アスパシオンの弟子80 着水(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/01/15 16:35:15
ごおごおと落ちていく方舟は、白い羽毛をまき散らす六翼の女王が支えてくれたことにより、四方飛散することなく海面に不時着できた。
落ちた場所はエティア西南部の港町の沖。港町にはすでにジャルデ陛下が手を回して、救護部隊を派遣してくれていた。
「くう……ちょっときつかったわー」
岸辺に上がった美しい六翼の女王が、こきこき肩を回す髭ぼうぼうの兄弟子さまに戻るなり。俺も妖精たちも、とても微妙な顔つきになる。なぜ兄弟子さまは生まれ変わって、こんなむさいおじさんになってしまったんだろう……。
目を覚まさないレモンは、ただちにエティア宮廷のそばにある潜みの塔に救急搬送された。培養カプセルに入れられることになる。無事の回復を望むしかない。
妖精たちの報告では、蒼鹿家を含む北五州一帯の宗主であるエティアとメキドの仲が現在険悪になっているという。
「実はエティアの王太子夫妻が狙われた事件も起こっていて……ジャルデ陛下はメキドを信じておられますが、メキドを敵視する国内勢力が力をもち始めています。アイテリオンはメキドとエティアを分断したいのでしょう。そしてぺぺさんから被害を受けた蒼鹿家の要求を、全部呑もうとしています。メキドは、トルナート陛下と蒼鹿家のもとにいる『女王』との、共同統治に……。その女王とは……」
「トルナート殿下の姉。アズハルの娘だな」
「はい……」
金属の筒服を脱ぎながら喋るターコイズたちの表情は、とても暗い。やっとのことトルナート陛下が取り戻したメキド。希望溢れるその未来がつぶれかけているのだから無理もない。
「エティアは心配いらない。俺はジャルデ陛下を信用してる。メキドからアイテリオンを追い出さないとな。まず、今すぐしなければならないことは……」
俺はぐっと銀の右手で拳を握った。
「俺の主人を……俺を救ってくれたアミーケを救い出すことだ。ぺぺの主人として責任をとらされて、アイテリオンに囚われてるんだろ?」
「はい。ルーセルフラウレンの創造主様は、水鏡の地、メニスの里へ送還されました」
「たぶん兄弟子さまはそのために、俺を助けたんだな?」
「お。当たらずとも遠からずだな」
髭ぼうぼうの人はにやりと口元をほころばせた。
「俺様、かつて棺に封じられて隠されたアイテリオンの魔人とアミーケを交換しようと思ったわけよ。さっきお前に使ったオリハルコンの心臓を仕込んで魔人どもを自由にして、味方にしてからアイテリオンのそばに送りこもうって腹さ。アイテリオンは護衛が欲しいもんだから、渋々交渉に乗ってきてる。そしたらさ、なんと赤毛の妖精たちが方舟に封印されてる魔人を助けてくれって泣きついてきてさぁ。しかしまさかその魔人がおまえだったとは……どういうことよ、ぺぺ」
「ぺぺ?」「おじいちゃんが?」
妖精たちが驚く中。俺は手短に兄弟子様に事情を話した。
自分が遠い未来に永久凍結から解かれ、過去へ遡ったことを。
「それでアミーケはおまえを封印させたままでいいって言ってたのか」
「はい。アミーケは俺に言いました。もし凍結封印が解かれた暁には、隣の泉に飛び込んでやるべきことを成せと」
「俺のアミーケ、最高だな」
兄弟子様は俺の肩をぐっと抱いた。
「俺もアイテリオンに返される魔人たちの中に混ぜて下さい。必ず、アイテリオンを倒します!」
「おう、それはたのもしいな」
「任せてください! あ、それから……」
ここで俺はようやく、忘れかけていた人をもうひとり思い出した。
