Nicotto Town


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自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・159

「勇者ロトの血だけがそれをなし得るのは、なぜですか?」
 今度はランドが尋ねた。ルビスは答えた。
 ――ロトがこことは別の世界からきた若者であることは、すでに知っていますね。ロトは、他の人間にはない特殊な魂と宿命を背負って生まれてきた者です。長く魔物の群れに苦しめられてきた人間達の生きたいという強い祈りが、勇敢な男と慈悲深き女の生んだ子に宿りました。
 その時から、彼に流れる血筋に、人々の生を望む思いを乗せる光が生じたのです。人間は子孫をつないで、意思や、道具や、技を伝えていきます。勇者の血筋は、受け継がれることによって、魔と戦う力を伝えてきたのです。
「ロトは、その宿命を一度はうらみました」
 ロランは、炎の祠で太陽の紋章を得た時、勇者ロトが残したらしき碑文を思い起こしていた。そこで見た不思議な夢は、ロトが自らに科せられた宿命にうちひしがれた姿だった。
 ――血筋を伝えることを、私は強いません。
 ルビスの声には、いたわりがあった。
 ――なぜならロトも、あなた方も、それぞれの意思を持つ人間なのですから。ロトの血が魔と戦うさだめを背負うことは、すでに摂理に組み込まれていて、どうしようもないことです。しかしロトの血が魔王を呼ぶのではなく、魔が呼び覚まされた時に光り輝くもの。あなた方は、その最後の結晶……。
 ルビスの光が空間に満ちた。まぶしさは感じない。ロラン達は胸の奥底から、すべてを認められ、愛される喜びが湧き上がるのを感じていた。
 ――あなた方の手にあるのは、人には大きすぎる三つの破壊の力です。
 ロラン、あなたはロトの剣技と力を伝える者。
 ランド、あなたはロトの奉仕と犠牲の精神を伝える者。
 ルナ、あなたはロトの慈愛と慈悲を伝える者。
 三位一体となれば、あなた達にかなうものはこの世におりません。邪神官ハーゴンが降臨させようとしている異次元の存在ですら滅ぼし得るでしょう。
 しかし、人の心はもろい。大きな悲しみにはいともたやすく壊れてしまう。壊れた光の心は反転し、闇に変じるでしょう。たとえ勇者の子孫とあっても。……忘れないでください。私はいつも、あなた方を見守っています。心を強く持ち、けっしてくじけぬように……。
 空間から光が消えた。精霊が去ったのだ。ロランの手には、ルビスの守りだけが残っていた。
「行っちゃった。勝手なことばかり言って。だから神様はきらいよ」
「あはは、ルナは結局変わらなかったね」
 そっけなく言うルナに、ランドが笑いかける。ロランも微笑んだ。
「でも、精霊ルビスの伝えたかったこと、いろいろあったけど……一つしかなかったんだと思う」
「それって?」
 ランドも答えを知っているだろうに、うながしてくる。ロランは少し笑った。
「迷うな、ってこと。思えば、紋章達もそれぞれ僕らに伝えてきたけど、みんな本質は一つだったな」
「そうね。――自分の信じた道を迷うな。生きろ、って……」
「それが精霊の意思、ってことなんだろうね」
 ルナとランドも微笑む。ふっきれたように見えるのは、二人もまた、ここに至るまでにいろいろな思いを抱えていたからだろう。
 3人とも、旅に出た時から――いや、ロトの血筋として、王家として生まれた時から、自分に問い続けてきた。
 背負うものの重さと、それに折り合ってどう生きていくべきかを。
 迷っても、悩んでも、もし違う生まれ方をしていたらと考えても。今自分がここにある限り、生きて、前に進むしかないのだ。
「さあ、もう一度ロンダルキアに行くか」
 ルビスの守りを握りしめ、ロランは明るく言った。
「今度こそ、最後まで登り切ろう」
「おー! 頑張るぞ~」
「そうね、行きましょう!」
 ランドがのんびりと気勢を上げ、ルナも力強くうなずく。
「ああ、行こう!」
 ロランは先に立って、もと来た階段をのぼり始めた。すると、数段進んだところで最初の階層に着いた。行きに長くかかったのは、訪れる者の心を試すためだったのだろうか。
 しかし時間は相応に経過していたらしく、祠を出ると西の空が茜色に染まっていた。
 船に乗りこむ前、ロラン達はしばらくの間、祠の前で夕焼けを見つめていた。最後になるかもしれない空と海を、目に焼きつけておきたかった。




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