Nicotto Town


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自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・130

 塔は狭く、階段の数は多かったが、罠や仕掛けはなかった。ただ、現れる魔物の数は多彩で、悪魔神官に似た仮面の魔物・地獄の使いや、翼竜バピラス、ゴールドオークや腐った死体など枚挙にいとまがない。
 次々と襲い来る魔物達に、さすがのロラン達も徐々に疲れが見え始めた。数歩進めば次の群れが来るというありさまで、なかなか先へ行けない。
「こりゃ大変だ。一度テパの村に戻ってやり直すのもありかもしれないよ」
 6階まで上がってきたところで、ランドが壁に手をつき、肩で息をする。頑張りましょう、とルナ。
「せっかくここまで上がってきたんですもの。もう少しで見つかるかもしれないし」
「そうだな。……ん?」
「どうしたの、ロラン」
 ぼんやりした目で、ランドが尋ねた。この階には外壁がなく、薄暮を迎えた密林が見渡せる。いや、とロランは内壁の角に目を凝らした。
「さっき、あそこで何か光った気がして」
「お宝かな?」
 ランドもロランの視線を追い、その目が見開かれた。曲がり角に小さな銀色の水たまりがある。それは小さな銀色の泡を体から出していて、なおかつ丸い目とにっこり笑った口があった。ランドが叫ぶ。
「はぐれメタルじゃないか!」
「なっ?!」
 ロランとルナも声を上げた。が、ロランだけぴんと来ず「はぐれメタルって?」と聞いた。
「説明はあと! 追いかけよう!」
 ランドが真っ先に走り出し、ロランとルナも急いであとを追った。
 メタル系スライムには、以前ドラゴンの角でメタルスライムに逃げられた思い出がある。メタル色のスライムを倒すと、大変な経験と幸運がもたらされると、人々の間では信じられていた。なぜなら、彼らは精霊ルビスの祝福を受けた特別な魔物だからである。
 ということを、走りながらランドは器用にしゃべったが、ルビスの祝福を受けた魔物を倒して、かえって悪いことが起こりやしないかと、ロランは思った。
 はぐれメタルは蛇行しながら流銀のごとく上階へ上がった。塔は7階で行き止まりだ。吹きさらしの屋上は狭く、はぐれメタルは追いかけてくるロラン達を見てぴゃっと鳴いた。
「やああー!」
 はやぶさの剣を抜いたランドが、今までにない雄叫びを上げてはぐれメタルに切りかかった。すかさずはぐれメタルは左に避け、はやぶさの剣の切っ先が床に火花を立てる。だが、返すランドの剣がはぐれメタルの体をかすめた。粘つく体が少し飛び散り、魔物は驚いて上に伸び上がる。
「はっ!」
 ロランもロトの剣で斬りかかる。神速の一撃もはぐれメタルの素早さが上回り、刃は床を噛んでランドの時より大きな火花が飛び散った。
「ルナ、そっちに行ったぞ!」
「え、え?!」
 足元に滑り寄って来たはぐれメタルを見て、ルナはいかずちの杖を抱え、ロランと足元を交互に見た。今まで魔物に殴りかかったことがないため、すっかり慌てている。
「やだっ、来ちゃだめよ! だめったら!」
 魔物は、ルナならくみしやすいと踏んだのか、床を跳ねて飛びかかってきた。
「きゃあ!」
 ルナは叫び、とっさにいかずちの杖を振り下ろした。目を閉じて両手で振った杖は、見事にはぐれメタルの流動する体を直撃する。見た目は液体なのに、まるで鉄板を撃つような衝撃がルナの両手に生じた。
「おおっ!」
「やった!」
 ランドとロランは同時に歓声を上げた。哀れ、はぐれメタルは白目をむいて、とろりとルナの足元に広がった。体が消える時、顔があった部分にこぶし大の青い玉が残る。
「ああ……ごめんなさい」
 へなへなと尻を落として座り込み、ルナは涙ぐんで青い玉を拾い上げた。
「泣かないでよ……やっつけるなんてすごいじゃないか」
 ランドが慰めると、ルナはきつくにらみ返した。
「私、なるべくスライムは殺したくないの! だってかわいいじゃない……」
「うん、まあ、そうなんだけどさ……」
 ランドは返答に詰まって、しょぼんとした。まあまあ、とロランが二人をなだめる。
「とにかく、終わったことはよそう。それよりその玉、いったい何だろう?」
「きれいよね。見て、青い水が固まったみたいに透き通ってる」
「ほんとだぁ。それに玉の表面に、赤い石が金で象眼されてるね。なかなかできない技術だよ、これは」
「やっぱり魔法の品なんだろうか……」
 ロランも玉に目を吸い付けられていた。澄みきった青い玉を見つめていると、まるで母親に抱かれているような、不思議な気持ちになった。
「それはルナが持ってるといいよ。何に役立つのかわからないけど、あのはぐれメタルを倒した戦利品だしさ」
「あまり戦利品って言わないでよ。でも、そうするわね」
 ランドが言うと、ルナはやや眉をひそめた。玉を手布に包んで、大切に鞄へしまう。
「さて……。ここには月のかけらはなさそうだし、戻るか」
 ロランが言い、二人もうなずく。3人がその場に背を向けると、その背後に萌葱色のドレスをまとった美しい娘が現れた。半透明の姿はこの世のものではなく、慈愛に満ちた面差しは、まるで我が子を見るように3人へ向けられている。
 だがロラン達がそれに気づくことはなく、娘の姿もまた、ほどなくしてかき消えた。




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