自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・131
- カテゴリ:自作小説
- 2015/11/22 09:24:41
宝はわざと遠回りさせる――。
以前ランドが言った名言は、この塔にも生きていた。銀の扉に閉ざされた秘密の階段を見つけたロラン達は、そこから1階まで下り、ついに塔の胎内へたどり着いた。
「ここか」
ロラン達は扉を見上げた。両開きのそれには、海に浮かぶ満月が金と銀の金属で浮き彫りされていた。鍵穴は見つからなかったので、試しにロランが押してみると、扉はあっさりと奥へ開いた。
「……!」
足を踏み入れて、3人は息をのむ。部屋の中心に金属製の円筒があった。扉に施されていたものと同じ金属で、不思議な金と銀のきらめきを放っている。それは天井とつながっていた。
円筒は、よく見ると多くの管や歯車が組み込まれていて、どうやら美術品ではなく機関のようだった。
その装置に、波しぶきに乗る美しい人魚や蛇の彫刻が絡みついている。彫刻はまるで生きているようで、機関の無機質さと相まって妖しいほど美しかった。
「これはいったい……」
ロランが像に見とれていると、ランドが声を上げた。
「人がいる?!」
「えっ?」
言われて、ロランは初めて気づいた。白いローブを着た小柄な老人が、いつの間にか円筒の前に立っていた。しかし生身ではない。半分透けた姿は、幽霊のようだった。
「あなたは……?」
おずおずとロランが近づくと、まるで待っていたように老人はくぐもった声を放った。
「月満ちて欠け、潮満ちて引く……。すべてはさだめじゃて……」
ザハンの言い伝えと同じだ、と3人が思った時、老人はふっとかき消えた。
「なんだったんだ……」
「ロラン、あそこ!」
ルナが円筒の中心を指さす。人魚と蛇が絡みあった淫靡な像、その人魚が抱える玉が上下に開いたのだ。玉の中には、銀縁をした円盤状の装飾品が埋めこまれていた。
円盤を取り巻く銀の針金の装飾は螺旋を描き、どことなく蛇を思わせる。下部のつるし飾りには、赤い石が涙の形をして輝いていた。
「なんだこれ……鏡の中に、夜空がある?」
ランドが信じられないふうに目を見開く。円盤の中には本物の星空があり、三日月が輝いているのだ。思いきってロランが指で触れてみると、表面は普通のガラスの感触だった。
「きっとこれが、月のかけらね」
ルナも円盤に触ってみた。夜空は揺るぎもしなかった。
「このからくりがこれを作ったのか、さっきのお爺さんの幻を出すためのものかはわからないけど。とにかく、私達が持って行っていいみたいね」
「1階にあった不気味な像といい、わからないことばかりだな……。これを使って潮の満ち引きが操作できるってことは確かだけど、どうして、そんなものがこの世にあるんだろう。悪用されたりとか、誰も考えなかったのかな」
ロランは思わずため息をついていた。
「月のかけらは、もしかしたら精霊ルビス様の落とし物かもしれないね。この世界を創った時に、偶然生まれてしまったものかもしれない。それを見つけた誰かが、何かに利用しようとしたり、そんな話があってもおかしくないよ」
ランドが言った。なるほど、とロランもうなずく。
「大昔の誰かがこの塔に封印したのは、悪用を防ぐためか? 海底洞窟は、ハーゴンが魔物を魔界から呼び出すために利用してるって、賢者クラウスが話してくれたよな。その場所に安易に入れないように、ここに納めた、とか……」
「そうね。ロランの推測も当たってるかも」
ルナも考えながら言う。
「この世界は精霊ルビスが人間のために創ったと言われている。でもそれは、完全じゃなかった。人が幸せになるために神が創ったのなら、魔物が入り込む隙間なんてできなかったはずよ。でも海底洞窟は魔界につながっていて、邪神の像がその隙間を広げて、呼び込む鍵になっている」
「魔物なら、潮の満ち引きは関係なく出入りできるんだろうね。空を飛べる魔物に運んでもらったりさ。これが向こうにも必要な物なら、とっくに奪われてるか、ぼくらに取られないように、ここに強い魔物を置いてるよ。ぼくがハーゴンならそうするな」
「……ハーゴンなら、か。ハーゴンはどうして、世界を滅ぼそうとするんだろうな」
ロランの誰ともなしの問いに、ルナがやや眉をひそめる。
「ハーゴンは昔、人間だった。今も変わらないのかもしれない。どうして、滅びによって世界を変えようとするんだろう。どうしてこのまま、穏やかにみんなが暮らすのを良しとしないんだろう」
ルナは難しい顔をしたまま、答えない。
しばらく、何ともいえない沈黙が続いた。
ランドはあらためて円筒を見上げ、口を開いた。
「……この世界は、単純なものじゃないんだよ。光と影、いろんなものが混ざり合って、はっきり二つに分かれることができなくなってるんだ。この像みたいに」
絡みあう人魚と蛇の像は、魚の尾と蛇の尾が一つに融合していた。
「……この世界は、人間と一緒なのかもな」
ぽつりと、ロランは胸に浮かんだ思いを口に出した。
「人間に良い心と悪い心があるように。そしてそれは、完全に二つに引き裂くことができないように」
「――そうだね」
ランドがうなずく。
「ロランの言う通りだと思うよ。魔界の穴はルビス様にも、どうしようもなかったんだと思う。過去に大魔王に支配されたこともあるし、魔物っていうのは、もうこの世界の一部みたいになってるから」
「だからって、魔物が好きにするのを許してはおけないわ。あいつらはみんな残酷で、人を襲うことしか考えてないんだから」
強い口調でルナはランドに言う。うん、とランドは穏やかにうなずいた。
「それを止めるのが、ぼくらだってことだよ」
「……ああ」
ロランもうなずく。今はそれで十分だ、と思った。自分達が命を懸けて戦う理由には。
この旅で、それは何度も確かめてきた結論だった。それでも思わずにはいられないのは、やはり揺らぎがあるからだろう、とロランは思う。
人々を救う目的のために、数多くの魔物を殺してきた。悪といえども命を奪う罪深さに、内心はいつもとがめていたのだ。
それはランドやルナも同じ思いだったに違いない。
(この戦いが終わったら、そんな気持ちもなくなるんだな。でも、本当に平和になったら……)
ロランは右手を見つめていた。世界で、ロランを超える腕力の持ち主は、おそらくいないだろう。
平和になったら、この力はどこへ向かえばいい?
(やめよう、今は)
ロランはぎゅっと右手を握ると、考えを振り払った。そして、人魚像が持つ玉の台座から、月のかけらを取り外す。
夜空を抱える円盤は軽く、ロランの手の中で静かに輝いていた。
ファミコン版だと、塔の内部(1階フロア)に最後のボスの像が飾ってあるのだが、それについての言及はなく、スーファミ版では竜のレリーフに置き換わっている。
重要アイテムの宝箱のそばには、謎の老人。どうやってこんな魔物だらけの塔で生きているのか。
謎すぎたので、深く書けずに困り果て、何かの幻ということにした。
アイテム説明では、月のかけらは、人間が作ったものではない、超自然的な物質とのこと。
なんでそんなものが落ちているのか?
ついに考えつかなかった…。公式小説だと、「アイテム物語」に従って、神様が作った物とされているけれど。
公式本が出ていた当時は、なんでも神や霊の仕業にしとけばよかった時代。
今はそういうオカルトな考えは古くなってきている。
当時ハマったその手の小説なども、読むに耐えなくなってしまった。尊敬していた某作家の作品も…だ。