自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・117
- カテゴリ:自作小説
- 2015/11/08 22:20:09
【道具屋の謎】
道具屋ドラキーマは、中央通りの裏手にあった。黄色いドラキーが描かれた小さな看板からは、特に怪しさは感じない。ロラン達は、黒みがかった木の扉を開けた。
「らっしゃい」
うっそりと答えたのは、カウンターに座る禿頭に黒髭の男だった。店内は薄暗く、掃除もあまりしていないようだ。天井にはクモの巣がかかり、品物を置いたテーブルの下をネズミが一匹走り抜けていくのを見たルナが、小さく眉をひそめる。
ロランは売り物を見てみた。薬草に毒消し草、キメラの翼がある。値段は相場通りで、何の変哲もなかった。
再び店主に目を向けると、店主はこちらに興味なさそうに雑誌を読んでいた。表紙には、〈必勝ダブルアップ〉とある。賭け事が趣味なのか。
「どうする?」
ひそひそ声で、ランドが耳打ちした。
「例の品、置いてないよね」
「表向き、普通の店を装ってるみたいだな。やっぱり、あからさまに売ったらまずいからだろう」
ロランも小声で応える。ルナはテーブルを見ていて、薬草などが置かれた値札のうち、何も書いていない札があるのを見つけた。
「これは?」
ルナが値札を取って、店主に見せた。店主は雑誌から顔を上げ、つまらなそうにこちらを見た。
「値札だが、何か?」
「この品物は売ってないんですか?」
「見ての通りだよ。書き忘れたんでね」
そっけない答えに、ルナは表情に出さず、黙った。ランドが、何かに気づいてロランを軽くつつく。ロランはうなずいた。ルナの隣に立つと、ルナも察して場を譲る。ロランは気さくに話しかけた。
「じゃあ、何か売るつもりなんですよね? それを見せていただけませんか」
店主は探るようにロランを見た。
「忘れただけだって言っただろう。つまらんものだよ、それでも欲しいかい?」
「ええ。僕ら旅をしていて、珍しいものを見るのが楽しみなんです」
「見たからには、買ってもらうよ。2千だ」
「お願いします」
微笑してロランが了承すると、店主はのそりと立ち上がり、店の奥へ消えた。しばらくして、小汚い小さな袋を持ってくる。
「これに2千、払ってくれるかい?」
「中を見ても?」
「どうぞ」
ロランは、カウンターに置かれた袋を開けた。中を見たルナが、ひっと声を上げる。ロランとランドも顔をしかめた。
中身はぎっしり詰まったネズミの死体だった。鼻を突く悪臭が吐き気を催す。店主は笑わずに、ロランを見つめた。
「2千ゴールドだよ。どうする、本当に買うのか?」
「……」
ロランは店主の目を見た。暗い表情からは、何を考えているのか窺い知れない。ロランはうなずいた。
「買いましょう。その約束でしたから」
「……ふん。物好きだね、あんたも。今包んでやるよ。血やら糞やら、浸み出して来るからな」
店主は袋を取り上げると、後ろを向いた。
「ところであんた、忘れ物はよくするのかい?」
ロランが応える前に、ルナがロランをつついた。ロランは愛想良く言った。
「します。鍵なんてよくなくすから、本当に困ってるんですよ」
鍵のことを口にしたのは、賭けだった。ロラン達は緊張する。店主は背を向けたまま鼻を鳴らした。
「そうかい。そりゃ、大変だねえ」
ネズミの死体が詰まった袋を2千ゴールドで買い、ロラン達は店を出た。そして人目を避け、急いで近くの公園へ向かう。夕暮れの時刻なのか、天井の装置は光を弱めていた。薄暗い中、木々の茂った所で袋を逆さにする。ネズミの死体が何匹も落ちる中、小さな金属の棒が草むらに重い音を立てた。
「鍵だ!」
声をひそめ、ロラン達は喜びに顔を見合わせた。四角い枠の取っ手を付けた、鋼の細い棒にわずかな刻み目があるだけの物だが、確かに鍵だった。
「やったね!」
大声で言えないので、小さくランドが喜びを表す。ああ、とロランもうなずく。無表示の値札やネズミの死体は、一般人や警察の目から逃れる偽装だったのだ。大半の者は、無表示の値札を見て何もないと思いこみ、問うこともしないだろう。
それでも気づいた勘の良い者には、ネズミの死体を見せてたじろがせる。捜査に来た人間も、これで退くだろう。上品に育った官吏なら、それ以上調べたいとは思わない。
さらに食い下がる者には最後の問いで試し、安全な客と踏んでから、死体の中に鍵を潜ませたのである。
「でも、そのままじゃさすがに……」
触りたくないかも、とルナが痛ましそうにネズミの骸と鍵を見た。
「聖水を持っててよかったよ。まさかこんなことに使うとは思わなかったけど……」
ランドが鞄から聖水の小瓶を取り出す。ロランが手で穴を掘って、ネズミを埋めた。3人で手を合わせ、ランドがロランの手と、牢屋の鍵に聖水を振りかけて清める。
「さあ、まだすることはあるぞ」
牢屋の鍵を腰のポーチにしまうと、ロランは二人を見た。ランドとルナはうなずいた。