Nicotto Town


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自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・105

「お帰り下さいませ。ここは神聖なる月の女神の体。神殿に立ち入る者には、災いが降りかかりましょう」
 月の女神の神殿を守る巫女ナリアは、厳格な顔でロラン達に言った。白い衣をまとい、くっきりとした濃い眉に、腰まで届く長い黒髪。額には巫女を表す頭環を飾っている。
「いえ、無理に中が見たいというわけでは。僕達はラゴスという人を捜していまして、少しお話が伺えないかと……」
「存じません」
「聖なる織機が、ここにあると聞いてきたのですが」
 ルナが言うと、ナリアはわずかに整った濃い眉を動かした。だが、表情には出さない。
「存じません。どうぞ、お引き取りを」
 背筋を伸ばし、きっぱりと退去をうながされては、ロラン達もすごすごと引き下がるしかなかった。
「だめだこりゃ……どうしよう?」
 ランドが肩を落とす。ロランもため息をついた。
「モハルさんが織機をここで見ているんだから、あのナリアって人が隠しているのは間違いないな」
「どうして秘密にするんだろう。もしかして、ラゴスの仲間……じゃないよなぁ、さすがに」
「きっと、好きになっちゃったのね、その人のこと」
 ルナが出した答えに、ロランとランドはびっくりした。
「え?!」
「相手が盗賊ラゴスと知って、だからかばう気になったのかも。もしくは、思い出の品として持っておきたいのかもしれない」
「そういうものなのか……」
「そういうものよ」
 ロランのつぶやきに、ルナは微笑んだ。
「巫女は恋愛を許されない。でも、女ですもの。恋をしてしまうことはあるわ」
「でも、もともとはモハメさんの物なんだから、持ち主に返すべきだよな。ナリアさんにとっても、大切な物になっちゃったけど」
「だよねぇ。かといって、ぼくらがこっそり忍び込んで取り返すってわけにはいかないよね……」
 ランドが冗談交じりに言うと、ルナがじっとランドの顔を見た。
「な、なに?」
「それよ!」
「はあ?」
 ルナが満面の笑みを浮かべ、ランドは呆けたように目をぱちぱちさせた。


「やだよっ!」
 宿の部屋で、ランドが珍しく怒っていた。
「絶対やだ! ばれたらどうすんのさ、恥かくだけじゃすまないよ、きっと?」
「大丈夫よ。あんた小柄だし、顔だってロランと比べたらずっと男らしくないし」
 ルナは微笑んでさらりと言った。ランドは肩をそびやかす。
「なにげにひどいこと言うなよっ! ロラン、ルナに何か言ってくれよ!」
「え、あ、う~ん……」
 ロランはランドとルナの顔を見比べた。
「う~ん……」
「なんで黙るのさ~!」
 他に考えが浮かばず、腕組みしてうつむいたロランに、ランドは情けない声を上げた。
 ルナの考えた作戦は、男子二人には酷な内容だった。
 神殿は、巫女以外は婚礼をする男女のみ立ち入れる。そこで、ランドを女の子に仕立て上げ、いつわりの婚礼をするというものだ。
 入ってしまえばこっちのもの。その隙に内部を探索しようというのである。
「あの神殿、ものすごく濃い結界が張ってあったわ」
 ルナが言った。
「入ったら災いがあるっていうのは本当ね。でもナリアさんは、この島で唯一トラマナの呪文が使えるんでしょうね。だから巫女が務まるのよ」
「婚礼の男女が結界に触れないのは、ナリアさんがトラマナを唱えるからか?」
 ロランの問いに、ルナはうなずいた。
「夫婦はきっと、案内された部屋から決まった時間まで出られないはずよ。神殿全体に結界が張られているから、ナリアさんの案内なしでは出入りできないのよ」
「でも、ランドはトラマナが使える。つまり、自由に中を歩けるってことか」
「そういうこと」
「絶対わかっちゃうって……。それに、ぼくらは王族でロトの子孫なんだからさ。泥棒なんかしたら、国にも傷がつくよ」
「大丈夫よ。だいたい、盗品を知らないふりして隠しておくナリアさんが悪いんだわ。嘘までついてるんだから。それって、ナリアさんの巫女人生に傷がつくでしょ。だから彼女、黙ってるのよ」
「それを勝手に持ち出すってのもなあ……」
 ランドはまだ渋っている。
「でも、ルナの言うことももっともだ。僕らが持っていくことで、むしろ彼女の後ろめたさが和らぐかもしれない」
「それは詭弁だよ……」
「とにかく、やってみましょう! 持ってくるのが無理なら、確認だけでもいいから」
 ぱん、とルナが手のひらを打ち合わせた。ランドは重いため息をついた。


 ルナの着替えのローブと頭巾を被ってきたランドの姿に、ロランは思わず吹き出していた。ほらぁ、とランドがしかめ面をする。
「だから嫌だったんだ」
「ご、ごめん。でも……」
 笑うまいと唇を閉じても、ひくひくと動いてしまう。我慢できなくて笑いが飛び出した。
「か、かわいいんじゃないか?」
「笑うなよっ!」
 ランドが真っ赤になって怒る。その様子がおかしくて、ロランは腹を抱えて笑ってしまった。
 細身のランドは、ルナのローブを着てもほとんど違和感がなかった。背はルナと同じくらいなので、姉妹といっても差し支えない。どちらが姉かは言うまでもない。
 ぼさぼさの髪をとかし、少しでも女の子に見えるよう、わずかに化粧も施されている。ルナは普段化粧をしないが、ちゃんと道具を持ち歩いているんだなあと、妙なところに感心する。
「じゃあ行きましょう。もうすぐ日暮れよ。暗ければ余計わからないわ」
「もう知らないよ、どうなっても……」
 ぶつくさ言い、ランドは唇をとがらせた。ロランはまだ笑いがこらえきれず、波打つ腹に力をこめるのが大変だった。




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