Nicotto Town


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自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・141

【魔界の門】

 ベラヌール監獄は、朝日に輝く湖を背に堅牢な姿を見せていた。ロラン達が門衛に近づくと、彼らは無言で道を空けた。町を治める法王ハミルトに言い含められているためだ。
 ハミルトは、ロラン達がハーゴンに近づく手がかりを探すためにベラヌールの町や施設を探索することを認め、決して邪魔だてしないと約束していた。直接手は貸せないが、そうすることでロラン達に協力してくれたのである。
 静けさが漂う通路を奥へ進み、3人は結界独房の前に来た。ロランが牢屋の鍵で扉を開け、ランドがトラマナを唱える。
 魔法銀でできた扉を開けると、金色の波打つ光が壁となって立ちふさがった。しかしトラマナの効果で、無傷でロラン達は通り抜ける。
「あんた達は……」
 鉄格子に遮られた小窓から湖を眺めていた、髭面で禿頭の屈強そうな黒い囚人服の男が、驚いて3人を見た。部屋は狭かったが、清潔だった。簡素な寝台と小さな机があり、無聊を慰めるための数冊の本と帳面、ペンが置いてある。
「看守でないことは確かだな。この独房を破るとは、ただの冒険者じゃなさそうだ」
「僕達は、ロンダルキアの道を探しています」
 率直にロランが切り出した。
「あなたはその道を知ってしまったために、ここに閉じこめられたのではないですか?」
 男はあっけに取られてロランを見ていたが、やがて鼻で笑った。
「余計な前振りをしないのはいいな。話が早い。その通りだ」
 男は寝台に座り直した。
「――俺はベラヌールの異端審問官だった。ハーゴンがロンダルキアに居を構え、魔物を操って世界を滅亡せんともくろんでいる……この話は数十年前から、ベラヌールに密かに伝えられてきたことだった。かの大天才ハーゴンも、破壊をもたらす神を降臨させる準備を整えるのに、そこまでの時間がかかったってことだ。
 だが、それがいよいよ現実になろうとしている。ここ数年で邪教団の活動が活発化し、先だってはムーンブルクが滅亡した。しかし法王はハーゴン討伐の兵を出そうとしない。ならば自分がと、俺はロンダルキアの山へ侵入する道を探し……運良く見つけられたのさ」
「それは、この町にある。そうですね?」
「そうだ」
 ルナの鋭い問いに、男は微笑した。
「――法王室の執務机の真後ろに、ロンダルキアのふもとへ通じる隠し扉がある。そこは強力な結界で封印されていてな。トラマナで通過したのはよかったが、旅の扉のあるほこらを抜けたとたん、魔物に襲われてな。重傷を負って動けずにいたところへ、御用となったのさ」
「法王の部屋に……」
 ロランは一杯食わされたような気持ちと、秘密の旅の扉を常に背負うハミルトの覚悟に感心した。ハミルトは、いつロンダルキアの魔物が旅の扉を通じて町に襲ってくるかわからない場所を、ずっとその背で守ってきたのだ。神の代弁者として、聖職者として町を守ろうとする強い心があってこそだった。
「法王は、俺のような蛮勇がむやみにロンダルキアへ登り、魔物の犠牲にならぬようにと、あえて通じる道を秘密にされている。ハーゴンがこの世から消えるまで、俺は口封じのため、ここに幽閉されているのさ」
 男は乾いた笑いを浮かべた。ロラン達は痛ましいまなざしで彼を見た。
「――必ず」
 ロランは胸に手を当てて言った。
「僕達が、ハーゴンを止めて来ます。その時は、あなたもここから出られるでしょう」
 男はしばし3人を見つめ、「頼んだ」と、うなずいた。 


 法王の間を訪れると、早朝にもかかわらず、法王ハミルトはきちんと正装して執務机にいた。ベラヌール監獄から報告を受けていたのだろう。ロラン達を見て、何もかも心得たようにうなずく。
「きっといらっしゃると思っていました。昨日からそんな予感がしていたものですから。早起きしたかいがありましたよ」
「では、僕達が来た理由もお分かりだと思います。そこを通してくださいますね?」
 ロランが言うと、ハミルトは執務机から立ち上がった。
「もちろんです。見送りは私一人だが……お許し下さい」
「そのお気持ちだけで十分です。むしろ、その方がいいわ」
 ルナが不敵に微笑む。そうだねえ、とランドも指先で頬を掻いた。
「案外、敵が強くていったん戻って来ちゃうかもしれないし」
「はははっ」
 ランドの冗談に、ハミルトは朗らかに笑った。
「もちろん、いつでもお戻り下さい。ロンダルキアの洞窟の規模は果てしがないと聞きます。いくらあなた方といえども、たやすく攻略はしがたいでしょう。気兼ねなく通行できるよう、あなた方が発たれたら、ここは私も含めて人を置かぬようにします」
 そう言うと、ハミルトは背後の壁にある小さな十字形のレリーフを押し込んだ。鈍い音がして、壁が両脇に開く。魔法銀の格子戸と、その奥に続く結界路が見えた。
「ご武運を。私どもは、この地から殿下方の勝利をお祈りしております」
 祈りの仕草をするハミルトに、ロラン達は感謝をこめて礼を返した。




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