Nicotto Town


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自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・142

 結界を抜けると、薄暗い小部屋に青白い光の渦があった。これが、かつてハーゴンが開いたという旅の扉だ。
「行くぞ……」
 ロランは二人を振り返る。ランドとルナはうなずき返した。ロランは息を吸いこみ、旅の扉に足を踏み入れた。
 軽く目が回るような感覚がした瞬間、薄暗い堂内に立っていた。ロラン達が立つ周囲を、金色の波打つ光が覆っている。
「きっとベラヌール法王庁がやったのね」
 旅の扉を多う結界を見て、ルナが言った。
「魔物が簡単に入ってこられないようにね」
「だろうな……ランド、頼む」
「うん」
 ランドがトラマナの呪文を唱えた。結界をすり抜けると、何もない壁が3人を無言で迎えた。
「扉がないわ」
 ルナがいぶかしんだ。狭い堂内は白い石組みの壁だけで、出口らしきものが見当たらない。
「なんだか、ラゴスさんがいた牢屋みたいだねえ」
 密室で姿をくらましていた盗賊ラゴスを思い出し、ランドが軽く笑う。そうか、とロランは目を見張った。
「隠し扉があるんだ」
 外部からの侵入を防ぐことはもちろん、万が一法王庁から結界を突破されても容易に祠から出られないよう、扉を隠したに違いない。ロラン達は注意深く、その場から手探りで壁を調べた。
「あった! これだ」
 ロランが、石組みの一つに法王室で見た十字と同じ、小さな浮き彫りを見つけた。そっと押すと、壁の一部がからくりによって鈍い石ずれの音を立てながら両側に動く。
 闇に慣れかけた目が朝の光を捉え、ロラン達は目を細めた。
 祠の外は深い森が広がっていた。ランドが魔法の地図を広げる。現在地点を示す羽根ペンの幻は、ロンダルキア台地のすぐ南東のふもとを示していた。
「どうやら、この森を西に抜けると平原に出るみたいだよ」
 ランドが地図をしまおうとした時、「誰っ?」ルナが背後の気配に気づいて振り向く。キ、と弱々しい泣き声がし、薄紫色の小悪魔が祠の影でびくりと身をすくませた。
「お前……グレムリンか?」
「い、いじめないでおくれよう」
 グレムリンはぱたぱたと背中の小さな翼を動かし、ふわふわと飛びながらロラン達に訴えかけた。
「あなた何者? ハーゴンの密偵?」
 ルナがいかずちの杖を構えると、グレムリンは短い両手で顔を覆おうとする。
「ち、違うよう。おいら、落ちこぼれだから、誰にも相手にされなくて……行くところがなくて、ここに住んでるんだ」
「それはかわいそうに……」
 ランドが同情すると、ルナがきつい目で彼を見返した。
「何言ってるの? 相手は魔物よ! もしかしたら私達をだまそうとしているのかもしれないわ」
「そうなのか?」
 ロランがまっすぐな目でグレムリンを見ると、グレムリンは舌を出したままの滑稽な顔で力一杯首を振った。
「そんなことしないよう! お願い、こ、殺さないで……」
 怯えてふるえる姿に、嘘はなさそうだった。ロランは背の剣に回しかけた手を下ろした。
「危害を加えないなら、僕らも何もしないよ」
 魔物に努めて微笑みかけ、反論ににらみつけるルナを視線でなだめる。グレムリンはほっとしたようだった。
「ねえ君、ここに住んでるんだったら、ロンダルキアに登る道を知らないかい?」
 やや前屈みになって視線を合わせ、ランドが尋ねる。グレムリンはおどけた目をあちこちに巡らせ、えーとえーとと繰り返した。
「おいら、見てない。ハーゴン様がおいら達を召喚したあとは、ロンダルキアはもとどおり。岩山の門は、岩山のまま」
「ハーゴンが邪神の像を高く掲げると、岩山が割れたって賢者クラウスは話してたわね」
 やや警戒を解いたルナが重ねて尋ねた。
「どのあたりのふもとかわからない? 魔物はそこから地上へ進出してくるんじゃないの?」
「う、おいら達は悪魔神官達が作った魔法陣から出てくるの。岩山の門は使ってないの」
「じゃあ、各地から生け贄にさらって来た人達はどうやって神殿まで運んでるんだ?」
 ロランの問いに、グレムリンは青ざめた顔色をさらに白くした。
「ホークマンやガーゴイルみたいな、飛べるやつらが袋に入れてお山の上まで運んでく。にんげんはラリホーで眠らせてるから暴れない」
 グレムリンの話からその様子を想像して、ロラン達は痛ましげに眉をひそめた。
「わかった、もういい。いろいろ教えてくれてありがとうな」
 ロランが礼を言うと、グレムリンは頬を赤くして目をぐるぐる回した。
「おいら、お礼言われたの初めて! う、うれしい、うれしい!」
 すっかり浮かれてキィキィ鳴きながら祠の周りを飛び回るグレムリンを後に、ロラン達は森を抜けるため西へ歩きだした。
「魔除けが施してあるのに、そこへ居着くなんて。魔物でも良い心を持ったら、何かが変わるんだろうか?」
 歩きながらロランが疑問を口にすると、ランドがうなずいた。
「そうだね。竜王のひ孫だって、魔王なのに全然怖い気がしなかったよ。魔物もたまには、心変わりすることもあるんだろうね」
「反対に、人間から魔物に成り果てたものもいるわ。……ハーゴンや、邪教の神官達みたいに」
「ああ……」
 ロランはルナの言葉に、それ以上言えず口をつぐんだ。人間と魔物の違いは何なのか。見た目や能力の差は歴然としている。だが、根っこのところでは何かでつながっているのではないか。
 例えば、魂という存在が。
(魔物は破壊を行うのが当たり前だ。でも壊す力は、僕らも持っている。力の使い方の向きが違うだけで、悪と正義に分かれてしまう。僕らにとって、人々の命を守るために戦うことが正義なら、魔物の……ハーゴンの信じる正義って、何だろう?)




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