Nicotto Town


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自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・115

 【地下都市ぺルポイ】
 
 ルプガナから北北東に進路を取り、ロラン達の船は、ペルポイの町の南にある船着き場に着いた。かつては大きな港町だったが、ペルポイの町が地下に移動してからは、取引先であったこの町も廃れ、今では船着き場としての体裁をようやく整えているばかりである。
 船番の男にペルポイの町への行き先を聞くと、すぐ北だと教えてくれた。だが、あまりいい顔はしなかった。
「行っても普通の人は入れないよ。……おや、あんたらは入れるのかい。いいねえ。あそこにゃ選ばれし民しか住めないっていうよ。まったく、自分らだけハーゴンから助かろうってんだから、そのうちバチが当たるんじゃねえかな」
 不満を漏らす男の話では、交易船やザハンからの漁船がこの港に立ち寄ると、ペルポイの町から商人達がやって来て、この場で取り引きするのだという。魔物を恐れて、多くの護衛を引き連れて来る彼らを、船番達は皮肉を込めて「お大尽」と呼んでいた。
「取引先の相手も中に入れてくれないんだね」
 船番に船の管理代を多めに渡してその場を後にすると、ランドがあきれたように言った。
「魔物が人間に化ける例が多いからな。それでじゃないかな」
 言って、ロランはやや眉をしかめる。ムーンペタでの出来事が頭をよぎったからだ。ルナは何も言わなかったが、同じ気持ちだったに違いない。
 船着き場から数時間歩くと、小さな小屋が見えてきた。かつては町を囲う広い城壁があったのだろうが、現在は見渡す限りの平原になっている。その中で、石組みの瀟洒な小屋だけが異質だった。
 小屋の傍に来ると、若い男が一人座って、犬とたわむれていた。しかし表情はぼんやりとして、心あらずといった風情である。
「あの、ここに住んでるんですか?」
 不憫に思ったランドが話しかけると、青年はランドを見上げて、悲しげにかぶりを振った。
「いいえ。普段は、船着き場で働かせてもらっていますが。でも、ここには俺の仲間が住んでいるので……懐かしくて、つい来てしまうんです」
「あなたは中に入れてもらえないんですか?」
 ルナが尋ねると、青年はうなずいた。
「私が長旅から帰ってくると、町はすでに扉を閉ざしていました。みんな、私を残して行ってしまった。中と交渉したのですが、魔物が私に化けているかもしれないといって、入れてくれないんです」
「それはひどいな」
 ロランは眉を寄せた。ルプガナの港主ルートンから聞かされた話では、ペルポイが地下に都市を移したのは数十年前だという。工事が終わってしばらくは、移住者を今より熱心に募っていたのかもしれない。青年が帰ってきたころには、募集も締めきったということか。
「私達、これから中に入るんですけど……一緒に行きますか?」
 ルナが勧めると、青年は弱く苦笑して断った。
「いや、やめときますよ。懐かしい顔に会えても、お前魔物だろう、と疑われては、俺は大事な思い出すらも失うことになりますから」


 地上に残った青年に同情を覚えつつ、ロラン達は金の扉を開けて中に入る。石畳には、大きな下り階段が造られていた。ムーンブルク西の祠を思い返しながら、小さな明かりが等間隔で壁際に付いた階段を降りていく。
「ほんと言うとさ、ちょっとドキドキしてるんだよね。地下都市ってどんなだろう?」
「それは見ればわかるさ」
 ランドに答えるロランもまた、地下都市とはどんなものなのか、見るのを楽しみにしていた。階段は緩やかな傾斜で長く続いていたが、やがてざわめきが聞こえ、昼間のような明るさが降り口を輝かせた。
「わあ……!」
 階段を降り立ったルナが、思わず感嘆をもらす。ロランとランドも、あっけに取られて見つめていた。
 ペルポイは、岩盤を削って広大な空間を造り出した中にあった。建物は区画ごとに整然としており、空気の淀みはない。なぜ明るいのかと上を見上げれば、見事な浮き彫りの太陽が色彩鮮やかに町を見おろしていた。光源は太陽に仕込まれた魔法装置だ。洞窟に入る時にランドがよく使う、光明の魔法を応用したものだろう。ずっと昼間では生活が狂うから、時間の経過で光を弱めるに違いない。
「木や草も植えられてるよ。ちょっとかわいそうだね、太陽の光もなくて、外の空気を吸えないってのは」
 きれいに手入れされた公園を見て、ランドが言った。木々の立場からすれば、人工の光で育つのは自然ではない。しかし植物のおかげで、町の空気が清浄に保たれている。地上に通じる空気穴もあるだろうが、巧妙に隠されているらしく、見当たらなかった。
「すごいな、人間は……」
 ロランは吐息をついた。それ以上の言葉が出てこない。暮らしている人々は、何の不自由もなさそうだった。外界で魔物に襲われる危険から逃れているのだ、安楽な気持ちにもなろう。
「見とれてる場合じゃないわ。牢屋の鍵のお店を探すんでしょ?」
 ルナが言い、ロランは我に帰った。
「そうだった。まず、町を歩いてみよう」
 人口は1万人ほどだろうか。かなりの規模である。これだけの人が行き来していると、突然やってきたロラン達にも目を向ける人はいなかった。貧民街はなさそうだが、町は入り組んでいる。日の下を歩けない人間が潜んでいてもおかしくない。
 ためしに武器屋を覗いてみたら、かなり高品質の武具が売られていて驚いた。外界と接触を断っているのに、力の盾や光の剣、防護魔法文字を縫い込めた高級毛皮のコートが陳列されている。
「誰が買うのかしら、こんなの……」
 艶のある毛皮のコートを指先でなで、ルナがつぶやくと、上品な身なりの店主がルナ達をさりげなく見て近づいた。客に買う金はなさそうでも、邪険にしないのが主の流儀らしい。
「お目が高い。それは上質なミンクの毛皮を選りすぐって作られたコートでございます。貴族や富豪の方々が、男女問わず、魔物から身を守るためにお求めになられますよ。一見してわからない防御力の高さは折り紙付きです。鋼鉄の剣も通しません」
「あら、そう。丁寧にありがとう」
 こっちは仮にも王女だ。慇懃無礼な店主に嫌気が差し、ルナはロラン達を率いてさっさと店を出た。
「どういうお客が買うのか、よーくわかったわ。要するに、それを着て戦わない人が着る装備ね」
「でもあのコート、ぼくにも着られそうだったよ。身かわしの服って薄いから、やっぱりいざとなると防御が心許ないんだよねぇ」
「じゃああんた、自腹で買ったら? 6万5千ゴールドもしたわよ」
 そんなお金あったら家が一つ建っちゃうわよ、とルナはまだ頬を膨らませている。これ以上話題にするのは危険とみて、ロランは河岸を変えることにした。
「あ、あれが宿屋じゃないか? ずいぶん高級そうだけど……あそこしかないみたいだ」
 目に着いた建物を視線で示す。閉鎖空間なのに宿屋があるのは、これまた謎である。小屋の前にいた青年は、関係者以外入れないと言っていたが、実は賓客をこっそり入れているのかもしれない。あるいは、家にいるのに飽きた人々が、遊興のために滞在する施設としてなのか。




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