「あの……お師匠さま……は、元気ですか? メキドの宮廷のうさぎは、ヴィオが好きにしてるんですよね?」
「ん? ハヤト? ああ。えーと」
兄弟子さまはお茶を濁すような笑いを鼻からすんと出した。
「会わない方が……いいかもなぁ」
「会わせてください!!」
「その前に、服着ような、ぺぺ」
「あ」
「どうしておまえは俺と出会う時はいつも、すっぽんぽんなのかねえ」
こうして俺はエティアから、あの霊峰ビングロンムシューの温泉の国へと急行した。
利用した乗り物は、ポチ四号。エティアの東西を一直線に結ぶ大鉄道だ。妖精たちは苦しいこの六年の間にもこつこつと、俺たちにとって役立つものを作り続けていた。
半日ほどで俺が永久封印された土地、ファイカにつくと。兄弟子様は、廃院へと俺を案内してくれた。しかし心なしか、その足取りが重い。
どうしてだろうといぶかしむ俺の目に飛び込んできたのは……。
『ハッピーモフモフランド☆』
けばけばしい色合いの看板と。
ぽんぽんひっきりなしに空に打ち上げられる花火と。
ずらりと並ぶ屋台と。
たくさんの観光客と。
向こうにかいま見える草地に溢れる、うさぎ。うさぎ。うさぎ……
そして。
「なにこれ……」
「いやな、ぺぺが封印されて二週間たつんだけどさ。ハヤトのやつ、メキドの王宮に集めてたうさぎを無理やりヴィオからとりあげて、全部ここに移動させて……墓守り始めたんだわ。ヴィオはかんかんだぜ」
「墓守り?!」
――「さあ、旅にはつきもの、うさぎ印の携帯水筒はいかがっすかー。うさぎ印の温泉饅頭もうまいっすよー」
なんだかとても懐かしい、聞き覚えのある声が聞こえる。
――「ハイ、お嬢ちゃん。チケット買ってくれてありがとねえ。風船はサービスだよぉ。入場ゲートはこちらでーす」
看板の真下で、客に入場券を売りまくっている者の姿があった。そいつは顔にべったり白粉を塗り、赤と黄色の鮮やかな二色の衣装を着込んだ、看板以上にけばけばしい……
――「うさぎの餌は中にいる赤毛のお姉さんからご購入くださーいっ」
ピエロ……だった。
「さ、見たな。じゃ、帰るぞ」
「えっ?」
「ハヤトの姿を見ただろ? もういいだろうが」
「ええっ?! も、もしかしてあのピエロが?!」
「話しかけても無駄だぞ。会話が成りたたない。ぺぺが死んで、あいつの心はこわれちまったんだ。あいつにはもう――」
どういうことなんだとみるみるこわばる俺に。兄弟子様は悲痛な顔でかぶりを振った。
「誰の言葉もきこえない」
お読みいただきありがとうございます><
魔人改造がどんどん進んで行き着くところまでいった感じですよね^^;
未来のツルギ島でぼけぼけ隠居さんになるまで、まだバージョンアップとかあるのかどうか……
トロイの木馬的ぺぺ、一体何を企んでいるんでしょうね^^
お読みくださってありがとうございます><
ペペ的には最悪ですが、状況はたぶんこれから好転するんだと思われます^^
ぺぺの奮闘にご期待ください^^
循環器系まで詰め替えられてもはや原型をとどめていないペペさん^^;
自由な魔人となり、隠し玉かトロイの木馬のように送られる敵地での
行動が楽しみです^^
別の意味で原型をとどめていないお師匠様・・・
お気の毒?それとも深慮遠謀?
お師匠様と大量のウサギさんたちのこれからも楽しみです。
いつも楽しいお話をありがとうございます♪
それとも状況が悪く成ったのかな?
お題:外せない旅先での楽しみ
うさぎ印の温泉饅頭……。
なんか商売はじめちゃった師匠ですが。うさぎ印はたぶん登録商標とったんでしょうなぁ……。
私の楽しみは地域の名産品を買うことです^^♪