10月自作/ハロウィン・猫 「迎えのシ者」(中)
- カテゴリ:自作小説
- 2015/10/30 13:41:28
こんな夜遅くに使者?
何だろう、この嫌な予感は。
青年は黄金の狼を子供の部屋に置いて守らせ、自身は厨房に走って樽から折れた剣を外し取った。
『盾を着けなさい、我が主。先日手に入れた古代兵士の盾を』
剣はさっそく頼もしい助言をしてきた。
『異様な波動を感じます。ご注意を』
副団長は腹心の騎士を五人後ろに従え、玄関ホールで使者を迎えた。
他の騎士たちは待機状態で二階の踊り場からその様子を見守った。
使者は三人。黒のマントに目深なフード姿で、皆驚くほど細身だ。
真ん中の者がずいと進み出て、副団長に慇懃に言上した。
「夜分遅く失礼いたします。当家の姫をお迎えにあがりました。銀枝騎士団に保護されましたこと、深く感謝申し上げます」
「すみませんが頭巾をとって顔を見せていただけますか?」
副団長の求めに使者たちは大人しくフードを脱いだ。どの者も普通の人間に見えるが、ひどく頬がこけており肌が白い。
「うちの騎士団長が、お伺いしているはずですが」
「はい。団長閣下より、印章付きの書簡をお預かりしてまいりました」
使者が難しい顔をする副団長に小さな巻物を手渡す。巻物を拡げたとたん。副団長はサッと顔色を失い、突然大声で命じた。
「おばちゃん代理! 子供を使者殿らにお預けしろ!」
青年は唇を噛み、階段を駆け降りた。
「閣下、許して下さい。俺は……」
顔面蒼白の副団長は青年をホールの隅に引っ張り、大きな柱時計の陰で鋭く囁いた。
「言う通りにしろ。でないと、団長閣下が殺される」
「えっ……」
「見ろ。この書簡を」
ついついご厚意に甘えてだらダらと
かえるべキ時刻を忘れてしまった。
まったりしテいるうちに今日も日が暮れてしまった。
つまり恐縮ながらも今夜もご当家にご厄介になるガ
たぶん明日には帰営する。もてなしのちャが大変美味で感動している。
シ者にこの伝言を託す。
ぬかりなく日々の日課をこなシ、銀枝の騎士の心得を全うするように。
団長より^▽^
「署名にニッコニコな顔の落書きが……」
「これは団長のSOSサインだ」
「えええ!?」
「この笑顔マークはやばい。縦読み以上にやばい。これは生命の危機にあるという暗号だ。いいかおばちゃん代理、いったん子供を奴らに渡せ。銀枝騎士団が子供を引き渡したという事実を作ってここから送り出すのだ。奴らは必ず目的のものを確保したという報告を主に飛ばすはず。そのあとで……」
黄金の狼を納得させるのは大変だった。
団長を助けるための苦肉の策だと言っても、牙王はうんと云わなかった。ここに住めて腸詰めを毎日食べられるのは団長のおかげなんだと何度も諭し、青年自身も子供に一緒についていくからと宥め、最後は泣き叫ぶ黄金の乙女の口を強引に口づけで塞いで、なんとか子供を連れ出すことを許してもらえた。
青年は寝ぼけまなこの子供を抱きかかえ、三人の使者に続いて営舎を出た。
彼らは黒馬でやってきており、黒塗りの馬車が一台外に待っていた。
馬車に乗り込めといわれたので言う通りにすると。背中の剣が恐ろしいことを囁いた。
『あやつら人間ではございませんね』
「なんだって?」
『生命反応がございません』
「パパ?」
子供が目をこすってここはどこかと問うてくる。青年は息を呑みつつも子供を怖がらせぬようぎゅうと抱き締めた。
「大丈夫だよカーリン。ほら、今日は精霊迎えの夜だろ? ちょっと夜のお散歩をしようと思ってさ」
「ママは?」
「後から来るよ」
雪がしんしんと降り出す。雪かきしてきれいに固めた雪道にみるみる雪が積もっていく。
森に入ったところで馬車が突然止まった。馬車の扉が開かれ、使者たちが外へ出るよう促す。雪が積もりすぎて、馬車が進まなくなったという。
使者の一人が空へ真っ黒いカラスを放った。足首に書簡がつけられた伝書鳥だ。主人に子供を確保したと報告を送ったのだろう。
これで「騎士団はシュヴァルツカッツェ家に協力した」という情報が届くだろうから、騎士団長は命を救われる――かもしれない。
「我々の馬にお乗りください。あなたと姫様、別々に」
使者たちが馬から降りて近寄ってくる。青年はごくりと息を呑んだ。
白い雪に、三人の足跡がついていない……。
「お、俺とこの子を離さないでくれ」
ぎゅっと子供を抱いてあとずさる青年に、使者が穏やかに述べた。
「我が主人は孫であられる姫様の顔を見たいと仰せです。その時まではご一緒してよろしいですよ。ですが以前と変わらず姫様がやはり一族の印をお持ちではないとなれば、その後私達が住まう世界へお連れいたします」
足跡がつかぬ者どもの住処とは……きっとこの世ではない。
つまり。当主の確認後、子供は殺される?
