10月自作/ハロウィン・猫 「迎えのシ者」(後)
- カテゴリ:自作小説
- 2015/10/30 14:41:18
青年は一瞬わが耳を疑った。
「食べる? あれを?」
『許可してくだされば、食べて消化いたします。英国紳士は、好き嫌いをいたしません』
「ま、まあいい、なんでもいいから怨念たちを退治してくれっ!」
『了解しました。それでは。いっただーきまーす!』
青年の命令にとても嬉しそうに答えた剣の柄が、燦然と輝いたと思いきや。
信じられぬことが起こった。
驚くことにしゅうしゅうと音を立てて、おそろしい怨念たちが剣の柄に吸い込まれ始めたのである。
宙に浮かんで飛んで来た使者たちは何事かと首をかしげるも、たちまち怒気満ちた顔に変貌した。
「あの力はなんだ」「あれは浄化なのか?」「ありえぬ!」
無数に飛び回る暗い怨念たちは、みるみる剣の宝石に吸い込まれて消えていった。剣の舌鼓と共に、あっという間に。
『うっはあああ! ひさしぶりの、ごちそうでえええす! うま! 激うま! そしてっ』
剣はげっぷをひとつかまして、燦燦と柄の宝石を輝かせた。
『エネルギー充填完了でえええす! さっそくヘカトンガジェット起動ぉお! 第九十八機能安全装置解除! 必殺悪魔斬放ちマース。解除コードをどうぞ、我が主』
「へ? こーど?」
『刀身にコードが浮かび上がりますから、読み上げてください』
「お、おう。えっと……エクス、カリブルヌス、ノヴァ、ヘヴェス……」
青年が剣の刀身に煌々と浮かび上がった文字を読み終えた瞬間。
『たーまや~~~~~~!!』
その場に、すさまじい爆風が巻き起こった――
何が起こったのか。
眩しすぎて、始め全くわからなかった。
だが三人の使者――いや、死者たちが光の中で怒号をあげて消えていく姿は、はっきりと見えた。
爆発のように感じたのに、周囲は前とまったく変わらぬ宵に沈んだ暗い森のまま。木々は無傷で、ひと枝も雪の大地に落ちていなかった。
ただ、この世ならざるものだけが消えていた。
青年がまばゆさにチカチカした目をこすっていると。
「あ、あれ?」
黒い森の向こうから、副団長が驚く声が聞こえてきた。ぞろぞろと騎士たちを従えているが皆私服で、盗賊団のごとき風体をしている。
騎士たちは皆その手に水の入った小瓶を抱え、銀の矢を入れた矢筒を背負っていた。団長のために騎士団であることを隠して、狼たちの援護に来たのだ。
「おばちゃん代理、今ものすごい光の波が森中に広がっていったが……使者たちは?」
「はい、あの、剣が……なんか、退治しちゃいました」
何か特殊な剣なのかと、副団長や騎士たちは青年の手にある折れた剣を覗き込んだ。しかし力を出し切って疲れたのか、剣は柄の宝石の色を失いうんともすんとも云わなかった。
「こわれたのかなぁ……」
「古代武器なのかねえ。まさかこんなものがうちの営舎にあったとは」
せっかく太陽神殿の聖処の聖水と銀の矢をごっそり用意して来たのにと副団長は苦笑した。
「聖水に銀って、副団長閣下、敵が亡霊だって気づいてたんですね」
「団長の書簡に書いてあっただろ。カタカナ文字逆読みで、シシャガテキダって。それに銀枝の騎士の心得を全うせよとあったし」
きょとんとする青年の肩を、騎士たちが笑いながらばしりと叩いてきた。
「おばちゃん代理、うちの団訓を知らないのか? 『祈れ、戦え、死者の平安のために』だよ」
「そうそう、我が銀枝騎士団は悪魔払いの技に長けていた神殿騎士団がその前身だ。団訓と共にその手の技を継承しとるんだ」
「しかし亡霊を使役するなんて、シュヴァルツカッツェの当主は恐ろしいな。相当の呪術師とみた。狼たちは大丈夫か?」
副団長の言葉にハッとして青年は走った。黄金の狼が率いる群れのもとへ。
群れの逃走は止まっていて、狼たちは森の中にある小さな平地に寄り集まっていた。
鉄の狼たちが何かを取り囲んでいるので、青年の心臓は凍りついた。
駆けつけてみれば牙王が倒れていて、女の子がわんわん泣いてすがっていた。
「ママ! ママ! ママあああああ!!」
まさか、怨念に捕らえられたのか。剣の力が間に合わなかったのか……。
青年は黄金の狼のもとに駆け寄り抱きかかえた。狼の王は息をしていなかった。
「そんな……牙王……ディ、ディーネ! ご、ごめん……ごめん俺が、無理言ったばっかりに……!」
「いやああああ! しんじゃやだあああ!!」
子供が大粒の涙をこぼし、悲痛な声で叫んだとき。
ふわりふわりと、天から何かが降りてきた。
それはふたつの淡い光の玉だった。
仄かに光る玉はくるくると子供の周りを蝶のように飛び回り、それからゆっくりすうっと黄金の狼の中に入り込んだ。
「だ……れ……?」
子供の言葉を聞いた青年はびっくりしてまじまじと牙王を見つめた。
だれ?
だれの?
だれの、魂?
