Nicotto Town


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自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・94

「えっ!」
 ランドが愕然とした。
「回復もだめですか?」
「もちろんだ。以前、両者が回復魔法で粘りすぎて半日過ぎた試合もあったからな。制限時間をもうけているが、判定もつきにくいから禁止にしたのだ」
「そんなぁ……」
 ロランの手助けをしてやりたいが、ランドはまだスクルトの呪文が使えなかった。
「攻撃魔法もだめ、ですか?」
 できるだけかわいくルナが尋ねたが、衛兵は厳格にうなずく。
「死者が出るのを、我が王は好まない。魔法は殺傷力が高いからな」
「ですよね……」
 ルナは肩を落とした。
「これじゃ、私達の出番がないじゃない」
「ここは、ロランに頼るしかなさそうだね」
 ぽん、とランドに肩をたたかれて、ロランはあきれた。
「なんで試合に出ることになってるんだ……?」
「それでは、名前をここに書きなさい。順番が来たら、まず王に謁見してもらう」
 ロラン達が名簿に名前を書いていると、闘技場ではまた大歓声が起こった。どうやら賭博も行われているようだ。その収入の半分は、国庫に回るのだろう。
「では、こちらへおいでください」
 別の若い衛兵が、ロラン達を内部へ案内した。他に娯楽もないのだろう。歓声は一向にやむ気配がなかった。

 ロラン達が闘技場の上部に案内されると、そこには天覧席があった。そこが王の玉座であり、謁見の間も兼ねている。もちろん城内には正式な玉座の間があるが、一日の大半をここで過ごす王のために、天覧席は広く豪華で、玉座も寝椅子のようにゆったりした造りだった。
 金と絹で飾られた大きな玉座に、大きな王冠をかぶった、岩に手足が生えたような男がくつろいでいた。
 ずんぐりした体つきで、決して長身ではない。だが、南方の温暖な気候に合わせた薄着の王衣からは、鍛え上げられた厚い胸板が胸毛とともに覗いていた。
 王族らしく、髪や髭はきちんと整えて品の良さがあるが、ひと目見て、ロランはバルドスが屈強な戦士だと見抜いた。短躯に反して動きも軽そうだ。
 ランドも感心した様子だが、ルナは、こういう力にものを言わせる男が苦手らしく、やや目を背けている。
「おおっ、お前はローレシアの小せがれじゃないか。でかくなったなあ!」
 ロランを見るなり、バルドスは身を乗り出した。ロランは苦笑して、王に対する礼をした。
「お久しぶりです、バルドス王。幼少のみぎりは、お世話になりました」
「うんうん、お前が赤んぼのころ、高い高いしてやったなあ。お前の親父は真っ青になっておったが、お前はきゃっきゃと、よく笑っておったぞ」
「そうでしたか」
 ロランは照れくさくなって微笑んだ。臣下はバルドスを無骨者、礼儀を知らない奴と陰口を言っていたが、面と向かえばきっぷのいい男だとわかる。バルドスの笑顔は無邪気で、目は子どものように澄んでいた。それに、こうして昔の顔も忘れない。
「で、お前、我が大会に出てくれるんだってな?」
 にやにや笑って、バルドスは手にした黄金の杯を脇に差し出す。傍には何人もの肌も露わな美女がはべっており、一人がワインを杯に注いだ。
「その体つき、見ればかなりの実戦を積んだとわかるぞ。ローレシアの王子は稀に見る武術の天才だと、こっちにも噂が届いておるからな。これは特別待遇で一席設けなければならんなあ」
「特別待遇?」
「予選は省く。いきなり決勝戦だ」
 豪快に杯をあおって、バルドスは白い歯並びを見せた。
「決勝の相手には、未だ勝った者はおらん。何せ人間ではないからな」
「ちょっと、それはどういうことですか? まさか……魔物を用意しているの?」
 ルナが詰問すると、バルドスはふふんと笑い、ルナを下から上へ舐めるように見た。
「あんたはムーンブルクの王女だな。さすがに年にそぐわない美人だ。しかも頭がいいときてる。あまり切れ者では困るぞ、男はそういう女は苦手だからな」
「なっ……!」
 侮辱されたと感じたらしい。ルナは面食らって、ロランの後ろに隠れてしまった。それを見てさらにバルドスが笑う。
「はっはっは。初心なところも姫君らしいな。さて、今回の勝者が決勝に臨むぞ。お前達も見ておくがよい」
「はう……」
 ひ弱そうな見た目のせいか、視線も向けられなかったランドが、ちょっとべそをかきそうになっている。よしよしと、うなだれる背中をなでてやりながら、ロランは試合の場に目を向けた。
 鋼鉄の鎧に身を固め、両手には大金槌(おおかなづち)を携えた戦士が1人、身構えて敵の登場を待っている。司会が声高に告げた。
「それでは決勝戦! キラータイガーとの対戦です!」
 わあっ!と観衆が沸いた。同時に、戦士の対面側にあった巨大な柵が跳ね上がって、一頭の巨獣を吐き出す。
「あんな魔物、どうやって生け捕りにしたんだ?!」
 見ただけで魔物の強さを見抜いたランドが、狼狽した声を上げた。
「俺がふん捕まえてきた」
 平然と言ってのけるバルドスに、ロラン達はぎょっとして振り向いた――そこへ、早くも試合終了の声が響く。急いで視線を向けると、あの戦士は深紅の獣にあお向けに倒されて、今にも喉笛を噛み切られそうになっていた。重装備も操る男の腕力は、迅速な魔物の攻撃にかなわなかったらしい。
 失望の声が海鳴りのようにどよめき、反感を示す表現として、客が一斉に足を踏みならし始めた。地面が抜けそうな音もすさまじい。
 戦士を喰らおうとするキラータイガーを、十数人の兵士が縄を掛けて取り押さえ、ずるずると檻へ引きずっていく。
 戦士はぐったりしていた。キラータイガーにのしかかられた時点で、打ち身と軽い骨折は負っただろう。救急班が担架に乗せて運んでいく。
「つまらん」
 ふん、とバルドスは鼻を鳴らし、側近に耳打ちした。側近はうなずくと、足早に立ち去る。バルドスはロランに歩み寄った。
「今、知らせをやったからな。お前の試合はこの次だ。しっかり楽しませてくれよ!」
 ばん、と乱暴に背を叩かれたが、ロランがよろめきもしなかったことに、バルドスはうれしそうに笑った。
 ロランは複雑な面持ちだったが。




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