アスパシオンの弟子76 革命(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2015/12/19 02:20:29
エリシア・プログラム。
それはソートくんが仕組んだ、妖精たちへの絶対命令。
エリシア姫の娘である妖精たちが、メキドという王国を維持存続させるためにとるべきとする、緊急時の行動規範であるそうだ。
それは俺が不在となったときにのみ発動するもので、潜みの塔に住んでいる最年長の妖精が司令塔となり、全妖精に命令を送るらしい。
その司令塔の命令により、ブルチェルリ家に嫁いだアフマル同様、ロザチェルリを除くあとふたつの選王候家にも妖精たちが嫁いだという。
「ほかの子たちはその血統を証明して選王候正夫人に収まり、将来メキドを支える子を成すべく子作りに励んでいるわ。でも私が嫁いだブルチェルリ家では、当主が病死してしまったの。私以外に夫人はいなかったし、子供もいなかったから、正夫人の私が家督を継いだのよ」
妖精たちは樹海王朝の王シュラメリシュの王妃エリシアの卵子から生まれた。
その血統をかざせば、選王候たちは妖精たちを娶らざるをえないだろう。彼女たちはその気になれば、メキドの王位継承権すら請求できる身分であるのだから。
「アフマル、黒幕がロザチェルリだとはわかったのはいいが、なぜ王都民の蜂起を許したんだ? みすみすベイヤート陛下を……殺させるなんて」
俺が訊くと、アフマルは地下道を走りながら呻いた。
「おじいちゃん……私は、ベイヤート陛下が許せなかったの。玉座から引きずり下ろしたかったのよ。幸いエリシア・プログラムが発動して、私はそれを可能にする力を得たわ。だからわざと……私はわざと、ロザチェルリの暴政と蜂起を止めなかった」
「なんてことを」
「言い訳に聞こえるだろうけど、陛下を殺させるつもりはなかったわ。まさかロザチェルリがあそこまでするなんて、愚かな私はそこまでは読めなかった。でも私は……心の底では、陛下の死も望んでいたのかもしれない」
アズハルは元気なのかときくと、アフマルの目にじわじわ涙がたまった。
ベイヤート陛下は自力で彼女を探し出したものの、アズハルは王の側室になることを拒否し、娘も連れて行かないでくれと頼んだそうだ。だがベイヤート陛下は娘を無理やり引き取って、王女の侍女にしてしまったという。
「アズハルは少しでも娘のそばにいたいと、王都を本拠地とする歌劇団に戻ったわ。でも半年前に……」
「まさか……死んだのか?」
「身を寄せていた小さな国で、ずいぶん無理をしたみたい。すでにひどい病にかかっていたの。かわいそうだったわ。娘の名前を呼びながら、アズハルは天に……」
もしアズハルが今も生きていたら。
ロザチェルリの暴政を食い止めて、ベイヤート陛下の名を貶める事態を看過しなかっただろう。
アフマルはそう言って地下道にぽろぽろ涙を落とした。
「罪深いことをしたけれど……後悔はしないわ。これが私の。そして私たちみんなの望み。私たちの復讐だったのだから」
アフマルだけでなく、他の妖精たちもベイヤート陛下のためには誰も動かなかったそうだ。ベイヤート陛下の退位を、妖精たちのだれもが望んでいたという。
「それが私たち、エリシアの娘たちの意志だったの。おじいちゃん……許して……」
「おまえたちの気持ちはよくわかるよ」
二人一組で毎年生まれる妖精たち。たしかにこのアフマルは、一緒に誕生した相方の子をとても大切に思っていた。ただの姉妹ではなく。自分の分身とみなして愛していた。他の妖精たちにとっても、大切な姉妹だ。
「でも、罪をつぐなうのに命は高すぎる」
地下道にぽつぽつと血の跡が落ちている。
そのすぐ先に少年が二人、折り重なるようにして倒れていた。トルナート陛下の兄王子たちだ。逃げている最中にここで襲われたのだろう。
少し先へ走ると、王妃殿下とその侍女、そして王太后様が倒れていた。
トルナート王子と姉のエリシア姫、そしてアズハルの娘は? まだ逃げ続けている?
分かれ道が現れた。
俺は韻律を唱え、ここを通っていった者の気配を探った。淡い光が通路のひとつに浮かび上がる。迷わずそこへ飛び込み、走った。がむしゃらに走った。
道に血の跡を見つけて、さらに足を速める。
前方から悲鳴が聞こえる。少女の声だ……。
――「往生際が悪いですぞ。さあ、安らかな死を贈りましょう」
はるか先に兵士たちが数人いる。そいつらの手には、ギラリと光る剣が見えた。兵士の下には……。
「トルナート王子!!」
俺の赤い目が、倒れた姫にすがっている幼い王子と侍女の姿を捉える。
俺は韻律を唱えながらその場に飛び込んでいった。
どうか間に合えと祈りながら。
読んで下さりありがとうございます><
意外? なところに記憶記録していたぺぺさんでした。
視神経に直結している義眼、脳髄までびんびん影響を及ぼします^^;
アイダさんは年の功もありましたがソートくんは……
肉体が死んでからも宝石の中で魂が生きてるらしいので、
これからもさりげなく世界に影響を及ぼすことになりそうです汗
アイダさんの技術とソートくんのシステムで自我を取り戻したペペさん。
善き魔人の修行のおかげか、韻律のパワーも回復したようです^^
やはり大事なバックアップシステム。
ペペさんのメインメモリが封鎖されても安心の外部記憶装置。
ペペさんによるシステム統制が効かなくなったら発動するセーフティーモード。
アイダさんとソートくん、恐ろしい師弟です^^
重なり始めた時の輪の上に、ペペさんたちの意思も重なって、
どんな展開が待っているのでしょう。
続きがとても楽しみです。
いつも楽しいお話をありがとうございます♪
お題:クリスマスに欲しいもの
平和。それにつきます。
ペペの願いむなしく、トルナート王子の家族は不幸を贈られてしまいました><
読んで下さってありがとうございます><
トルナート王子はたぶん大丈夫だと思うのですが、
姉姫の方はたぶん歴史通りになるのかなと><;