この子の家族は額に印のある一族らしいと聞いたが、この子供にはどこにも印がない。そんなことが、殺される理由?
「まさか……この子の両親は子供を守ろうとして?」
「若様とて、当主に逆らってはならぬのです」
「そんな! ひどすぎるっ」
使者の一人が手を突き出してくる。青年はとっさに左腕をかざし鏡の盾を展開した。
ばちり、と鈍い音がして盾が真っ黒い触手のようなものをはじく。使者の手からは今やぞわぞわと闇色の蛇のような妖気が蠢いていた。
「おや、抵抗するとは。おまえは騎士なのですか?」
「おっ、俺は騎士じゃないぞ! この子の親だ! だから守るんだ!」
青年は子供をおんぶして折れた剣を構えた。
「折れた剣とはまた粗末な」
「たしかにこやつは騎士ではありますまい」
「あわれな使用人ですな。ほほほ」
青年がさらにじりりと後ずさったその時。剣の柄がカッと赤く輝いて空にひと筋光を放った。
直後。うおおおんと、狼たちの鳴き声が聞こえてきた。
牙王と鉄の狼たちだ。
狼たちはあっという間に使者の一団を取り囲み。黄金の牙王が青年に飛びかかり。
うおん!
雄たけび雄々しく、目にも留まらぬ速さで子供を奪い取っていった。
ごく普通の狼の群れを装い、襲撃の形をとって子供を救出に来たのである。
「うあああ?! なんだこいつらはあ!!」
青年はわざと驚愕の声をあげ、子供が「ママ!」と呼んだ叫び声をかき消した。それから雪道に転がり逃げの一手をとる。
一目散に逃げていく狼たちのあとを、青年も追いかけるそぶりでついていった。
「狼とは」「獣ごとき我らの敵ではない」
しかし使者たちは慌てることなくふわりと宙に浮いて両手を突き出し、あたりにどす黒い妖気を放った。彼らの背後にわさわさとおぞましいものが集まってくる。まるで鳥のようだがドロドロとした黒いひとつの煙にも見える。恐ろしくもそれは、ほんのり青や紫色に発光していた。
「ななな、なんだ後ろのあれっ」
『あら、あれはこの世に残った怨念ですねえ。ここら一帯の瘴気をかき集めたんでしょう』
「ぱねえぞそれっ」
森の奥へ逃げる狼たちを怨念の塊が追撃し始めた。
狼たちは空気のような怨念どもに噛み付いて振り払おうとしたが、実体のない相手は霧散するとすぐにまた集合し、絡み付いてきてきりがない。
きゃいん、きゃいんと狼たちから悲鳴が上がり、次々と地に転がされだした。先頭を切って逃げる牙王にも、しゅるしゅると魔の手が……
「剣! 狩の時みたいな衝撃波でこいつらを――」
『食べていいですか?』
青年が剣に命じようとすると、折れた剣は意外なことを乞うてきた。
『あの怨念、食べていいですか?』

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- 紅之蘭
- 2015/12/02 12:09
- 怨念をたべるとお腹壊しますわよ
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- かいじん
- 2015/11/03 22:29
- 好物なんでしょうか?^^
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- 優(まさる)
- 2015/10/30 21:13
- やったら良いと思うのですが駄目なのかな。
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