自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・103
- カテゴリ:自作小説
- 2015/10/23 13:44:57
【犬は導く】
「じゃあ、情報を整理してみましょう」
ルナが言った。モハルの元を辞去し、ロラン達は宿に戻った。夕飯前に、ルナの部屋に集まっての会議である。
「まず怪盗ラゴスが、テパから二つの物を盗んだ。一つは水門の鍵、もう一つは聖なる織機ね」
「どうして水門の鍵を取り戻さなければならないかというと、テパの人達が困るから……それから、テパの南にある川に囲まれた島に渡るため、だよな」
とロラン。ランドが継ぐ。
「その島には、月のかけらっていう石がある。これは、この島の伝説と関係している。月が満ちるとき、潮も満ちる。ぼくが思うに、月のかけらは人為的に満潮を操作できる物質だろうね」
「ザハンには、もう一つ言い伝えがあるわね。この海のどこかに、珊瑚で囲まれた洞窟があるって。きっと暗礁も多いのね。船では決して入れないのよ」
宿に戻る前、モハルから珊瑚の洞窟のことも聞いていたのだった。モハルが、機織りの女性達と仲良くなって話をした際に、伝承も耳にしていたのだ。
「船では入れない場所に、船で行くには……潮の満ち引きが必要だ。月のかけらはその力がある。海にある洞窟に、何があるのかはまだわからないけど、とにかくそういうつながりだな」
ロランが言い、うんと二人がうなずく。
「それはさておいて、今度は水の羽衣についてね。せっかく天露の糸があるんだし、戦いに役立つだろうから作ってもらいたいけど、聖なる織機(おりき)がモハメさんから盗まれてしまった。モハメさんが仕事を受けないのは、それが理由なのよね」
「盗難に遭った織機は、この町の神殿にある。それは間違いないな」
「でも巫女のナリアさんが、関係者以外立ち入り禁止にするから、話もできないって、ペルポイから来たあの人が言ってたね。ペルポイといえば、金の鍵。その金の鍵は、どこにあるんだろう?」
うーんとランドが首を傾げる。ここまでね、とルナが吐息をついた。
「まず私達にできそうなのは、聖なる織機を返してもらうことかしら」
「そうだな。ラゴスはまた行方不明になったし、水門はお預けだ。明日、またナリアさんに掛け合ってみよう」
ロランが締めて、話し合いは終了した。夕飯を食べに部屋を出ることにする。そこへ、遠くから犬の遠吠えが聞こえてきた。
どこか悲しげな声に、ロラン達は眉を曇らせていた。
タシスンの妻シエナは、愛犬ラジェットが夜になると遠吠えすることに心を痛めていた。
幸い近所からの苦情はない。タシスンとシエナが、ラジェットを家族として愛していることを知っていたからだ。その優しさに感謝しているが、いつまでも続けさせていいことではない。
「さあラジェット、おうちに帰りましょう」
シエナは浜辺で、海に向かって遠吠えをするラジェットに優しく話しかけた。体全体が黒いが、鼻筋と四肢だけ白い垂れ耳の犬は、膝をついたシエナに背中をなでられて、ようやく吠えるのをやめた。
今までは遠吠えなどしなかったのに。シエナはラジェットが毎晩浜辺へ出かけるたびに、どうしようもない不安を感じていた。
(あの人の身に何か……。いいえ、そんなはずない。もう帰ってくるはずよ)
帰航日をずいぶん過ぎていたが、シエナはそれを信じたくなくて、無理に自分に言い聞かせた。するとラジェットが、シエナのスカートの裾をくわえて引っ張り始めた。
「ああ、もう、やめなさい。やぶけてしまうわ」
これは、帰ろうという仕草ではないのだ。どうもある場所に連れて行きたいようだが、行ってみたところで、ヤシの林があるばかり。シエナにはさっぱりわからなかった。
しかも、ラジェットは見かけた人を片っ端から林に連れて行こうとする。これには、心の広い島の住人にも迷惑がられていて、シエナの悩みの種だった。
「だめよ。お前の行きたい所には行きません」
め、とシエナはラジェットをにらみつけた。ラジェットは悲しげに鼻を鳴らすと、裾から口を放した。
(放し飼いは、もうやめた方がいいかしら)
ラジェットと家に戻りながら、シエナはため息をついた。
翌朝、ロラン達が宿を出て神殿に向かう途中だった。小さな男の子が白黒の犬に追いかけられている。
「あっ、だめよ、走っちゃ!」
泣きながら走っている男の子を見て、ルナが急いで男の子のもとへ走った。
「止まって! 走ると余計に追いかけてくるわよ!」
「え――」
びっくりして、男の子が立ち止まる。犬が追いついて、男の子に飛びつこうとした矢先。
「――ワンッ!」
ルナが男の子の前に立って、犬に向かって吠えた。まるで本物の犬のような声に、背後に隠れた男の子と、駆けつけてきたロランとランドまでびくっとする。
犬も驚いて、ルナの前でぴたりと立ち止まった。先ほどの迫力はどこへやら、ルナはにっこり微笑むと、しゃがんで犬に語りかけた。
「いい子ね。お利口さん」
褒められたのがわかり、犬はルナを見てうれしそうに尻尾を振った。男の子がルナを見上げる。
「お姉ちゃん、犬のまね、うまいね」
「あら、真似じゃないわよ?」
ルナがいたずらっぽく笑うと、男の子はきょとんとした。
そういえば、ルナは犬に変えられていたんだっけ。事情を知るロランとランドは、顔を見合わせて苦笑した。
男の子は、犬に裾を引っ張られて怖くなり、逃げ出したのだと言った。この犬は、見かける人全員にそうするらしい。
「まあ、いけないわね。人を怖がらせてはだめよ。嫌われちゃうわよ?」
男の子が去ったあと、ルナは犬の頭をなでた。人懐こい犬は、目をきらきらさせてルナを見つめている。そして思いついたように、ルナの袖を噛んで引っ張った。
「あ、こら! だめってさっき言ったでしょう?」
ルナの言葉が通じなかったのか。ルナが注意しても、犬はやめなかった。その必死な様子に、ロランが言う。
「ついて行ってみようか。何か教えたいのかもしれない」
「そうだね、行ってみようよ」
面白そうにランドも賛成する。
「わかったわ。お前、案内してくれる?」
ルナが言うと、犬は元気よく「ワン!」と吠えた。