自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・126
- カテゴリ:自作小説
- 2015/11/14 11:09:06
悪魔神官デモニスとの戦いで愛用の鉄の槍を折られたランドは、ローレシア王から光の剣を譲られていた。
光の剣は、人が作り出せる武器の最高峰だ。ペルポイの町にも売られていたが、値段も相まって、所持する者は世界にわずかしかいないだろう。
先の戦いにおいて、ランドもまたロトの剣を振るうことがあった。今まで振るうことはなかったが、まったく使えないわけではなかったのだ。その剣筋も申し分なかった。細身剣が得意なランドだが、ほかの剣技も習得していたのだ。
だからロランは、ロトの剣をランドに譲ろうとした。ロトの装備への憧れはランドも持っている。盾が使えない以上、剣だけでもと思いやったのだ。
だがランドは笑顔で辞退した。ロトの剣はロランが持つべきだと譲らなかった。光の剣の方がロトの剣よりずっと軽く、扱いやすいからという理由である。
身に着ける装備は本人の技量も物語るというが、ランドの最近の成長は身体的なことだけでなく、魔法もめざましかった。ギラの上位呪文であるベギラマと、仲間の守備力を上げるスクルトを修得し、こちらの戦力もぐっと上がっている。
(置いて行かれると思ってるのは、私の方かしら)
雷の杖という稀少な魔法の杖を得てからも、ルナの呪文修得はいま一歩だった。攻撃呪文はバギしか使えず、最近覚えたものといえば、脱出の呪文リレミトだ。伸び悩んでいることは否めない。
「……大丈夫だよ」
間をおいて、のんびりとランドは言った。
「ロランのこと、大好きだからね。ロランのためだったら、ぼくは何だってできるよ」
「……」
ランドがむいたじゃが芋を切る手を止め、ルナは冴えた美貌を疑問符に変えた。
「それ、どこを受けての答え?」
「ロランを不安にさせちゃだめよ、ってとこ」
「だから、遅いってば……」
これがランドの調子とわかっていても、つい小言が出てしまう。繊細な話題だから、なおさらだ。
だがランドは気にせず、「次は何?」と指示をあおいできた。ルナは仕方なく、「お皿並べて」と答えた。
予言者である賢者クラウスは、白い石造りの祠に住まっていた。年寄りを想像していたら、意外と若いので驚いた。
冴え冴えとした美貌は、どこか子どものあどけなさも湛えている。俗世から極力離れ、異性を知らずにいると、こんな顔になるのだろうか。
「よくぞ来た、ロトの勇者達よ」
銀色の長髪に、薄い青い眼をした白い顔が、祠に入ってきたロラン達を見る。まとう法衣も、明るい曇り空のような白だった。
室内は静謐だった。魔除けの青と白の幾何学模様の床板が内部を一周し、清らかな水がクラウスのいる祭壇を取り囲んでいる。ムーンブルク城西の祠と、雰囲気が似ていた。水がもたらすひんやりとした空気もそっくりだ。
天窓からは昼の光が差し込み、壁に彫られた神々の彫刻を神秘的に浮き上がらせている。
こんな所でどうやって暮らしているのかと疑問を抱きつつ、ロランが歩み寄って挨拶する。
「賢者クラウス殿に智慧をお借りしたく参りました。ローレシアのロランです。こちらは、サマルトリアのランドと、ムーンブルクのルナ」
紹介されたランドとルナも、恭しく会釈をする。
「そなた達が来ることは、以前から知っていた。そして、そなた達の疑問に答えることが、私の役目だ」
落ち着いた声でクラウスは言った。祭壇前の椅子にゆったり腰かけている。ほっそりした手が、3人を招いた。
「ロンダルキアへ通じる道を探しているな。そこへ通じる旅の扉の存在も知ったか」
「よくわかりましたね」
ランドがびっくりする。クラウスは、色の薄い目を透かすようにランドを見た。
「我が目は過去と未来を見通す。だが、ほんの一部だけ。そなたらが戦いの果てに何をもたらすかまではわからぬ」
「教えてください、賢者クラウス。私達、これから満月の塔へ行って、月のかけらという物を探しに行くのですが……それを使って行ける海底の洞窟には、いったい何が眠っているのでしょうか?」
ルナが尋ねると、クラウスはすぐに答えた。
「像だ。大きさは赤子ほどの。邪神の像が、洞窟の奥深くで眠っている」
「邪神の像?」
口に出して、ロランははっとした。ペルポイの牢獄で、邪教の信者である老人が、信徒ならばそれを求めよと叫んでいた。
「それがあれば、ハーゴンの所へ行けるんですか?」
ランドが質問すると、クラウスはうなずいた。何かに集中するように半眼になる。その目で過去を見ているのだろうか。
「それがなければ、ロンダルキアの道は開けない。ロンダルキアは、古来から人が入れぬ霊峰であった。
だが、ハーゴンはロンダルキア台地の体内に、頂上へつながる洞窟があることを、魔力による透視で見抜いた。
ハーゴンは手にした邪神の像を高くかかげた。邪神の像の魔力により、岩山が裂け、とてつもなく巨大な門が開いた……」
「ルプガナの祠のお爺さんが話してたね。ハーゴンは、もとはベラヌールにいた神官で、いろんなことができる天才だったって。邪神の像も、ベラヌールから旅の扉でロンダルキアに行くまでに作ったのかな?」
ランドの推測に、クラウスはいいや、と答えた。
「像は邪神の写し身。邪神と交信した時に魔界から授かった物だ。邪神を信奉する者には奇跡を見せるという。それは事実だったな。ロンダルキアの山が割れたのだから」
「その像は、どうして洞窟へ?」
ロランが尋ねた。
「ロンダルキアに神殿を構えたハーゴンは、配下の者を使って、邪神の像を遥か北東の海に浮かぶ洞窟へ納めた。
それは、像がさらなる力を蓄えるためでもある。その場所は、大海に浮かぶ精霊の祠の南にあり……聖なる力が降臨する場所と対になっている。
そこは魔界に最も近き場所。ロンダルキアが破壊神降臨の場なら、海底洞窟は、魔物を召喚させる場所なのだ」
「えっ――」
ルナは疑うようにクラウスを見た。
「お父さまは、ロンダルキアから大量の魔物が押し寄せてくるのだと話していたわ。それは間違いだったの?」
「いや。ロンダルキアへ魔物を送るのが海底洞窟の役目だ。海底洞窟で邪神の像を使うことにより、ハーゴンの意のままになる魔物が多数召喚される。その魔物らが、一度ロンダルキアへ集結し、各地へ散っていくのだ。
悪魔神官のような高位の魔道士は、空中に魔法陣を出現させて魔物を呼び出すが、あれは魔界から呼んだものではない。わかるな?」
「はい。そういうことだったのね……」
納得し、ルナは黙った。
「じゃあ、邪神の像を洞窟から取り上げれば、もう魔物は魔界から来ないんですか?」
ランドの問いに、クラウスはうなずく。
「だが、魔物は数えきれぬほど世界に蔓延している。像を得たからといって、すぐに世界から消えることはない」
「そうですか……」
「ありがとうございました」
ロランは丁寧に頭を下げた。
「とても助かりました。必ず、邪神の像を得て、ハーゴンを倒して参ります」
クラウスは淡々とロラン達を見て、かすかにうなずく。表情が乏しいのは、超常の力を使って消耗したからだろうか。
「……ハーゴンへ近づくには、邪神の像を用いよ。それを、ゆめゆめ忘れるな」