ああそうだ。
今宵は、天から先祖の霊が戻って来る夜だ。
もしかしたら。もしかしたら……
「ママ? ママ?!」
魂が入っていった牙王の体が、ぽう、と仄かに光ったと思いきや。
黄金の狼が、うっすら目を開けた。生気を取り戻したその瞳の中には、誰かがいた。
牙王だけではなく。
子供を護ろうとする、複数の、誰かが――。
翌日。
黒い森に囲まれたシュヴァルツカッツェ家の屋敷門の前に、銀枝騎士団副団長が騎士たちを率いて姿を現し、団長を迎えにきた旨を告げた。
「当家のお望み通りにいたしましたその見返りを、頂戴したく存じます」
騎士団が当家に従ったという使者たちの報告は、ちゃんと届いたのだろう。
そして攻めも辞さぬと完全武装で訪問した意気も通じたのかもしれない。団長とお付きの騎士たちは解放され、門の外に出された。
応対したのは黒服の執事一人と担架を運んできた使用人だけで、屋敷の者は誰一人出てこなかった。門に掲げられた黒い猫の紋がただただ不気味に騎士たちを見下ろすばかりであった。
囚われ人たちは、立てぬどころかほとんど昏睡状態だった。
「客人方は不幸にも病に倒れられた」
執事にはそう偽られたが、記憶を混濁させる薬を飲まされたらしく、騎士団長たちは当主に会って何を話してきたのか、数ヶ月間何も思い出せなかった。
その一方で――
『ぷはーっ! 久しぶりに大技使ったら意識とんじゃいましたよ。はー、すっきりした。って我が主、狼たちと一体どこへ?』
「南へ行く。ほとぼりがさめるまでね」
折れた剣を背負う青年と子供と牙王率いる鉄の狼たちは、営舎には戻らず北の辺境から避難した。
子供は野生の狼に連れ去られ、食い殺されたように見せかけて。
彼らは厳しい冬と恐ろしい暗殺者から逃げるために南下し続け、エティアの中央部を抜け、温暖な森に身を隠した。
青年はそこで子供と狼たちと幸せな数ヶ月間を過ごした後、再び騎士団営舎へと戻らざるを得なくなくなるのであるが。
それはまた別の、長い長い物語である。
――迎えのシ者・了――
無敵な神獣たちを味方につけてしまう
その親がわりである青年は、料理のおばちゃん代理から、自然と王になってゆくんですねえ
続編に期待^^
ご高覧ありがとうございます。
狼少女、出生の秘密などいろいろあり、ただものではなさそうですよね。
大団円になるといいのですがはたして……であります><
ご高覧ありがとうございます><
いわくありげな狼少女、お家はかなり古い由緒あるところのようです。
12月でひとくぎりをつけたいところですが……;
がんばります。
おそらくはこの世界の救世主になるのだろうなあと想像しながら読んでます
どんなふうに……
そこが醍醐味ですよね^^
ひとまず“姫?”の護衛成功と牙王の任務達成、折れた剣の必殺技が決まりましたね
亡霊たちを操って“姫”を亡き者にしようとする闇勢力“邪神?”の真意と“姫”のバックグラウンドが
少しずつ明かされてきた感じがします
長い物語になりそうですね
ご高覧・ご報告ありがとうございます><
300アクセス越えたのですね@@
続きを気にしてくださる方がいるのかな。
とても嬉しく思います。来月もがんばってみます^^
読んでくださってありがとうございます><
ハロウィンはリアル西洋でもお盆のようなものなので、
両親が帰って来て助けてくれる、というオチを^^
いちおう一話完結型っぽく締めてすが、どこまで続くのかー@@;
王様になるまででしょうか?
読んでくださってありがとうございます><
ハロウィン風味満載でホラーな敵さんが出てきましたー。
きっとあれです、シュヴァルツカッツェ家はワインで儲けてるに違いないですノωノ
あの黒猫ラベルかわいいですよね♪
読んでくださってありがとうございます><
はい、中世風味の騎士は大好きです♪
中世期にヨーロッパの北の辺境に自治領を持っていた聖ヨハネ騎士団というのがあるのですが、
この騎士団は普段はどんな生活をしていたのかなぁと楽しく想像しているうちに、
このシリーズのお話ができてきました^^
読んでくださありがとうございます><
ほめちぎってくださって、とても嬉しいやら面映いやらです汗
現在、世界が同じで時代が違うお話を平行して数作連載型で書いていて、
歴史やバックグラウンドを相互補強しているような感じです。
いつか本に……できたらいいなぁ><; キンドルとか考えてみます^^
読んでくださってありがとうございます><
おばちゃん代理のお話は、ぺぺの永久凍結事件から三、四十年あとの設定です。
赤猫剣はめぐりめぐって北の辺境に伝わったようですね^^
独自のファン層がさらに増えたような……
今回もVIPでしたよ
この話にはまだ続きがあるんですね。
怖くてどこか優しい妖のストーリー^^
シュバルツカッツェといえば安くておいしい白ワインを
真っ先に思い浮かべます。ラベルも可愛いんですよね^^
登場の仕方やセリフから、愛着が伝わってきます。^^
このファンタジーは人物背景も文章もとても練れているので展開が変わっても話がスムーズに入ってきて一気に読めますね。
実に面白い作品なので「本」になるよう願っております!祈
これから先の未来はどうなるのですかね。
おばちゃん代理は、アパシオンのお話にも出て繰るのですかね。
おまけ……
狼少女カーリンのイメージをアバターで作ってみました。
金髪少女らしいです。
名前はおばちゃん代理が勝手につけました。
狼母は「ムスメ」とか「私の子」としか呼んでなかったらしいです。
しかしおばちゃん代理、いつ本名が出てくるんでしょうか;