アスパシオンの弟子83 七一零四(後編)
- カテゴリ:自作小説
- 2016/02/05 22:29:23
そんな自分にいらつきやさぐれて、俺は「僕」から「俺」になった。
すっかり嫌われたと思ってたのに。
二十年後、アイダさんのお葬式にこそっと参列したら、俺宛ての遺言状を街の介護課の役人から渡された。
あの文面。いまだに一言一句覚えてる。
『ピピ様。あなたを傷つけてしまったこと、今でも大変申し訳なく思っております。
あのとき。私はおのが寿命があとわずかであると悟り、どうしてもおのれを抑えることができませんでした。メニスは晩年になりますと、急激に老いて醜くなるのです。ですから私は、そんな姿に変わり果てる前に、あなたの眼に、私が造ったあの眼に、あなたとごく普通の夫婦のように睦み合う私の姿を焼き付けたかったのです。卓球をする私や、ウサギを抱いて眠る私の姿と共に。
私は醜くく老いさらばえていく姿を、愛するあなたに決してお見せしたくはありません。ですからあなたのもとを去り、隠れました。今は男性として暮らしております。
ひどい勝手と無体をいたしましたこと、決して許していただけるとは思っておりません。ですがひとつだけ……』
ちくしょうわかんない。
わかんないよ。
女心なんて……
『ひとつだけたってのお願いがあります。どうか我が弟子ソートアイガスを、引き取っていただけますよう……』
わかんない。
わかんない。
なんで俺を独りにするんだよ。何で最後っ屁かまして逃げるんだよ。
しわくちゃの婆ちゃんだって、いいじゃないか……!
バカ。バカ!
責任、取らせろよ……!!!!
俺はアイダさんの棺にすがってわんわん泣いた。涙が出なくなっても泣き続けた。
そして願った。
もう一度。会いたいと……。
それから数十年後。
俺の願いは、叶えられた。
なぜなら魂は輪廻するからだ。
アイダさんの魂は俺のことを忘れずに覚えててくれたのかって疑うぐらい、「彼女」のアプローチは猛烈だった。
『ピッコちゃん! 私をお嫁さんにしてっ!』
赤ん坊のころから知ってるその子。生まれたての姿をひと目見るなり、誰かわかった。青みがかった虹色の魂はとても見覚えのあるものだったから。
まさかの押しかけ女房は、俺が命をかけて守っているメキド王家に生まれてきた。もう狙って転生してきたとしか思えない。俺の望みを叶えてくれるために、帰ってきてくれたとしか。
しかし「彼女」は赤子にしてすでにおそろしくおてんばで、このままでは完全に尻に敷かれる危機を感じた。
絶対結婚したいけど、また強引に喰われるのは嫌だ。それだけはごめんだ!
てことで俺は「彼女」の守り役だったのを最大限利用し、俺による俺のための俺渾身の奥さん育てるぞ計画を展開。少しずつ根気よく、俺好みになるよう教育してみた。
おかげで「彼女」は十五年の後、天真爛漫でかわいらしい箱入り奥さんになった。魔力はやっぱりほとんどなかったけど、「彼女」は俺の癒し。一体どれほどの力を与えてくれたことか。
ああもう。俺のレティシア、最高っ……!
