アスパシオンの弟子78 方舟(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/01/06 01:11:17
アフマルは、腕を怪我したアズハルの娘と共に姉姫を抱えてポチ3号に飛び乗り、山岳鉄道の終点である山奥の国に至っていた。
妖精たちはエリシア・プログラムで覚醒した直後、この国に中規模の拠点を作り、そこに潜みの塔と同じような作業施設を配備したそうだ。アフマルはその作業施設に備えつけられている培養カプセルに姉姫を入れ、必死に治療を試みているらしい。だが思ったよりも傷が深く、カプセルに入れられた時点で姫はすでにこときれていたという。
「アフマル姉様は決してあきらめないようにと基地のみんなに伝達して、現在も姫様の蘇生を試みさせています。でも生き返る可能性はとても低いそうです……」
そんな状況下で舞いこんできた、メキドの「にせパルト将軍」が出した公報。本物のパルト将軍であるアフマルは、その公報に激怒したそうだ。
「アフマル姉様は急ぎメキドに戻って、摂政を倒そうと意気込んでいます。私たち妖精は、全面的にアフマル姉様に協力する所存です」
メキドの様子を報告してくれたターコイズがきっぱりと宣言する。しかしロザチェルリの背後には、不死身の魔人たちとアイテリオンがいる。政権を取り戻すには一筋縄ではいかないだろう。
「俺も協力する。これまで作ったものを総動員させよう。それで、アズハルの娘の具合はどうなんだ? 拠点にいて怪我を治してるのか? 元気なのか?」
「はい、リネアは怪我を治療しながら、姉姫様のカプセルのそばにずっとついています」
未来の光景が一瞬浮かぶ。
大丈夫だ。俺たちはロザチェルリに勝てる。将来トルナート殿下はサクラコさんたちケイドーンの傭兵団の本隊と出会い、そして王位につく。
しかし――
その治世を阻む者が、現れる。それは北五州の蒼鹿家で、トルの姉は生きていると主張してくる。その姫はたしかにせもので、姫が死んだ時にそばにいた侍女……
『私は、エリシア姫ではないんです』
たしかに姉姫ではない。だがあの子も、れっきとした姫だ。俺がファイカで会ったあの姫は、アズハルの娘だ……!
あの子は将来、生まれ故郷に帰る? そこで蒼鹿家につかまる?
それを阻止するには、あの子を妖精たちの拠点で保護し続けなければ。
俺はトルナート殿下の家族を救えなかった。でも。殿下の未来は守らなければ――
しかし、その指示を。アズハルの娘をずっと保護しつづけてくれ、という願いを。俺はレモンたちに伝えることができなかった。
指示を与えようとしたそのとき。
『どこにいるのです?』
頭に直接、恐ろしい声が響いてきたからだった。
『魔人ペピ。どこにいるのですか?』
その声の主は、アイテリオンその人のものであり。まるで耳をつかまれて大声で叫ばれているように、くっきりはっきり聞こえてきた。
『善き魔人は、勝手なことをしてはいけません』
「ちく……しょう! そんなっ! オリハルコンの服を着てるのに!」
「おじいちゃん? 急に取り乱してどうしたの?』
度を失い、衣のフードを目深に被り。とにかく外に肌を出さないようにするも。その声はびんびんと、わが体の内側から響いてくる。
なぜ奴の呼びかけが聞こえる? 世界一安全な場所で。魔人の主人の働きかけを完全に遮断するはずのものを身につけていて、なぜ?
『ペピ。逃げようとしても無駄です。私はあなたの心臓に、分霊したわが魂を分け与えました。ゆえに、あなたは私から決して逃れられません』
「な……!」
つまりアイテリオンに囚われた時に、体内にアイテリオンの一部を仕込まれたのか?ということは、もうオリハルコンの服を着ても無駄だというのか?!
