Nicotto Town



アスパシオンの弟子84 分霊(中編)

「あなたは魔人ではないと思いますが? それにぺぺさんと名乗りましたがそうではありませんね? アスパシオンのペペは時の泉に封印されていますから、あなたは全くの別人でしょう?」

 アイテリオンがピンクのウサギ頭の変態を前にして、すん……ごく嫌そうな顔で眉をひそめている。

「どなたかは存じませんが、勝手に私についてきてはいけません。メキドの摂政のもとにお帰りなさい」
「いやです。どうか僕を統制してください。僕は魔人のぺぺです」

 お……落ち着け俺。
 深呼吸だ。
 今目の前にいるピンクのウサギ頭のこいつは、我が師ではない。
 我が師の理想とする、我が師を深く深く愛する超きもいぺぺ、である。すなわち我が師が都合よく思い描く、我が師の望み通りに動く超気持ち悪い物体だ。
 こいつが何を企んでいるのかは、一目瞭然。

 愛する我が師の仇打ち。

 そ、それしかない、よな?
 き、気持ちは……わかる。わかりたくないけどわかる。いやでも俺は、ウサギ軍団を抱えてるヴィオを見張ってろと、ウサギのピピの姿でこの人に言ったんだけど……。
 我が師の遺言パワーで念を押したはずなのに、きもペペの我が師への想いはそれにも勝るって……ちくしょうクソオヤジ! どこまであいつの理想の弟子を演じるつもりなんだよ!
 ああああ、背中がぞくぞくする。肌が粟立つ。これから死闘をくりひろげようというのに、完全に足手まといだ。ど、どうしよう。
 と、とりあえずきもぺぺをアイテリオンから離さないと。でないと俺の義眼のとばっちりくらっちまう。これ限界値ないから効果範囲広いんだよ。一緒に我が師の魂を吸い込んじゃったら目も当てられない。

「おい。魔人じゃないだろおまえ。嘘ついてアイテリオン様にひっつくな」

 我が師の肩をつかんで、ぐいと押しやる俺。ここは心を鬼にして、力ずくでも引き離――

「おだまりなさい」

 え?

『雷放て煌めきの精霊!』

 !?!?
 ばりばり? なに……? 今の炸裂音。
 え……?!
 俺、雷電散らしながら吹き飛んで……る? ちょ……ちょっと! ちょっと待……!!

「ほう? 少しは魔力があるようですね」
「少しでは、ありません」

 ひっ! ピンクのウサギ頭がこっちに右手突き出してる。

「ごらんください。絶対お役に立てますよ」 

 ていうか。俺、円柱に激突してびしゃっとか音たてたよ。ち、血が出ちゃったよ。銀色の血。やばいよ。オリハルコン入りってばれちゃうよ。おい! ちょっと! やめろピンクウサ――

『炎放て怒りの精霊!』

 ……。
 ……。
 ……。
 ……ぶほっ。あの……俺、魔人じゃなかったら瞬時に消し炭なんですけど……。

「ペピちゃん!」

 ああああ、カルエリカさんが心配してこっちに駆けつけてきちゃった。もうひとりの魔人マルメドカくんも走ってきて、俺を助け起こしてくれちゃってる。ひいい、炎で血が焼けて蒸発してよかった。なんとか正体ばれずにセーフ。
 だけど……

『氷放て嘆きの精霊!』

「ちょおおおお!」
「きゃあ!」
「うわあ!」

 ふっ……ふざけるなぁあああ! ピンクウサギ! 
 俺たち三人の魔人、瞬時に凍結?!
 ちくしょう! なんて魔力だよ。あいつ本気だしてるだろ!

『岩で貫け憤怒の精霊!』

 うがぁあああっ! 床から岩が突き出してきたぁああ! 刺さる! 刺さる!
 ……。
 ……。
 ……。
 ……げふっ!
 な、なんとか義眼は死守したけど……冗談きつすぎるぞ、ピンクウサギ!!

「四大精霊をいとも簡単に繰り出すとは。精霊とたくさん契約しているのですね」

 あ……魔力至上のアイテリオンの貌がころりと変わった。い、一目置いたってこと? 

「どうか僕を雇ってください」
「でもあなたはごく普通の人間でしょう? 私が統制できるのは魔人だけです」   
「え? それはおかしいです。僕は魔人のはずです」

 いやそこで、うーんとウサギの顎に手を当てなくていいから。
 マジメに考え込まなくても、魔人じゃないから。
 百パーセントちがうから。可能性ゼロだから。あんたは普通の人間だから!

「何か、勘違いをなさっているのでは?」
「いえ、僕はたしかに……まさか何かの拍子で人間に戻ったんでしょうか」

 いや、戻らないから。拍子レベルどころか、そんな奇跡なんて絶対ないから。
 あんたはもともと魔人になってないんだ、お師匠様。だからいい加減気づいてもとに戻ってよ……。

「うーん……わかりました。では僕を、もう一度魔人にしてください。今すぐここで変若玉(オチダマ)を出して、僕にください」    

 え。
 ち、ちょっと待て。なんでそうなる。そ れ は や め ろ。
 輪廻できなくなるんだぞ。永遠に、未来永劫そのむさいおじさんのままになっちゃうんだぞ。それにアイテリオンのいいなりになってしまうじゃないか。
 それは、絶 対 や め ろ。
 いや、やめてください。お願いします。ど、どうかそれだけは……

「なるほど。そうまでしてこの私に仕えたいのですか」
「だ……だめですアイテリオン様!」
「ペピ?」

 それだけは、絶対……

「こんなえたいのしれない者を魔人にするなんて、いけませんっ!」 

 命がけで阻止しないと! 
 お師匠様が変若玉(オチダマ)もらって不死身になったら、俺、永遠に逃げられないじゃん!! 我が師とラブラブ・禁断のびーえる生活なんて、冗談じゃないっ!!
 たしかに少々魔力があるぐらいではね、とアイテリオンが苦笑している。
 だ、だよね? 我が師はかなり魔力があるけど、こ、このぐらいのはメニスじゃざらにいるよね? わざわざスカウトなんてしないよね? 
 ホッとしかけた俺の耳に、ばりばり、と凄まじい音が割り込んできた。

「少々の魔力、ではありません」

 ピンクウサギの右手が発光し、あたりに一段とおそろしい魔法の気配が降りてくる。ウサギ頭の我が師は、こともなげにさらっと言ってのけた。

「大陸一の、魔力です」

アバター
2016/02/13 05:05
何を考えているのかな?




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