。邪神官の黒い気配はどこにもありませんよ」
はっきりと、法王は言った。
「彼らの言うとおり、世界樹の葉で呪いから脱したということでしょう。それに私には、彼らが邪教を信奉するようには見えません。いい目をしている」
「それは見せかけです!」
どうしてもロラン達を罪人に仕立て上げたい審問官は、食い下がった。
「邪教徒は見た目にわからないことが多いのです。かのムーンブルク城は、人間に化けた魔物が潜入して滅ぼされたといいます。いかに賢明な国王といえどだまされた、その事実が何よりの教訓、証拠であります」
「――!」
ルナから血の気と表情が消えた。そのことは、例え話でも話題に上げてほしくなかった。ロランとランドも言葉を失う。
「……お父さまは」
うつむいたルナが、悔しさに肩を小さくふるわせた。
「間違ってない……。みんなのためを思ってなさったことだもの。悪いのはすべて魔物よ……!」
「ルナ……」
ロランは固く拳を握りしめた。今すぐここから逃げ出したかった。武器は取り上げられている。でも、この拳があれば議場の扉くらい破壊できる。
しかしそれを本当にやってしまったら、大義を掲げた旅も続けられなくなってしまうだろう。
「……」
ハミルトは淡々とした面持ちでルナを見ていた。そして、再び判決を言い渡そうとした審問官に手を差し向けて止める。
「私に免じて、ここは判決を待ってください。彼らを助けたという薬師を3日以内に探し出すように。それまで、少し気の毒ですが、彼らには房に入っていてもらいましょう」
「――わかりました」
法王の言うことは絶対らしい。審問官はぐっと感情を噛み殺して引いた。それで閉廷になった。
犯罪者を閉じこめておく拘置所は、町の北東にある。そこには馬車で護送されたが、その間、ルナはずっとうつむいて、ロラン達にも目を向けなかった。