「なに身悶えてるんですか、ピピさん。女の子の腕の中でいやらしいですよ。僕の腕の中に来なさい」
う。変態ウサギ魔人。
ウサギの着ぐるみ頭かぶって俺になりきってる我が師が、むっつり不満げにフィリアから俺をひったくる。この状態、どうしたら治るんだろう。
この人も、アイダさんや奥さんみたいにウサギがめっぽう好きだけど……。
い、いや違う。まさかそんなことはないよ。
でもむさいおじさんになっちゃった、六翼の女王っていう実例も……
い、いやいや、ないない。ないって。
俺の奥さん、こんな変態じゃない。絶対違うよ。
――「あ、エリクさーん」
しゅかしゅか走るポチ2号は、ほどなくエティアとの国境付近のジャンクションについた。
プラットホームで待ち構えていたのは、兄弟子さまと三基の重そうな棺。
「フィリア! 大丈夫なのか? 無理はするなよ」
運転席に来た兄弟子さまがフィリアを気遣いながら、ウサギな俺を呼ぶ。
「準備はいいな、ぺぺ」
「はい、兄弟子様!」
俺はヴィオと着ぐるみ魔人の我が師に、ウサギの扱い方についてひと通り指示を飛ばし、それから人の姿に戻った。最後尾の車両に棺が積み込まれる。三基並ぶその端は空っぽだ。
「蓋を閉めたら封印の力が働いて意識が落ちる。開封されてすっかり意識が戻るまで多少の時間がかかるはずだ。気をつけろ」
「了解です」
「がんばるんだぞ、ぺぺ。俺も最大限援護する」
棺の中に我が身を横たえる。どずんと蓋が閉められて訪れたものは、暗闇。車両の扉が閉じられ、ごととんごととんと、再びポチが走り出す。
――「うわあ、なにあれ!」
かすかにヴィオのきんきん声が聞こえてくる。さっそくウサギたちの効果が出てきたようだ。
ウサギの群れの中に俺が作った小さな箱を置いておく。ヴィオと我が師に指示したのはそれだけ。でもその箱は、水鏡の里の寺院にそびえるあの魔力の柱と同じ原理のもの。
大地に散らばっているものたちが。俺が仕込んできたものたちが反応しているようだ。きっと追いかけるものが出てきたんだろう。
ごく近くで音波を受け取るとつられやすいからな。
「アイテリオンのために涙をこぼした、数多の人々のために……一緒に戦ってくれた、みんなのために……」
闇の中で、首から下げている袋をぎゅっと握りしめる。俺の切り札。この手でついに造り出した破壊の目。もちろん、無機能膜なしの超一級品だ。
「俺、がんばるよ……トル。サクラコさん。エリシア。カイヤート。フィリア。アミーケ。兄弟子さま。ソートくん。ジャルデ陛下。妖精たち。レモン……」
みんなの名前を呼びながら目を閉じる。
次に目を開ける時には、たぶん目の前に奴がいる。
「そして愛打さん……俺のレティシア……だれよりも愛する君のために」
奴を絶対にこの眼に封じ込める……!
棺の力が作動して、重いまどろみが降りてくる。
「あ、忘れてた。ハヤ……ト……」
俺の意識は沈んだ。
深い深い眠りの中へ。
ご高覧ありがとうございます><
ぺぺさん、人生最大の危機の巻でありました。
メニスにはことごとく好かれてしまうぺぺです。
レモンちゃんを筆頭に妖精たちもいるとはいえ、あれも普通の人間ではなく^^;
一般女子とまったくといってよいほど出会いがなかったのは
ちょっとだけ不幸だったかもしれません。
ご高覧ありがとうございます><
「ボクとアイダさん」という題名でのほほん島生活物語とか書いたら楽しいかも、
という黒い野望が一瞬出てきたぐらいですが、いつか本当に書いてしまうかもしれません;
五百年がまんしてやっと一回だけ想いをとげたアイダさんは、
精神は「乙女」なのではありますが……なにぶんアイテ家流の調理方法ですので……(汗)。
手始めに熱線銃で衣をじゅっと焼かれたらしいです@@;
丸焼きにされたぺぺ南無(合掌)
「40秒で支度しな」はとても使えますよねノωノ!
大好きですw
これからはどうするのですかね。
やはりペペさんには女難の相があるようで・・・^^;
遠い記憶と遥かな時間を一緒に抱えて
ペペさんはいよいよ本丸へ。
ペペさんとペペさんの仕掛けが目指す先で
起こすこと、とても楽しみです。
いつも楽しいお話をありがとうございます♪
「ラピュタ」で好きなセリフは「40秒で支度しな」です。
応用範囲広いです^^
スタジオジブリができる前の作品、「ナウシカ」に出てくる
「今使わずに、いつ使うのだ!」も大好きです。
こちらも色々と応用が利きます^^;
お題:好きなジブリ映画
愛打さんはアニメがかなり好きそうです。
「蒼の豚」 鉄の竜ロンティエに乗る豚男の矜持を描く渋い冒険ロマン作品?
「ばるす!」 天空の島ヘイデンをのっとり世界征服をたくらんだプンスカ大佐の華麗なる戦記?
私は「紅の豚」が一番好きです^^ポルコロッソが本当に渋くてかっこよく、
「カサブランカ」を彷彿とさせる時代風俗・雰囲気が大変すばらしいです。
ばるす!の「ラピュタ」はもちろん、ムスカさま万歳! なのであります。