Nicotto Town


ま、お茶でもどうぞ


自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・155

 流れてくる黒煙を追い、二人が慌てて厨房へ降りると、扉を開けられたルナは「だめっ!」と叫んだ。
「来ちゃだめ、お願い!」
「だって、煙が!」
「魔物が出たのか?!」
 ランドとロランが口々に尋ねると、ルナはしとやかな頬を真っ赤にしてぶんぶんと首を振った。
「魔物なんかいないわよ! ああ、もう、見られちゃった。これから作り直そうと思ったのに……」
「え?」
 煙にむせて咳き込むルナを傍らに、ロランとランドはしげしげとテーブルを見つめた。部屋中に黒煙と焦げ臭いにおいと甘い香りがこもり、小さな食卓には3人分の皿と積み重ねられたパンケーキの山、イチゴのジャムに、よくかき混ぜたバターの壺、白いクリームで覆われたケーキが一つ。
「作り直すって、何をだ?」
 問いながら、ロランはかまどの上を見た。ルナは決まり悪そうにフライパンを指さす。肉が中で真っ黒に焦げていた。
「失敗って、これかい?」
 ランドがフライパンをのぞこうとすると、ルナはむきになって取り上げた。
「見ないでっ。ああもう、クリーム塗ってたらお肉焼いてるの忘れちゃった。お肉に申し訳ないことしちゃったわ……」
「じゃあ昼食は……?」
 ロランは、ひくっと頬をひきつらせて笑った。
「これよ。食料が限られてるんだから、今はこれ食べて。作り直そうと思ったけど、やっぱり備蓄に余裕ないし」
「う……」
「何よ、あなた達甘いもの好きでしょ?」
 固まったロランに、ルナはむっとして言う。それはそうだけど、と言いかけてやめた。だがルナが言うように、毎日食べる食料はこれだけと決めてある。その場であるだけ食べてしまうと、遭難した時などに大変だからだ。
 できれば塩気が欲しかったが、瓶詰のキュウリなど出したらルナに怒られそうだ。ロランは黙って椅子を引いた。隣で座りながら、ランドが「おお~」と感心する。
「おいしそう。ルナはお菓子屋さんになれるねぇ」
「ありがと」
 褒められて、ルナはまんざらでもなさそうにお茶を淹れた。
「でも、どうしてこんなにケーキを?」
 フォークを取りながらロランが訊くと、ルナも席に着きながら言った。
「私達3人の誕生日のお祝いよ。ローレシアの港で良い材料が手に入ったから、この機会にと思って。私達、今年で16歳になったでしょ。もし何も起こっていなかったら、ローレシアでは建国100年祭が行われていたし、私やランドも、ローレシアに行ってあなたに会えるはずだったのよ」
「あ……」
「忘れてた?」
 ルナが上目遣いに見つめてくる。ロランは頬を指先で掻いた。
「あ、うん。ごめん。ローレシアでも難民や襲撃事件が増えてたから、そのことで頭が一杯だったんだ」
「ははっ、ロランらしいね。でも世が世なら……ぼく達、お祭りで会えてたんだよね」
 ランドも遠い目をする。ロランも笑みを消し、黙り込んだ。
 ロト王家にとって16歳という年齢は特別なものだ。始祖である勇者ロトがその年齢で大魔王を倒し、世界を救ったことから、王族は16歳を一人前とみなす。婚礼を考えるのはまだ先の年齢からだが、王家のものとして国政に従事し、国民のために働かなければならない。
 だからロランも、若輩の身ながら父とともに会議に参加し、そこでムーンブルク兵の悲しい報告を聞いたのだった。
 世界の危機に瀕した時、真っ先に立ち上がるべき戦士として教育されるために、7歳の時からランドとルナに会うことを禁じられた。それから長い年月を、二人に会えない寂しさに耐えて生きてきた。
(寂しかった。本当に)
 ずっと二人と旅を続けていたい、終わってほしくないといつも思ってしまうのは、もう二度とあんな思いをしたくないからだ。
「ばかだな、僕は。そんな大事なことを忘れていたなんて」
 ロランが自嘲気味につぶやくと、ルナは強気な目で笑った。
「何言ってるの。私達が会う会わないより、国の人達のことを考えて当然よ。そうじゃなきゃ、王族失格だわ」
「うわ、きついなぁ」
 失格の言葉にランドがぐさりとくる。
「ぼくなんて、ロランに会いたい一心で旅に出ちゃったのにさ」
「まあ、そうなの?」
 ルナが口元に手を当てる。
「ひどーい。ランドは国民よりロランが大切なのね」
「わあ、言い過ぎだよう」
 二人のやりとりに、ロランは吹き出した。
「はははっ。ルナ、あまりランドをいじめるなよ」
「あら、いじめてなんて。ランドがぽやぽやしてるからいけないんでしょ」
「ぽやぽやって……はははっ」
 おかしくて、ロランは声を上げて笑った。ランドとルナもつられて笑う。
「さあ、食べましょう。パンケーキがあたたかいうちに」
 ルナがフォークとナイフを取り、ロランとランドも笑顔でそうした。




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