Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・87

 拘置所は男女の別がない。もっぱら男が多く送還されてくるため、女性用の房がないのである。
 薄暗い鉄格子の部屋にロランとランドが入り、その隣にルナが入れられた。
「まったくひどいなぁ。人生で牢屋に入る日が来るなんて思わなかったよ」
 ランドは藁(わら)を詰めた固いベッドに横になってみた。寝心地悪いな、とぼやく。ロランは鉄格子に触れた。一本握って、少し力を込める。特殊な合金らしく、ロランでも簡単には曲げられそうになかった。
「ルナ、大丈夫かな……」
「大丈夫よ」
 ロランがつぶやくと、すぐ隣でルナのくぐもった声がした。壁は案外薄かった。
「もう気持ちは切り替えたから。心配してくれてありがとう」
「……いや、それならいいんだ。でも、これからどうしよう?」
「やっぱり、薬師のおじいさんに希望を託すしかないわね」
 壁越しにルナが言った。
「あの人が証言してくれれば助かるわ。法王ともあろう人が、嘘をつくはずないし」
「そうだよね。大丈夫、きっとなんとかなるよ」
 ベッドにあお向けになったまま、のんきにランドが言う。はは、とロランは笑った。
「ランドがそう言うと、本当にそんな気がしてくるよ」
 立っていても仕方がないので、自分ももう一つのベッドに腰かけた。そこでふと、思い出す。
「……そういえばさ。大灯台で聞いた話で……この町にロンダルキアへの入り口を発見した人がいるって、あったよな」
「ええ、あったわね。私、ここに通される途中見たんだけど……かなり厳重に警備されてる独房があったのよ。魔法の気配がしたから、結界まで張っているのかもしれない」
「結界?」
「魔法で障壁を作るんだよ」
 ランドが上体を起こしてロランに説明した。
「とっても危ない、ビリビリさ。青い光と黄色い光、2種類があってね。触るとバチバチ!っていって、全身火傷みたいな大怪我しちゃうんだ。だから、絶対に入ってほしくない場所か、出て行ってほしくない人の周りに張ったりする」
「そんなに危険なものを、人の周りに?」
 ロランは顔をしかめた。
「とんでもない罰し方だな。そこまでしなくていいんじゃないか?」
「でも、その独居房で結界に守られてる人は、そこまでしないといけない人なのよ」
 壁の向こうでルナが言った。
「さっきの話に戻るけど、たぶんそこに閉じこめられてる人が、噂の本人なんだと思う」
「えっ――」
 ルナの頭の回転の速さはさすがだ。ロランは身を乗り出していた。
「それ、確証はあるのか?」
「さっきの裁判でね」
 くすくすとルナが笑った。
「あんなに腹が立って何だけど、ああそうかってわかったわ。ここの異常なまでの秘密主義体制。厳格すぎる神の法律。こんなに潔癖で厳しかったら、そりゃ言えないわよね。一番清廉じゃなきゃいけないこの聖地に、ハーゴンへ近づくための旅の扉が隠されてる、なんて」
「他の人が興味を持ってそこに近づくことより、教会の権威が落ちるのを恐れたんだろうね。魔界の扉があるって知られたくなかった」
 ランドが言う。ロランもうなずいた。
「そして同時に、ハーゴンの魔物がこの町を直接侵略できないように、厳重に封鎖もしているんだろう。その考えは間違いじゃないと思うけど……やっぱり、人を疑うのはよくないな」
「その閉じこめられてる人に、会ってみたいよね。旅の扉がどこにあるのか知ってるわけだし」
「そうだな。でも牢破りには、さすがに銀の鍵も合わないだろうな」
「そうだね……金の鍵でも無理だと思う」
「私が解錠の魔法、アバカムを使えればいいんだけど……まだ当分無理そうよ。あと問題は、結界ね。これは私でもどうにもならない」
「ぼくなら解除できるよ」
 えっ、とロランとルナ――壁の向こうだが――は驚いた。本当か、とロランはランドを振り返った。ランドは得意げに鼻の下を指でこすった。
「この町に来る前、トラマナの呪文を覚えたんだ。これがあれば、どんな結界でも無効化できる。ほかにも、毒の沼とか溶岩の上も無傷で歩けるようになるんだ」
「溶岩なんて歩くかな……」
 ロランがいぶかしむと、ランドは笑った。
「そういうこともあるかもしれないよ、ってことで」
「でも驚いた。ランドがそんなすごい呪文を覚えてたなんてな」
「それも、才能よね。魔法は、本人の素質で浮かび上がってくるものだから」
 ルナも感心した様子だ。
「私とランド、二人とも同じ魔法しか使えなかったら……ちょっと大変だったわよ。お互いに補い合えるっていいことだわ」
「ああ、本当だな。じゃあ残る問題は、牢屋の鍵か……」
「どこかに売ってるといいけどねぇ」
「おいおい、さすがにそれはないだろう」
「そうかなあ? 牢屋に入れられた人を助けるお店があったら、世界中の悪い人が助かると思うけどな」
「あんた達、何を話してるのよ……」
 壁の向こうで、ルナがあきれていた。




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