恐れていたことが起きてしまった。アリストバル護衛長がやっとのこと動けるようになり、アイテリオンに報告したのだろう。それで魔人の主人は、俺を探し始めたのだ。
『ペピ。もし私の敵の中にいるのなら。ただちに駆逐しなさい』
どくん。
心臓が大きく脈打つ。
『敵を退け、私のもとへ戻りなさい』
どくん。
もう一度、大きく波打つ。幾度も響く声にこたえるがごとく、ずきずきと胸が熱く痛んでくる。
『魔人の力を解放し。我がもとへ、帰りなさい』
「うあああああっ!!」
体のうちで熱くくすぶる何かが、俺の脳髄を焼いた。頭を抑えながら叫んだとたん。灼熱の感覚がぶわりと背中に広がり、めきめきと背が割れた。すさまじい痛みと共に、背中からみるまに何かが生えてくる。
「お……俺から離れろ! レモン! ターコイズ! 傭兵さんたち!」
トルのカプセルを巻き込んではいけないと、俺はおのが意志をふりしぼって円堂から離れ、ドームの端へ走った。
見れば手足が焼け焦げるようにじわじわ黒ずんでいく。背中から割れ出てきたものが、みるみる大きく広がっていく。ばさり、という羽音が聞こえる。
燃えるがごとく熱く、激痛に苛まれる背から生えてきたもの。
それは――大きな翼だった。
「うそ、だ……ろ……」
体は黒ずんでいるのに、その翼は目がくらむほどまっ白で輝いていた。
まるで、天の御使いの翼のように。
『さあ。敵を駆逐し。我が元に戻りなさい』
「ぐああああああ!!」
アイテリオンの声に呼応して、俺は悲鳴とも雄たけびともつかぬ叫び声をあげた。おのが意識がどろどろ溶けていく。
『帰ってきなさい』
「あああああああ!!」
頭を抱えて叫んでいるうちに。
意志があとかたもなく、霧散していく……。
白い胡蝶がうわっとまばゆい翼から出てきた。はばたくごとに、何百、何千と。
「は……い。ご主人様。了解。しました。我が君。おおせの。とおりに。敵を。敵を」
俺の抑揚の無いつぶやきとともに、光の蝶々たちはドームのそこかしこに飛んでいった。
「敵」を、駆逐するために――。
お読みくださり、ありがとうございます><
そうです、世界一ヤバイところにー^^;
しかし方舟は下界と隔絶されている宇宙。
それが次話で幸いした形に? なりました。
ファンタジーというよりSF風味になってきた感じでありますが@@;
ラストまであと少し、楽しんで下されば幸いです><
お読みくださり、ありがとうございます><
ペペの世界は時間軸が一本きり、平行世界はどうも生まれないみたいです。
未来から来た人の行動も加わって、世界ができているようです。
たとえ過去へ戻れても、やり直しはきかない……><
チートは使えないとなれば、今在るところで精一杯努力するしかありません。
ぺぺ。そしてぺぺがこれまで作ってきたものが、これから一所懸命がんばります^^
お読みくださってありがとうございます><
魔天使化したぺぺさんはたぶん手がつけられないので
封じるしかないのだと思います><
救いがどこかにあるといいのですが……
世界一安全な場所は宇宙の島。
そこで時間の分岐を変えようと奮闘するペペさん。
そのペペさんに異変がもたらされ、世界一安全な場所は
世界一ヤバい場所に・・・
覚醒した妖精さんたちはどう動くのか、
今度ばかりは動けないのか・・・
時間も空間も遥かになった物語、続きがとても楽しみです。
いつも楽しいお話をありがとうございます♪
今回も、御作品を楽しく拝読しました。
歴史の流れは変えられないのでしょうか。
魔人なら可能だと思っていたのですが、どうも簡単には行かないようです。
私事ですが、社会に出たとき、学生時代にもっとマジに勉強していればと後悔しました。
しかし、学生時代にマジに勉強しても、やはり同じ結果かも?
興味深く、面白い視点の作品ですね。
変えたいのに変えられない・・これが人の世の醍醐味の一つかも!(*^▽^*)
次の作品を心からお待ち申し上げます。
m(_ _)m
お題:2016年の抱負
過去に行ったぺぺ。歴史を変えようとがんばっているのですが、
未来から来た自分も因果律の中に組み込まれていて、
未来は決して変えられないことを思い知らされています。
まだ確定していない未来=自分が永久凍結封された後の世界のために、ぺぺはがんばります。
作者は今年、アスパ他連載ものの完結をめざします。
どこかに作品を応募できるといいなぁ……(遠い目)
どうするのですかな? これからは・・・。